第6話 噂は王城へ届く

王城の会議室は、異様な沈黙に包まれていた。


「……勇者が、倒れた?」


国王の声は低く、だが確かに震えていた。


「はい、陛下」


報告役の騎士は、冷や汗を流しながら続ける。


「冒険者ギルド併設の酒場にて、

勇者レオン殿が――元仲間の平民、ユアンにより……」


「馬鹿な!」


貴族の一人が立ち上がった。


「勇者だぞ!?

神に選ばれし存在が、平民ごときに敗れるなど――」


「事実です」


騎士の声が、空気を切った。


「剣も、魔法も、通じなかったと。

目撃者の証言は一致しております」


会議室に、ざわめきが走る。


「蒼い紋様を纏った男……」

「下層区で噂になっていた影か……」


国王は、指を組んだ。


「教会はどう言っている」


白い法衣の大司教が、一歩前に出る。


「……現在、神託は下りておりません」


その言葉が、さらに空気を凍らせた。


「神託が……ない?」


「はい。

勇者が倒れたにもかかわらず、

神は沈黙を保っておられます」


「そんなことが……」


貴族たちの顔から、血の気が引く。


勇者は“神の象徴”だ。

それが崩れたという事実は、

王権と教会の根幹を揺るがす。


国王は、ゆっくりと立ち上がった。


「――この件、伏せよ」


「陛下?」


「民に知られるな。

勇者は健在だ。

そう“信じさせろ”」


沈黙。


「……そして」


国王の目が、鋭く細まる。


「その平民――

ユアンを、反逆者として指名手配せよ」


この夜、

王城は初めて恐怖を知った。


勇者ではなく、

“名もなき存在”に対して。

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