最強悪役令嬢と魔王が本気で殴り合ってる横で、最弱王子が紅茶飲んでます
@ikareru_futon
第1話──君の輝く秘密が知りたい
王国の第一王子、カイトは勇者の子孫でその血を継ぐ直系の彼は最近とても憂鬱だ。
15歳を過ぎたあたりから どこどこの娘は絶世の美女だ とか まるまるのご令嬢は女神のようだ とか。
側近たちが聞いてもいないのに俺に吹き込んで行く。
はいはい、もう聞き飽きた。 そして17歳になる現在は ついに父母――国王夫妻からも
「そろそろ婚約者を決めろ」
と圧をかけられて。 で、毎日、山のような見合い写真を見せられて、俺はうんざりしているのだが。 写真の中の彼女たちは、皆そろって盛装に濃い化粧、決まりきった微笑み。
「これで恋に落ちろ?」
無理だろ。
あ、これ、男じゃねぇか。
「かわいい〜♡」
……ってなるか、ボケ! この写真を忍ばせたと思われる3歳年上の腹心、アルフレドが
「王子の趣味が広がればと」
ニヤニヤ笑っている。
「ふざけんな!俺はなぁ、グラマラスな女がいい...胸のでかい、気取らない、堅苦しくない女。 令嬢なんかガチガチの鉄壁で手も握らせてもくれない。」
アルフレドは笑いながら
「ひどいことをおっしゃいます。 深層の令嬢はお屋敷の奥深くで大切に育てられた傷一つない玉のようなもの。そんな穢れなきご令嬢たちです。無下にしてはかわいそうですよ。 せめて写真くらいは見てあげましょう。」
「目にとまりたいなら裸の写真でも もってこい。そしたら、その勇気に免じてすぐ婚約してやる」
「あなたは全く...」
アルフレドが呆れたように俺を見る。 ...お前、気取った顔をしてるけど知ってるぞ。あちらこちらで浮き名を流しているそうじゃないか。 だいたい、12歳の時、娼館へ俺を送り込んだのもお前だったな。うっかり口車に乗って出かけた先は老舗の娼館。意味もわからず入ってしまってとんでもない目にあった。
鬼のような形相の姉に助けてもらったが、後日、アルフレドは姉によって磔になりかけた... 姉に頭を下げてアルフレドの悪の所業を許してもらったのに、今でもこいつの生意気な態度は変わらない。
少しくらい恩に着ろ。
「王子、あなたは自由恋愛、無理ですからね。王家と釣り合う身分の令嬢を見繕って適当に甘い言葉を囁けばいいんです。愛などなくてもお世継ぎはできます。大丈夫、そのご尊顔なら即落ちです。」
……お前が一番ひどい。 俺はため息をついた。
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数日後。 王妃主催の、つまり俺の母なのだが... 「ピクニック」とやらに無理やり参加させられた。
実質、俺の公開見合いだ。 着飾った娘たちがあちらこちらから顔を出す。みんな流行りものの香水をプンプンさせて血眼になって俺を見ている。
めっちゃ怖い。
この中から、気に入った相手を最低3人見つけてダンスに誘え? 拷問か?
母はわざわざ野外ダンスのため、音楽隊まで用意してきている。
俺は目をとじた。
今日踊った相手が、未来の妻になる……かもしれない。 性格もよく知らないまま、俺の意思とは関係なく……。
相思相愛になれる相手がいたとしても、相手に身分や財力がなければ結婚など夢のまた夢。 ここから逃げられない。
ならば、せめて好みの容姿の女を選ぶしかない。 そう思って見回すと、美貌と豊かな胸を持つ侯爵令嬢と、 頭脳明晰で同じく胸が大きい子爵令嬢が、ひときわ輝いて見えた。
俺が侯爵令嬢に声をかけると、彼女の瞳が大きく見開かれた。 バラ色の頬がさらに赤みを増し、息をのむ。
「まさか、殿下からお誘いいただけるなんて…夢のようですわ」
と、震える声で囁いた。 子爵令嬢に近づくと、彼女は一瞬息を呑んだ。 知的な瞳が潤み、普段は冷静な表情が、年相応の少女のようにあどけなくなる。
「わ、わたくしのような者が、殿下とお話しできるなんて…」
と、胸に手を当て、ときめきを隠せない様子だった。
うん、いつもどおり、俺の眼力は健在。 こちらから声をかければ女性たちはみんな俺の虜だ。 もう一人……と考えたそのときだった。
突風が吹いた。 令嬢たちのドレスの裾を巻き上げて、ふわりと揺れる。
...惜しい。 膝丈なら、フワーオな生足が拝めたかも知れないのに。 ドレスではせいぜい裾が揺れるだけだ。 それでも目は女性たちに動いてしまうのが男の性。
そして…… 一人の令嬢のつば広の帽子が風と共に去りぬ。 令嬢のそばにいた侍女が慌てて帽子を追いかける。
……俺は、彼女と出会った瞬間を生涯忘れることはないだろう。
フワーオ以上の緊急事態。
一目で彼女に目が釘付け。
俺以外の男も女も彼女に釘付け。
彼女は、日の光をうけて誰より輝いていた。
無数の宝石でもつけていたのかって?
