追放された最弱魔導士、無自覚に最強の祝福を与える

塩塚 和人

第1話 最弱魔導士、追放される

「――お前は、もういらない」


その言葉を告げられた瞬間、レインは静かに頷いた。

反論も、驚きもなかった。


勇者アルトを中心とした勇者パーティ。その一員として旅を続けてきた魔導士レインは、焚き火を囲む仲間たちの視線を受け止めながら、心の中でこう思っていた。


(……やっぱり、そうだよね)


剣士は最前線で魔物を切り裂き、聖女は傷を癒やし、勇者はすべてをまとめ上げる。

だが自分はどうだろう。


攻撃魔法はほとんど使えない。

派手な魔法陣も、敵を吹き飛ばす呪文も持っていない。

できるのは、仲間の能力を少しだけ上げる付与魔法だけ。


「戦闘での貢献度が低すぎる」

「正直、足手まといだ」


仲間たちの言葉は冷たかったが、レインには理解できた。

事実だからだ。


「……今まで、ありがとうございました」


そう言って、レインは頭を下げた。

引き止める声はなかった。


勇者アルトはどこか苛立ったように言う。

「別に恨むなよ。これはパーティのための判断だ」


「はい。僕も、そう思います」


その返事に、逆に勇者は少しだけ顔をしかめたが、すぐに興味を失ったように視線を逸らした。


こうして、最弱魔導士は勇者パーティを追放された。


夜の森を一人で歩きながら、レインは小さく息を吐く。

怖さはあったが、不思議と後悔はなかった。


(これで、みんなの足を引っ張らずに済む)


自分は最弱。

無能と言われても仕方がない。


――その認識が、

とんでもない勘違いだとも知らずに。


レインは、静かに新しい旅路へと足を踏み出した。

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