愛に飢えてる化け物は運命を拒絶する
ユミグ
第0話
新たな世界ができた。
古き世界が全て消滅し、私の世界が。
それは私の愛が全て消滅した証。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!」
絶望した。失望した。
何故、こんな事になってしまったのかと、
己自身を呪った。
「ふふ♪楽しみ♪」
そんな私の横で、楽しそうな声音を上げているのは悪魔。
悪魔は私自身でもある。だから唯一、こちらに…新しい世界に連れて来れたんだろう。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」
そんな悪魔に構わず、絶望の雄たけびを上げる私は、私の失敗を思い出す。
私は楽園という場所で創造された者。ラムウ様という方に創って頂いたのだ。
ラムウ様の目的は1つ。
イヴである私と、アダムと動物、そして果実を創り出す事。
それは世界の絶対であり、理。
始まりがいつなのかは分からない。
けれど、始まりがあった。
アダムとイヴ、動物と果実を産み落とし、新たな世界を創り出す。
そして、道筋通りにアダムとイヴが愛し合い、食してはならない果実を食べ、世界から追放され、アダムとイヴは消滅する。
そして追放された世界、楽園は地球のように生まれ変わる。
それの繰り返し。
私は何代目かのイヴ。
新たな世界を、人間の為に創られたイヴだった。
けれど、どこかで不具合を起こしたのか、創り方がおかしかったのかは、今の私でも分からない。昔の私は一切感情が育たなかった。
そのせいで、アダムと愛し合う事はなく、動物と野原を駆け巡る事もなく、果実を愛でる事もなかった。
私が楽園でした事といえば、創られた時に果実へと寄りかかった事。
そして…
一人で果実を食べた事。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」
今のような悲鳴を上げる私は、一人で果実を食べ、一人で堕ちてしまった。
それが二度目の過ちだ。
一度目の過ちは感情が育たなかった事。
そうして堕ちてしまった私は、いつかのアダムとイヴが堕ち、楽園が姿を変えた世界、地球に落ち、なぜか人間の腹で生まれ、人間の女ヒナノとして生まれた。
堕ちた際、私の魂は散った。粉々に。
散った魂は様々な種の主となっていた。
ラムウ様と最期にお会いした時に言っていた言葉を鵜呑みにするならば、イヴとしての肉体の“器”がアダムの世界にはなく、先代のアダムとイヴがいた楽園である地球まで落ち、器を手に入れたという事になる。だから私は地球で生まれたんだと。そうするしか方法がなかったんだと推測している。
その時からの私は、アダムに会うまでイヴを忘れ生きていた。
罪を…忘れていたんだ。
人間として生き、地球にいた私はある時、召喚された。
アダムの世界へと、楽園がなくなり、地球のような世界にならなかった、私のアダムの世界へと。
召喚された世界には魔法があり、皆、魔力があったけれど、私にはなかった。
当時、魔力がないのは地球で生まれたからだと思っていたけれど、違う。
魂がバラバラに散ったせいで魔力を失っていたんだ。
召喚された世界で私は様々な者達と関り、時に大切な友となった。
今の私にとっては不思議ではないけれど、当時の私には不思議に思う出来事が起こった。
死なないのだ。
なにをされても、餓死直前になっても、刺されても、燃やされても。
死なず、年を取らない私を不思議に思い、そして旅に出た。
友だった者達も死に、一人で旅を続けていく中で出会った“唯一無二”。
種族の王として存在する者がいた。今なら嫌という程、分かっている。あれらは私が堕ちた時に散らばった魂の欠片たち。
私が堕ちた時に魂が飛び散り、種となる王たちとなった。
そしてそれらを全て、回収する事が私の正しさ。世界の正しさ。その正しさを全うすれば楽園が出来、アダムと果実を食べる運命へと流れ着くはずだった。
黒。
魔王様を表すのなら、黒。
私もそのように言われる事がある。黒目に黒の髪色は稀有な存在であると。が、そんな私よりも黒の魔王様を見て、立ち尽くしてしまった。
瞳も黒、私と同じくらいの長さがある髪色も黒。服も黒。靴も黒。