違う。違う。 彼女の令嬢としてあるまじきその姿。
頭が輝いていたんだ。 頭皮。
彼女は、そう ハゲ!!!
だったんだ。 めっちゃ反射してる。
眩し!
一体、彼女に何があったのか?
もしかして病気… いや、違うだろ。あの強い目。健康的な肌の美しさ。 本当に何があった?
先ほど、彼女のそばに控えていた侍女の持つショールには伯爵家の紋章が刺繍されていた。 おそらくモロー家の令嬢だろう。
モロー伯爵家からも見合い写真が来ていた気がする。 そう、名前は忘れたが、こんな顔だった。 写真の中の彼女には、ラベンダー色の豊かな長い髪があったはず。
写真の中できらめいていた髪は一体どこに行ったのか。
今、目の前にいる彼女は元々あったはずの髪と同じラベンダー色のドレスにタンザナイトの耳飾りがとても美しい。 そして、腰は細く、胸は……最高かよ。
俺を見ると彼女はゆっくりとお辞儀した。 うん。仕草も優雅。 ドレスも宝石も一級品。 おでこのあたりまでは、完璧な淑女だが、そこから上、どうしてそうなった?
俺は理由を聞きたくてうずうずしている。
ピクニックに参加していた姉も先ほどから口を開けてこちらをみているし、 側近の仕事を忘れて女達を口説いていたアルフレドも驚いたように見つめている。
しかし、俺は彼女にいきなり理由を聞くのは不躾いと思い、紳士としてまずはダンスに誘う。
「マドモアゼル、お手を」
最高の微笑み 俺が手を差し伸べると
―― ギロリ
と彼女は俺を睨みつけた。
……え?……なんで?
「殿下、ご冗談を。わたくし、女の命、髪の毛がないのですよ? そんな私を誘うのは何か魂胆がありますの??」
大抵の女は俺が微笑むととろけるというのに、めっちゃ睨まれてる。なぜ切れられてる?
もしかして、俺の眼力が通用しない?
こんな女初めてだ? ちょっとおもしれーおん...
「あ、今、おもしれー女とか思いました? 思いましたわね。 しょーもな。 私をそのようなつまらないカテゴリーでくくらないでいただけます? めっちゃ失礼な方!それでは私これにて失礼。ご機嫌よう」
踵を返し走り去っていくご令嬢。
……待て。
待て!待て!!ちょっと待て!!!
なんだ今の女は!? 罵倒して立ち去った?
この俺を?
俺が手を差し伸べているのに?
ふざけるなー!
「アルフレド、追うぞ!」
逃げられると思うなよ?
「追うんですか? 今の方、モロー家のアンジェリカ様ですよね、王子でも嫌われるんですね 振られた気分、どうですか?」
今にも吹き出しそうなアルフレド。 だが、そんなことより……
「……アンジェリカ……」
初めてだ。 いきなり睨め付けて、俺を罵倒した女。 全く見向きもされないなんて。
あと、まだ振られてないからな。
しかも――
(スキンヘッドの理由が気になりすぎて今夜は寝れない?)
俺は安眠のため駆け出した。
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「カイトったら、あの子が女性を、おいかけるなんて珍しいわね」
王妃がそう呟いた。
「お母様、あの子、少しは痛い目に合うべきですわ。カイトの女遊びは巷で有名ですもの。一度、100発くらいビンタされればいいんですわ」
姉が眉をひそめる。
「まあ、いつまでも女が思いのままにいかないと知る良い機会でしょう」
王妃は静かに笑った。
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