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恋人というのは、私にとって不要な存在だった。そもそも誰かとずっと一緒にいるのが耐えられない。常に自分を殺し、合わせる事で調和を取るから。
あんまりベタベタすんの、ガラではないんだよねぇ。
友人と会うと言って早朝出て行った鏡花が戻って来た。何時もより、数時間遅い帰宅。それなりに歩き回った事が体に疲労として残っているのか、延々と太腿を叩いている。
「ふぅ〜……」
随分と気の抜けた様な声を上げ、黄昏れる様に外を眺めた。其からややアンニュイな、やや疲れた様な口調で、こう言った。
「誰かと一緒に行動し、相手に全ての意見を委ねるの、嫌いじゃないんだけどさぁ。毎日は無理」
鏡花という生き物は、子供のように無垢で、奔放。常に好き勝手に行動している様に見える。しかし本心から心を許して居ない相手、つまり、俺や諭羅以外を相手にする時には、相応に自分を殺すらしい。何処へ行くのも、何をするのも相手任せ。相手の言うことに決して逆らわず、意見を述べず、たた付き人の様に振る舞うのだと言っていた。
らしくもない。そう言った俺に対し、『楽な生き方させてよ』と儚い笑顔を浮かべた事を俺は忘れない。
「恋人になったら、まぁ〜私は都合の良い彼氏ポジ。自分の興味のない場所にも嫌な顔せずに付き合うし、荷物持ちだってする。
これ、月イチとかなら良いんだけどさ。毎日は嫌だね。流石に疲れる。
其れに対して謝ってくれるよ? 『振り回してごめん』、『興味無いのに付き合わせてごめん』って。でも女の子って、いいや、人間って結構我儘で、やったことに対する意識が結構薄いの。
詫びたり、代わりのお礼はしてくれるけど、肝心要の私がして欲しい事はしてくれない。詫びるなら最初から荷物持ちとかやめて欲しい。詰まり自分の罪悪感を消す為だけに、そうしているの。そして気に入らなくても此方は笑顔で受け取らねばならない」
鏡花という生き物は哲学と心理学のバケモノである。つまり早い段階で深層心理には気付いているし、その矛盾にも気付いている。それでもあえて楽な方、楽な方へと生きている。
覚悟決めて生きている奴が好きだ。修羅に堕ちた者が好きだ。だが、其れをするには世界が軟弱過ぎるのかも知れない。
「まぁ悪くは無いけどね。毎日は嫌ってだけ。心に決めた相手に振り回されるのは、悪くない」
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