第2話 地方局で流れた地域密着型番組

(テレビ画面の左右にはピラーボックスが現れており、黒い帯に挟まれた4:3の映像は小さく古ぼけている。画質も粗い)


「では、次のお店を探してみましょう」


(小柄な女性アナウンサーが、時折カメラの方へと振り向きながら商店街を歩いている)


「こちらは、リサイクルショップ・スチームと書かれていますね……ギターがいくつも置かれているのが見えます。次は、こちらのお店にお邪魔してみましょうか。すみません! 撮影しても、大丈夫でしょうか?」


(店の奥から体格のよい青年が現れ、笑顔を見せる)


「いいですよ」

「ありがとうございます。店長さんですか?」

「そうです。店長の山根やまねです。よかったらこちらの名刺をどうぞ」

「ありがとうございます。やまねこういちさん、とおっしゃるんですね。この名刺、船のイラストが可愛らしいですね……それにしても、楽器がたくさんありますね」

「そうですね。リサイクルショップとは書いてあるのですが、ほぼ中古楽器の専門店になっちゃってます」

「今日は、この商店街にあるお店の、自慢の一品探しをしているんですが、なにか、オススメの商品などありますか?」

「そうですね。今だと、そっちにあるエレキヴァイオリンが、新品に近い状態なのでオススメですけど……あ、売り物じゃないんですけど、僕に幸運を運んでくれた自慢の中古楽器ならありますね」

「幸運を運ぶ楽器ですか? すごいですね。ぜひ見せていただけませんか?」

「どうぞどうぞ。自宅に置いてあるんで、ご案内しますね」


(店内の階段を上り、2階の住居部分へと移動する)


「このドラムなんですけど」


(赤いシェルのドラムが映し出される)


「元々、うちの店に置いてた中古ドラムなんですけど、このドラムの状態確認をするたびに、臨時収入が入ったり悩みが解決したりするんで、自腹で買ったんですよ。それで、このドラムで時々演奏してみたら、本当にいいことばっかりありまして。店に勤め始めてから、たった1年で店長になれたんですよ」

「それはすごいですね。今でも……あれ? なにか歌? いや、口笛が聞こえませんか?」

「そうですか? ……いや、聞こえないと思いますけど」

「失礼しました。ところで、今でも、悩みがあるときにはドラムの力で解決してるんですか?」

「解決するっていうか、願掛けをしてるだけですけど、今の悩みは解決してないですね。普通に彼女作って、いい感じに暮らしたいんですけど、全然無理そうです。最高にいい人紹介してくれたら、このドラムをプレゼントしてもいいんですけどね」


(笑い声の効果音が入る)


「でも本当に、これのおかげで、今の僕があるようなもんなんですよ。うちの店には、こういう『何か持ってるかもしれない中古品』がまだまだ眠ってますんで、ぜひ、リサイクルショップ・スチームに来てもらえると嬉しいです」

「みなさまも、ぜひ幸運の楽器を探してみてください」


(笑顔の青年とアナウンサーの姿が映り、映像が終わる)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る