全てが黒く、その黒さは深淵を覗いているのだと錯覚してしまう程の深い深い……
黒だった。
「んんっ!?」
唐突に深いキスをした後、魔王様はこう言った。
「気持ち悪くはないか」
意味がありすぎるような質問をされたのだ。
初対面でされるキスは嫌か。という意味なのか、下手だったか。という意味なのか、それとも別の意味なのかは当時、分からなかった。
「悪くないです?」
クエスチョンマークが頭の中だけでなく、言葉にも出てしまったのは許してほしい。だって分からないのだ、意図も、意味も。
そんな初対面から始まった魔王様との日々はとても緩やかだった。
なにか表立つ必要もなく、魔王城と呼ばれる古ぼけた城にある大量の本を読み漁れる毎日。体のことについて調べていた私にとって本を読める日々というのはとてもありがたかった。
穏やかで緩やかな空気がそこにはあった。
魔王様は無口だ、とても。
だが、それが心地よかった。
思い返してみても、今の私が想っても。
話せば返ってくる返事を楽しみにする日常は、とても安らぐ日々だ。
私たちの関係性も緩やかに変化していった。
魔王様の執務室に行き、その空間で本を読む毎日に変わり、いつからか私の部屋がなくなり、魔王様の部屋で寝て、起きる毎日。
そして、私が眠っていても抱きかかえて移動している魔王様と常に傍にいる毎日に変わった。
緩やかなのは日常だけではない。
「無」に見えてしまう魔王様の感情も緩やかに変化していった。
「ヒナノ」
「はい」
「妃となれ」
「はい!?」
「私が抱けるのはお前だけだ、これからも」
魔王様の魔力や威圧、畏怖などの力が無意識に漏れ出ている、それは皆が体感している事の1つ。私以外が体感している事。
魔力がないからそんな事も分からない、だからこそ私はここにいられる。当時はそう思っていたが、今の私は違う答えを出せる。
楽園の者だからだ。だからそんなことが分からない。通用しないんだ。
魔王様に近付ける者は極僅か。
四天王と呼ばれる魔人たちくらいだ。
彼らもまた、魔力が高い。その為、魔王様ほどではないが、近寄れる者も、触れられる者も稀有。
けれど、魔王様みたいに威圧や畏怖が漏れ出ていない為、関りは持てるが、魔王様の側にいると気分が悪くなってしまう。四天王でさえも。
だからその言葉の意味は分かる。
魔力も持たず、威圧も畏怖も分からない私だからこそ、私だけが魔王様に触れ、同じ空間にいれるんだと信じていた。
「認識を変えろ」
「わ、分かりました」
「魔王の妃はヒナノだと、心に刻め」
「は、はい」
好きになった。
魔王様の傍にいる間、穏やかな日々を過ごすうちに好きになっていた。
でも、そんな事は言わない。伝えないと決めている。
だって、怖い。
とても怖いんだ。
私が何者なのか分からなかった当時、私は私に怯えていた。
「お前の傍にいたい」
「…」
「そういう事だろう」
「分かりません」
「早くお前の口から聞きたいものだ」
「…」
必死に隠しているのに、暴こうとする魔王様との日々に変わった。
「私を見ろ」
「嫌です」
そんな愛の言葉を吐いてくれた。
でも…拒絶した。
だって怖い。
怖いんだよ。
私という化け物が怖い。
「私を見ろ」
「嫌だ!」
「私は強い」
「知っています」
「大丈夫だ」
「……っっ、……デズモンド様が!」
「…」
「だ、大好きです!愛しています!今更だけど、ず、ずっと傍にいたいです!」
「私もだ、お前を一目見た時から愛していた」
その時に呆然と立っていた出会いの顛末を教えてくれた。
キスをした際、魔力を流しても死なないかどうか実験したと。そんなところも素敵です魔王様。
デズモンド様は唯一無二の魔王。
寿命のない人。
私と同じで。
だから、一生一緒にいられると喜んだのは、素直になったこの時から。
良かったって。私も寿命がないならデズモンド様を一人にしなくていいって。これからずっとデズモンド様と生き続けられるなら良かったって。嫌気が差していたこの体に初めて感謝した。
「デズモンド様、今日も幸せです!」
「幸せだ」
「一緒ですね」
「一緒」
こうして私の人生は続いていく。
愛する伴侶と一緒に。
なのに…
「デズモンド様!!!」
「ヒナノ!」
