第14話 ティアの覚醒、炎の才能
授業参観での俺の圧倒的な勝利は、学院内に大きな波紋を呼んだ。
「あの平民教師、すげぇらしいぞ」
「ああ。俺は目の前でその実力を見てきたからわかる」
「なんか他の学年の先輩たちもこっそり授業に忍び込んでいるらしいぞ」
これまで俺の授業をボイコットしていた貴族生徒たちは手のひらを返したように俺の教室に戻ってきた。
彼らは俺の実力を目の当たりにし、もはや平民教師と侮ることはできなかったのだろう。
「ま、これで生徒が戻ってきて、学長の面子も保てて、こいつらも魔法が上達して万事オッケー――――なはずだったんだが……」
しかし、その状況に不満を抱いていたのがティアだった。
「ちぇっ、みんな先生の授業に戻ってきちゃったじゃない! せっかくあたしとフィオーレだけで、先生を独り占めできていたのに!」
放課後、俺が教室の片付けをしていると、ティアが不満げに口を尖らせながらそう言った。
彼女は俺の隣でじっと座っているフィオーレに同意を求めるように視線を向けたが、フィオーレは困ったように微笑むだけだった。
「なんだ、独り占めなんて。俺は教師なんだから、生徒全員に平等に接するのが当然だろう」
俺がそう言うと、ティアは頬を膨らませた。
「そういうことじゃないのよ! 先生はあたしの先生なんだから! だから、もっとあたしにだけ教えてほしいの!」
ティアはそう言って、放課後の特訓を申し出てきた。
「ねえ、レイド先生! お願い! あたしに炎魔法の応用指導をしてほしいの! ずっと一緒に!」
彼女の真剣な眼差しに俺は少し驚いた。
ティアは以前の落ちこぼれが嘘のように、小テストで上位に食い込むほどに成長している。
基礎は十分に身についているから、そろそろもっと応用的なことに取り組んだ方が良いだろう。
「わかった。ティア、お前の炎魔法はまだまだ伸びしろがある。応用的な指導をしてやろう。だが、フィオーレも一緒だぞ」
「えーっ! フィオーレも一緒なの!?」
ティアが不満そうな声を上げたが、フィオーレは嬉しそうに頷いている。
「もー、独り占めできると思ったんだけどー」
「そんなこと言うなよ。フィオーレと一緒に切磋琢磨して強くなれ」
「はい! わたしもっと強くなります!」
「先生がそう言うなら……強くなるわよ! フィオーレ」
結局、俺は2人の放課後特訓を引き受けることにした。
その日の放課後、俺がティアとフィオーレを連れて実技訓練場に向かおうとしていると、廊下の曲がり角でアランと出くわした。
彼は決闘での敗北以来、どこか自信なさげな様子で俺と目を合わせようとしない。
「アラン、お前もどうだ? 放課後、特訓していかないか?」
俺がそう声をかけると、ティアが眉をひそめた。
「ちょっと! なんでそいつを誘うのよ! こいつとは一緒にやりたくないわ!」
滅茶苦茶言うな……。
容赦ないなこの子。
アランもまた、顔をしかめて俺の誘いを断った。
「フン! 平民教師ごときに教えを請うなど、俺のプライドが許さん! 俺は俺のやり方で強くなってやる!」
アランはそう言い放ち、足早にその場を去ろうとした。
だが、その背中には、以前のような傲慢さはなく、どこか焦りと悔しさが滲み出ているように見えた。
(……やれやれ、まだ素直になれないか)
俺はアランの背中を見送りながら、心の中でため息をついた。
彼の態度は相変わらずだが、決闘後、彼が親から烈火の如く怒られたという噂は耳にしていた。
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「貴様は家の恥だ! グランベルク侯爵家の名を貶めるつもりか! 平民ごときに敗れるとは、前代未聞の屈辱だぞ!」
アランの父グランベルク侯爵は授業参観には来ていなかったが、決闘の結果を知るや否や、アランを呼び出し、顔が真っ赤になるほど怒鳴り散らしたらしい。
アランは父親からの罵倒にただ震えることしかできなかった。
「兄上はいつも俺を馬鹿にしてきた……。どうせお前はグランベルクの恥だと……。だが、俺は、俺は強くなりたいんだ……!」
アランは悔しさに涙を流した。
幼い頃から、優秀な兄と比べられ、常に馬鹿にされて育ってきたアラン。
彼は貴族としてのプライドと兄への劣等感の間で苦しんでいたのだ。
だからこそ、首席という地位に固執し、平民である俺を徹底的に見下すことで、自分の存在価値を保とうとしていたのだろう。
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(まあ、無理もないか。彼にも彼の抱えるものがあるのだろう)
俺はアランの背中が完全に消えるのを見届けてから、ティアとフィオーレを連れて実技訓練場へと向かった。
訓練場に着くと俺はまずティアに炎魔法の基本的な応用について教え始めた。
魔力を収束させることで、炎の形や威力を自在に操る方法。
複数の炎を同時に放ち、敵の動きを予測して攻撃する連携技。
そして、炎を纏うことで、自身の身体能力を高める方法など様々だ。
「いいか、ティア。炎はお前の感情そのものだ。熱い情熱は炎の威力を高める。だが、怒りや焦りは炎を暴走させる原因にもなる。常に冷静にそして、お前の意志で炎を制御するんだ」
俺はそう言って、手本を見せた。
掌から放たれた炎はまるで生きているかのように形を変え、ときには剣となり、ときには盾となる。
「すごいわ……! レイド先生の炎、まるで意志を持っているみたい……!」
ティアは目を輝かせながら俺の魔法に見入っていた。
彼女は俺の指導を1つも聞き漏らすまいと真剣な表情で耳を傾けている。
「さあ、お前もやってみろ」
俺がそう促すとティアは真剣な表情で炎魔法を発動させた。
最初は戸惑っていたが、俺の的確なアドバイスと彼女自身の努力によって、徐々に炎の制御が上達していく。
そのときだった。
ティアが炎の剣を作り出そうとした際に誤って俺の身体に密着する形になってしまった。強い魔法を使おうとした反動でバランスを崩したのだ。
「ひゃっ⁉ せ、先生⁉」
ティアは顔を真っ赤にして、慌てて俺から離れた。
俺も思わず体勢を崩しそうになった。
「あ、ああ、すまない。少し近すぎたな」
俺は気まずそうに言った。
ティアは顔を真っ赤にしたまま、俺から目を逸らしている。
その様子を見て、フィオーレがクスッと笑ったのが聞こえた。
「も、もう! 先生ったら、わざとやってるんでしょ⁉」
ティアはそう言って、俺を睨みつけたが、その声には怒りよりも、照れが滲み出ているように聞こえた。
まさか、俺に惚れているなんてことはないだろうが……思春期の女の子は難しいな。
そんなハプニングもありながら、ティアは着実に成長していった。
炎魔法の応用技術を次々と習得し、その威力と精密さは見違えるほどに向上していた。
彼女の炎はもはや制御不能な暴れる火ではなく、彼女自身の意思に忠実に従う、力強くだが静かに燃え盛る炎へと進化していたのだ。
「やったわ! レイド先生! あたし、こんなこともできるようになったのよ!」
ティアは嬉しそうに俺に報告してきた。
その顔は達成感と自信に満ち溢れている。
「ああ、よく頑張ったな、ティア。お前の努力が実を結んだんだ」
俺はそう言って、ティアの頭を優しく撫でた。
彼女は嬉しそうに目を閉じ、その撫でられる感触を楽しんでいるようだった。
俺はティアの成長を目の当たりにし、心から満足していた。
彼女の才能はまだまだこんなものではない。
きっと、この先も大きく伸びてくれるだろう。
そして、この成長が彼女の家庭での冷遇をいつか覆すきっかけになることを願うばかりだ。
次はフィオーレの個人指導だ。
彼女もまた秘めたる才能を持っている。
それを最大限に引き出してやるのが俺の役目だ。
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