第1章 村の朝
朝の霧は低く、森の奥に溜まっていた。
湿った空気が肌にまとわりつき、足元の草を濡らす。
やがて霧が切れ、木々の隙間から光が差し始める。
村の外れ、川のそばで少女は立ち止まった。
袖をまくり、川に手を入れる。
水は冷たく、指先が赤くなる前に引き上げる。
布で軽く拭い、立ち上がった。
背後では、大人たちが無言で集まっている。
声はない。合図もない。
長く繰り返されてきた段取りが、それぞれの動きを決めていた。
刃が使われるのは、その中心だ。
手際よく、迷いなく、流れに沿って進んでいく。
土はすぐに色を変え、森の匂いに別の気配が混じる。
それでも誰も顔を上げない。
少女は名を呼ばれ、輪の内側に入った。
渡されたのは器と布。
中身を確かめる必要はなかった。
広場の端まで運び、静かに置く。
川の音が近づき、風が葉を揺らす。
鳥が一度だけ鳴いた。
戻ると、作業はまだ続いていた。
少女はその外に立ち、次に呼ばれるまで待つ。
それが自分の位置だった。
この村では、生きることと終わることは並んである。
特別な日ではない。
今日が、今日として進んでいるだけだった。
森はそれを覆い、
何事もなかったように、そこにあった。
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