私はまたしても愛を失った。
デズモンド様と出会って1万年記念日だと喜び、お祝いをしましょうと提案する私に嬉しそうに応えてくれるデズモンド様と私は一瞬にして悪魔達に囲まれた。
ナインとエイスという、デズモンド様が契約していた悪魔ではない。
見たこともない悪魔達に。
それも大量に。
数千という悪魔達に囲まれ、何故か攻撃された。
1万年経ったって私は相変わらず魔力なしだ。だから、大人しくデズモンド様に守られていた。デズモンド様は唯一無二だ、だから大丈夫だと、どこか心の余裕さえあった。でも、私は大切な事を忘れていたんだ。魔力というのは無尽蔵ではないと。唯一無二の魔王でさえ、魔力の限りがあると。
「ふざけるなよ!」
「デズモンド様!!!」
「ヒナノ!ヒナノ!」
デズモンド様から贈られた守りの装飾を肉体ごと壊された私の背後に一人に悪魔がやってきた。
そして…
「な、に?」
「っ、ヒナノ!放せ!!!」
切り落とされていない腕を掴まれ、デズモンド様の心臓に手を当てるように誘導された。
心臓をすり抜けて、ナニかを掴んだ感覚も。
どんどんと光が強くなってを眩い光が覆う。
「っっ、お前を愛している!いつだって!」
「わた、私も愛しています!デズモンド様!」
「ヒナノ!」
音のない音に支配された瞬間、
あの瞬間だ。
永遠の愛ともいえる、デズモンド様を失ったのは。
こうして私は魂を回収していた。回収させられていた。
そんな時に、天界へと行ける機会が訪れたんだ。
アダムと出会える機会が。
そして私は私を思い出した。
私を思い出して、魂を回収しなければならない目的も理解した。魔王様のような唯一無二の魂を、私の散った魂を取り戻さなければならない。
アダムとイヴが今度こそ、果実を二人で口にし、堕ちなければならないと。
だが、拒絶した。
私は過去にいたイヴではなく、感情が育ち、愛を知ったイヴとなっていた。そんな正しさはいらないと、アダムと、人の姿になった果実に説明したが、理解してもらえなかった。だから戦ったんだ。
どこまでも。
デズモンド様はいないけれど、アダムと果実、そして動物も一緒に一生一緒にいられる今が幸福だと、みんなを諭し、説得した。堕ちる未来なんていらないと。今、こうしてみんなで生きている今を永遠に生きていこうと。
でも………無駄だった。
「アダム!やめ!やめて!!!」
「お前が果実を食べたくないのなら我を取り込め」
取り込まなければならない魂は、私の散った魂だけでいい。それなのに、間違った事を言うアダムと果実に取り抑えられた。
「い、嫌だよ!私の魂を取り込むのはいいけれど、アダムのは…!絶対に嫌だ!みんなで一生幸せに生きようよ!」
「駄目だ」「無理ですよ」
「アダム!果実!」
「「それが世界の正しさ、世界の絶対、世界の理」」
私が堕ちた事でねじ曲がって植え付けられた「正しさ」を全うしようと、どんな形であれ「堕ちよう」としたアダムと果実に押さえつけられ、二人の魂と動物の魂を取り込まされた。
「いやだ!いやだ!いやだああああああ!!!愛してる!愛してるんだよ!」
「楽園に行けなくてごめんな、イヴ」
「どこまでも、お慕い、して、おります、よ、」
嫌だって、心から嫌だって拒絶しているのは私だけじゃない。
泣いて、悔やんでいる二人も嫌だと叫んでいる。
それなのに、世界に植え付けられた、私が一人で果実を食べたその罪が、二人に間違って植え付けられてしまった正しさを……
「いやあああああああああああ!!!!!」
間違いだと、説得する事は叶わず、
三人の魂を取り込んで、消滅させてしまった。
動物も、果実であるリクも、運命だったアダムも。
私の愛、全てを取り込み、消滅させてしまった。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!」
唯一、散った魂の中で取り込まなかった悪魔王と暗闇より深い暗闇に投げ飛ばされた。
肉体もなく、魂だけとなった私たちはアダムの世界が崩壊…消滅していく姿をただただ見る事しか出来なかった。
そして、肉体が戻ったと思ったら、
私の世界が出来上がっていた。
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