第44話 勇者とエレオノール――その正体

 グランベルク侯爵の連行から数分後。

 静寂を打ち破る形で国王陛下は口を開いた。


「今回の反乱については儂に全面的な責任がある。結果、そなたたちにこのような苦労をかけてしまった」

「い、いえ……国王陛下にはそんな責任ございませんわ」



 ひざまずいた状態でエレオノールは首を横に振り、必死に否定する。



「いや……儂が悪いんじゃよ。なにもかも黙っているせいで……」

「い、いいえ……」


 国王がなぜこれほどまでに罪の意識を抱くのか。

 エレオノールは戸惑ってしまう。



 そんなエレオノールの様子を見た国王は話をいきなり切り替えて、エレオノールに年齢を尋ねた。



「エレオノールよ、そなたは今年でいくつになったかのう?」

「ね、年齢ですか? は、はい……20歳ですが……」


 エレオノールの言葉に国王は深く頷いた。


「もう20歳か。そうか……なら、言ってもよいの」

「な、なんのことでしょう……」


 国王はそう言って、エレオノールに秘密を暴露し始めた。


「エレオノール。レイドは勇者パーティーの一員だった。『雑用係』という肩書きではあったが、それは『無能』という意味ではない。彼は『万能』なのだ。実質、勇者パーティー最強の存在だった」

「ええ……存じておりますとも」


 国王の言葉にエレオノールは驚きを隠せない。

 レイドが勇者パーティーの最強であったことはエレオノールも知っている。




 ――――だが、国王がなぜ今、それを口にするのか。




 国王はなおも語る。


「そして、その万能な魔法の1つであるテレポートを使って、魔王城から唯一帰還した。そのおかげで勇者たちの記録を残すことができた。ついでに勇者の娘であるそなたも、レイドが引き取り、爵位や王族との結婚も拒否して、1人で育て上げたのだ。それも勇者との約束を律義に守るためじゃ」

「そ、それも存じております……」


 国王の語ることはエレオノールがすべて知っていることだった。

 だからこそ、なぜ国王がエレオノールが知っていることをわざわざ語るのか、疑問に思う。


「勇者という存在は今の王国にとって非常に大きな影響を与えている」

「はい……そうでございます。父のことを知らぬ者などおりません」

「じゃろ」





 ――――国王の表情が真剣になった。





 ここからが本題だ。



「じゃがのう……勇者、勇者と、人々は口にするが、その正体は謎に包まれている。謎だからこそ、国内では人気がある。だが、真の姿は……」


 国王はそう言って、エレオノールの目を見た。





「勇者はワシの末息子なのじゃ」





「は……? え……?」


 エレオノールは絶句した。


 勇者が国王の息子?

 つまり、自分の父親が王子だったと?


「王子の中で最も強かったのが末息子じゃった。他にも勇者候補はたくさんいたが、とても魔王には勝てない。唯一勝てる可能性があったのが、末息子の王子だったのじゃが、王族が魔王と戦うのは、国の体面上、まずかった。だが、ときは一刻を争う事態じゃった。だから、末息子の王子を病死したことにして、別の人物として勇者になったのだ。これは、息子自身が望んだことなのだ」


 エレオノールは開いた口が塞がらない。

 自分の父親が王子という事実。

 その事実から導き出される結論は……。





 ――――エレオノールには王族の血が流れている。





「わ、わたくしには王族の血が……」

「そうじゃよ、エレオノール。つまり、そなたの祖父はこの儂なのだ」


 国王はそう言って、優しく微笑んだ。

 エレオノールは膝から崩れ落ち、涙を流した。


 思いがけず肉親が見つかった喜び。

 そして、父親の背負っていた重責の大きさに胸が締めつけられる。


「そなたが平民であることが原因でこのような反乱が起きてしまった――――せめてもの償いとして、儂はそなたを正式に孫として認知する」


 国王はそう告げた。




 つまり、エレオノールは『この国の姫』として認められたのだ。




「エレオノール……我が孫よ。よくぞ、ここまで生きてくれた」

「へ、陛下……いいえ。おじいさま……」


 国王の言葉にエレオノールは嗚咽を漏らしながら、祖父である国王陛下に抱き着いた。



 ________________________________________



 俺はヴァルドとの最終決戦に臨んでいた。

 ヴァルドは覚醒薬の力で何十倍もの強さになり、その猛攻は凄まじかった。


「はぁっ! はぁっ! なぜだ! なぜ貴様はこれほどまでにしぶといのだ!」


 ヴァルドは息を切らしながら叫んだ。

 彼の身体はすでに覚醒薬の副作用で限界を迎えているようだ。


 血管は浮き上がり、顔色は土気色になっている。

 今にも死にそうな顔色だ。


 俺は彼の猛攻をかわしながら、静かにヴァルドを見つめていた。


「ギャハハハハ! それでもやはり苦戦しているじゃないか、レイド! 俺の限界が来る前にお前の限界が来るってか? さあ、降伏しろ! お前の命もここで終わりだ!」


 ヴァルドは高笑いした。


「苦戦? ヴァルド……お前。魔王との戦いを知らないから、そんなことが言えるんだ」


 俺がそう言うと、ヴァルドは驚愕に目を見開いた。


「な……なにを……!」


 俺の言葉を聞いて、遠くから俺たちの戦いを見守っていたティアとフィオーレもハッとした表情を浮かべた。


「まさか……勇者パーティー唯一の生き残りの雑用係って……」


 ティアが震える声で呟いた。


「レイド先生のことだったの……?」


 フィオーレも信じられないものを見るような目で俺を見つめている。

 彼女たちの瞳には俺の真の正体に気づいた驚きとそして畏敬の念が宿っていた。


「さあ、ヴァルド。ここからは俺の本気を見せてやる」


 俺はそう告げると、掌に魔力を集中させた。

 俺の身体から、かつて魔王と戦った時以上の圧倒的な魔力が噴き出す。


 それは空間そのものを震わせるほどの絶大な力だった。


「う、嘘だろ……! まさか、これが……平民教師の本当の力だと⁉」


 ヴァルドは恐怖に顔を引きつらせた。

 彼の身体は魔力の暴走によって崩壊寸前だ。


「貴様は心の力なきゆえに決して俺には勝てない」


 俺はそう告げ、ヴァルドめがけて、渾身の魔法を放った。

 それは、五属性すべての魔法の要素が融合した、光り輝く巨大な魔力弾だった。


 魔力弾はヴァルドの身体を飲み込み、一瞬にして彼を消し炭へと変えた。


「ギャアアアア……こ、この世界を創り上げた神は、鬼畜そのもの……」

「さっさと消えろ。そしてあの世で反省してろ、ヴァルド」


 こうして、反乱は鎮圧された。

 俺たちは勝利を収めたのだ。

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