第10話 お化け捜査官達

 三人それぞれの、手帳の謎は簡単には解けなかった。

 しかし、それとは別に、つまり、手帳がどうして僕らの手元に届いたのか、なんてことは忘れて、僕らはお化け捜査官という遊びを楽しんでいた。あまりにも子供っぽい、そんな自分に呆れながら、でも、心の深い部分では、お化けを探したり、噂の真相をつきとめたりすることが楽しかったのだ。

 特にゆきは、天真爛漫に、『お化け捜査官』を楽しんでいるように見えた。

 ゆきは四年生だ。僕と聡よりも一つ下の学年である。僕らから見れば、ゆきは幼く、暇さえあれば、くっついてくる姿は、友達というよりは妹に近い存在だった。ただ、時々、不思議なくらいしっかりとした言葉使いをして、僕らを驚かせることがあった。

 ゆきが時々妙に大人びた振る舞いをするのは、妹の存在が大きかっただろう。

 ゆきには、二つ下の妹がいる。その妹を守るのは自分の使命であると考えているらしく、妹の前では、常に、しっかりものの姉を演じていた。

 いや、演じていたというのは、ゆきに対して失礼かもしれない。実際に、ゆきは、しっかり者の姉だった。そして、もしかしたら、その反動なのかもしれないが、僕や聡の前では、すっかり、甘えん坊の妹になってしまうのだった。


 ゆきの家は、一本杉のすぐ近くにあった。

 一本杉の近くに住むということは、小学校のすぐ近くに住むということを意味した。実際、僕らの教室の窓からは、ゆきの家の屋根が見えた。

「家が近いっていいよな。羨ましい」と言ったら、

「そうかしら」、ゆきはそう言ってちょっと不思議そうな顔をした。

「私は、もっと遠くの方がいいけど」そう言って笑った。


 幼い頃から、ゆきの遊び場は当然のように小学校が中心だった。放課後の小学校には、いくらでも遊びのネタが転がっていた。当然、学校の裏山も、ゆきにとってみれば庭のようなものだった。

「それじゃあ、古墳のことも知ってた?」

僕が尋ねると、ゆきはちょっと困ったような顔をした。

「あんまり覚えてないのよね」

「あそこには行ったことがなかったの?」

僕がさらに聞くと、ゆきの困惑はさらに深まったようだった。

「あの場所には何回か行ったはず。でも、あんなところに古墳なんかあったかしら。もちろん、石碑のことも知らなかったわ」

 聡はのほほんとした口調で言った。

「おそらく、昔は、今よりも、もっと、深く草に覆われていて見えなかったんだ。それに、記憶違いなんてよくあることだよ。俺なんか、自分の記憶ほど信頼できないものはないと思ってる」

ゆきは、なんとなく、釈然としない顔をしていた。しかし、おそらく聡の言う通りなのだろう。僕も、この町に引っ越してきて、数ヶ月が経ったにも関わらず、時々自分の家の玄関を間違えることがある。僕の住む県営の住宅は、いわゆる団地で、同じような建物が二十件も並んでいるのだ。おまけに、その全ての住所が同じである。

「でも、お化け捜査官としては、あの古墳、やっぱり気になるよな」聡が言った。

「そう言えば、聡のお父さんは、なんか知ってるんじゃないの。お化け捜査官のこと知ってたんでしょ。聞いてみてよ」

僕がそう言うと、聡はちょっと困った顔をして言った。

「それは無理だな」

「どうして?」

「もう親父はいないんだよ。匠と同じだ」

「あ、ごめん」

「別に、慣れてるよ。お前もそうだろ」

「うん」

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