第27話 午後・精霊科の教室
昼下がりの柔らかな陽光が、学院の回廊を金色に染めていた。
カナはレフルに伴われ、静かな歩調で精霊科の教室へ向かっていた。
「緊張しなくても大丈夫ですよ、カナさん。
皆、あなたに会えるのを楽しみにしているはずです」
レフルの落ち着いた声が、少し張り詰めていた心を和らげる。
カナは扉の前で深呼吸をする。微笑むレフルがゆっくり扉を開けると――
教室内のざわめきが一瞬で収まり、視線が集中した。
「皆さん、午後から精霊科に加わるカナさんを紹介します」
レフルの声に促され、カナは教壇へと歩み出る。
「……カナと申します。まだわからないことばかりですが、よろしくお願いします」
小さく頭を下げると、後ろの席のミリアが、勢いよく手を振った。
「カナ、こっちだよ!」
「……ミリアさん。お静かに」
レフルの声と共に教室に笑いが広がり、緊張が少しずつほぐれていく。
精霊科の生徒は、ミリアとカナを含めて6名。
教室はこぢんまりとしており、窓際には小さい花が咲き、光が優しく揺れていた。
レフルが席を指し示す。
「……カナさんはミリアさんの隣を使ってください」
「はい、わかりました」
席に座ると、ミリアが嬉しそうに微笑みかけた。
「やっと一緒だね! 午後は基礎の授業だから、きっとやりやすいよ」
*
「さて、今日から新たに仲間が増えました。
精霊学の基礎をもう一度振り返りながら、皆で学んでいきましょう」
やがて、レフルが教壇に立ち、静かに授業が始まった。
「では、今日は基礎に立ち返り、“精霊呼び”の練習をしてみましょう。
精霊との絆を育む最初の一歩は、呼びかけ、応えてもらうことです」
教室の中央に、淡い光を放つ魔法陣が浮かび上がる。
生徒たちは順番に立ち、魔法陣の上で呼びかけを試みた。
「……来てください」
最初の生徒が声を出すと、小さな光粒がふわりと現れ、机の端に舞い降りる。
「いいですね。今の反応が標準的です」
レフルが頷くと、次々に生徒たちが挑戦したが、光が揺れる程度の反応に留まった。
やがて、レフルの視線がカナに向く。
「では、カナさん。あなたも試してみましょう」
突然の指名に、カナは少しだけ肩をすくめた。
「……わたし、まだ魔力がないから……」
「大丈夫です。声に想いを込めるだけでいいのです」
カナはゆっくり立ち上がり、魔法陣の中央に歩み出た。
胸に手を当て、森で出会った精霊たちを思い浮かべる。
そして、静かな声で囁いた。
「――来てくれる?」
その瞬間、空気が震え、無数の光が一斉に舞い降り、カナの周囲に集う。
「……えっ、なに、すごい……!」
「精霊が一度にこんなに……信じられない……」
生徒たちが一斉に声を上げ、椅子から立ち上がる者までいた。
風の精霊がカナの肩にとまり、髪をやさしく撫でてくれる。
カナはふわりと精霊に向かって微笑み、小さな声で礼を言った。
「――ありがとう。こんなにたくさん来てくれるなんて……」
風が吹き抜け、教室全体が温かな光に包まれた。
沈黙。
ミリアですら、何も言葉を発することができず、ただ目の前の光景が信じられなかった。
レフルが驚きつつも、深い感嘆を込めて言う。
「……やはり王宮と精霊庁に選ばれただけのことはありますね。
精霊がこれほど懐くのは、私の長い教員生活でも初めてです」
カナは、学院での新しい一歩を踏み出したのだった。
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