第6話 おっさんの悩み
戦闘の翌朝、正一は一人で村の外れの丘に座っていた。
「はぁ…俺は本当にこれでいいのか…」
昨日の魔物との戦いは、正一にとって単なる偶然の連続だった。だが村人やアルトは、彼を“勇者”のように見ている。
村では、正一の助言で農作業や生活が劇的に改善されていた。
「正一さん、今日も作業の指示をお願いします!」
村人たちは期待に満ちた目で見つめる。
正一は頭を抱えた。
「俺は勇者じゃない…普通のおっさんだ。なのに、みんな俺に頼りすぎている…」
エルナが静かに丘にやってきた。
「正一さん…どうしたんですか?顔色が悪いですよ」
「いや…その…俺、ただの定年退職者だ。戦闘も生活も、偶然うまくいってるだけだ。みんなの期待に応えられる自信なんてない」
正一は小さくため息をつく。
エルナはにっこり笑った。
「でも、魔王討伐も、村の生活も…正一さんがいるからこそ上手くいくんですよ。戦う力だけが勇者じゃない。知恵も経験も、立派な力です」
正一はしばらく沈黙したあと、遠くの山を見つめる。
「…そうか…俺の人生経験が役に立つのか…」
心の中で少しずつ覚悟が固まっていく。
その夜、村の広場で子どもたちが集まる。
「正一おじさん、明日も魔物と戦うの?」
正一は笑って頭を撫でた。
「そうだな…必要なら、戦うさ」
遠くの魔王城では、魔王が暗い笑みを浮かべる。
「ふふふ…おっさん一人で無双しているのか。面白い存在だ…」
こうして、無自覚無双のおっさんは、自分の力と向き合いながら、異世界での使命を少しずつ受け入れていく――
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