Sweet Moment
moonlight
Sweet Moment
いよいよ、今年最後の月ー12月がやってきた。
年の瀬が迫るにつれ仕事の量も増えて、ここ最近デートらしいデートもできていない。
それでもようやくふたりで時間を合わせて、デートの日程を決めた。
当日は出来るだけ定時で上がれるように調整していたのだが、急な仕事が入ってしまい残業を余儀なくされてしまった。
何とか仕事の目処をつけ、メイクや身支度を最低限整えて、待ち合わせ場所に急ぐ。
(やばい、めっちゃ遅刻…!)
事前に優にLINEで遅れることは伝えていたものの、やはり待たせたくない。少しでも早く彼に会いたい気持ちが溢れて、スマホを開く。
《今残業終わった。これから向かうね。暖かいとこで待ってて》
すぐ既読が付き、優から返事が来る。
《お疲れ。俺も少し前に仕事終わったとこで、さっき駅着いた。金の時計の前で待ってる》
《OK、優もお疲れさま。すぐ行くね》
金の時計の前は華やかなクリスマスツリーやイルミネーションに彩られていて、いつも以上にたくさんの人達が行き交っている。
急ぎ足で人波をかき分けて進んでいくと、少し先に金の時計を見上げている優の姿が見えた。暖かそうなチェック柄のブルゾンと、柔らかい色のマフラーがよく似合っている。
「綾!」
彼が先に気づいて、声をかけてくれた。ひらひらと手を振っている。
「優、お待たせ。遅くなってごめんね」
「お疲れ。…良かった、すぐ会えて」
優はニカッとした笑顔を見せる。彼の笑顔を見ると、冷えた心がじんわりと溶けて暖かくなっていく気がした。
「すごい人だもんね。優が手振ってくれて良かった。…久しぶりだね」
「だな。…しばらく忙しかったもんな。会いたかったよ」
優は真剣な目をしながらふっと笑う。
そんな彼の目を見ると、胸の奥がきゅっと締まるような感覚があった。
「わたしも会いたかった。LINEとか電話もいいけど、やっぱり顔見て話すのが一番だよ。今日めっちゃ楽しみにしてた」
「俺も一緒。さっき綾が走ってくるの見て、なんかほんとに嬉しかった。…あれ、そういえばマフラーは? いつもしてるでしょ」
「あ…焦って巻くの忘れちゃった。どおりでちょっと冷えるなと思った」
「…身体冷やしたら風邪引くよ。マフラー貸して」
「えっ…?」
「…俺が巻いてあげる」
優の思いがけない申し出に、心が跳ねる。
「え、そんな…!大丈夫だよ」
「いいから貸して、ほら」
マフラーを渡すと、ふたりの距離が近づく。
優を見上げると、彼は甘くて優しい表情をしていた。その表情にまた、綾の心が暖かく溶けていく。
(…なんか、優に抱きしめられてるみたい)
頭によぎった感覚にドキドキして、顔が熱くなる。
「…できたよ、どう?」
「あ、すごくいい! 優のと同じ巻き方だね。暖かい」
「首暖めたらめっちゃ良いんだって。前テレビでやってた」
「そうなんだ、確かに首暖めるの良さそう。…優、ありがとう」
綾はそっと、優の手に触れる。
「綾…」
「あ、急にごめん。びっくりした?」
「いや、全然…てか今日俺、やばいかも。綾って明日仕事休みだっけ?」
「うん、明日明後日連休だよ。優も休みだったよね?」
「うん、休み取った。…てかほんとにやばい」
「やばいって、何? どうしたの?」
ふと優を見ると、仄かに顔を赤くしている。
「いや…綾と今夜一緒に過ごせたらなって」
「優…」
「…俺と一緒に過ごしてくれますか?」
「もちろん。…わたしも優と過ごしたい」
「良かった。行こっか」
優は柔らかく微笑みながら、そっと綾の手に触れる。その手はとても暖かかった。
静寂に溶けながら、夜に酔う。
ふたりの甘い時間は、まだまだ始まったばかりー
Fin.
Sweet Moment moonlight @moon109
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