図書室うぉ〜ず!
チャイの人
第1話 とびきりの大ニュース
本は人生を変える力がある。
とは、よく言ったものだと思う。
実際に本は僕に色々なものを与えてくれた。
中学一年生の頃、
僕は毎日毎日最悪な気分だった。
小学校で出会った大半の友達とは別れ、新しく友達を作ろうにもコミュ力が足りず、
後はまぁ、ご想像の通りだ。
しかし、そんな僕にも転機が訪れた。
「ねぇ、私の小説を読んでくれない?」
クラスメイトに話しかけられた。
しかも女子。
僕は驚きのあまり、5秒ほど状況が飲み込めなかったがやっとの思いで飲み込んで、
「いいけど、どんな話?」
と言ったのだ。
その日は最高だった。
彼女の作った恋愛小説はまるでプリンの様に甘く、それでいてサイダーの様に爽やかだった。
僕は彼女と明日も小説を見るという約束をして、途中まで一緒に帰っていった。
それから毎日、僕達は一緒に会い、話し、本を読み、それはそれは幸せに過ごしていた。
中学三年生の夏、あの事件が起きるまでは。
それからはあの頃に逆戻り。
僕は抜け殻の様に一年を過ごし、雨粒学園に入学し、そして、アレと出会ってしまった。
僕の人生二度目の転機、
優しい春風が季節外れの桜を吹き抜ける中で、
私立雨粒学園の図書委員会に、出会ってしまったのだ。
「蓮君?大丈夫ですか?ちゃんと聞いていますか?」
「ちょっと蓮!あんた何ガン無視してんのよ!」
「うぇぇえ?!ちