クリスマス・イブの夢
口羽龍
1
2025年の暮れの事だ。石川県の輪島に住む一義(かずよし)はクリスマス・イブを迎えた。だが、一義は物足りなさを感じている。それは去年も一緒だ。少しは慣れてきたけれど、まだまだ慣れる事ができない。いつになったら慣れる事ができるんだろう。とても考え込んでしまう。
一義には去年の元旦まで、冬子(ふゆこ)という妹がいた。兄の一義の事がとても好きで、2人は仲が良かった。だが、去年の元旦のあの日、突然いなくなってしまった。一義はあの日を忘れた事がない。あまりにも悲劇的だからだ。
「またクリスマス・イブだね」
「うん」
横にいる母の国子(くにこ)はクリスマスツリーを見ている。もう何年も飾っているのに、なぜか物足りなさを感じる。それは、キラキラ輝いている飾りが少ないからでも、クリスマスツリーが小さいからではない。冬子がいないからだ。国子も冬子のいない日々に慣れる事ができない。
「冬子・・・」
「もういないんだね・・・」
2人は忘れた事がない。2024年の元旦に起こった、能登半島大地震を。それによって、輪島が大きな火災に見舞われて、それで冬子が犠牲になったあの日を。
「どうして地震が起こらなければならないんだろう」
「ひどいよな・・・」
2人はあの日の事を思い出した。
それは2024年の元旦の事だった。深淵を迎え、誰もがお祝いムードだった。年の瀬、多くの人で賑わっていた朝市は、静まり返っていた。みんな、家で正月を祝っているようだ。
思えば、2020年に日本でも蔓延した新型コロナウイルスは、感染力が高いし、次から次へと変異株が現れて、まるで鼬ごっこのようだった。ワクチンを接種しても、また変異株が現れるだけで、まるでいたちごっこのようだった。そんな中で、イベントは次々と中止や延期を余儀なくされた。2020年に開催予定だった東京オリンピックも、翌年の2021年に延期になった。そして、そんな東京オリンピックも、無観客で寂しい物だった。多くの日本代表がメダルを獲得したのは嬉しいが、どこか物足りないオリンピックだった。
そんな新型コロナウイルスの騒ぎも、ようやく落ち着いてきた。そして、元の生活が戻りかけていた。そして来年は、大阪で大阪・関西万博が行われる。日本では愛・地球博以来20年ぶり、大阪では大阪万博以来55年ぶりの万博だ。一義も冬子も楽しみにしていたな。みんなで行きたいと思っていたな。
「今年もいい年になるといいね」
「うん」
突然、大きな揺れが起きた。こんな揺れ、経験した事がない。ひょっとして、大地震だろうか? 2人とその家族は2011年3月11日に起こった東日本大震災を思い出した。
「えっ!?」
「大きい揺れだ! 隠れろ!」
「うん!」
早く隠れないと。みんなはテーブルの下に隠れた。
しばらくして、揺れが収まった。だが、まだ油断できない。余震が起きるかもしれないからだ。
「収まったか・・・」
と、一義は煙の匂いを感じた。火事だろうか? 一義は辺りを見渡した。そして、火事が起きているのを見つけた。
「火事だ!」
それを聞いて、国子はテーブルから出た。早く家を出ようと思ったようだ。
「早く逃げよう!」
だが、冬子は逃げられない。何しろ、タンスの下敷きになったからだ。冬子は泣いている。このまま焼死するのは嫌だ。早く誰か、助けに来てくれよ。だが、その願いはなかなかかないそうにない。
「あれっ、冬子!」
「タンスが・・・。逃げられない・・・」
だが、もたもたしていたら、みんな焼死してしまう。早く逃げないと。
「早く逃げて!」
「わかった!」
冬子以外の家族は必死で逃げた。絶対に生き残るんだ。もし、冬子が助からなかったら、冬子の分も生きるんだ。
家の外に出た家族が目にしたのは、燃え広がる朝市広場だ。こんな光景、見た事がない。まるで地獄絵図だ。そして、家にもその炎は燃え広がっていく。冬子が心配だ。助けようとしても、助ける事ができない。どうしよう。
「冬子・・・」
一義はその場に崩れた。もっと一緒に行きたかったのに、その夢は崩れ去ろうとしている。あまりにも突然すぎる。
「冬子ーーーーー!」
国子は泣いている。どうしてこんな事で死ななければならないんだろう。あまりにもひどいよ。
「死んじゃった・・・」
「どうして、こんな事に・・・」
一義は昨日の大みそかを思い出した。明日から始まる2024年に向けて、祝賀ムードだったのに、それが一気に吹き飛んでしまった。どうしてこんな天災が起きなければならないんだろう。誰か教えてくれ。
「昨日は楽しい大みそかだったのに、来年は明るい年になると思ってたのに、どうして・・・」
「どうしてこんな事が怒らなければならなかったんだろう」
どんなに問いかけても、わからない。どうすればいいかわからない。
「わからない・・・」
「つらいよ・・・」
去年は波乱の幕開けとなった。私たちはこの先、どうなってしまうんだろう。不安ばかりが頭をよぎる。
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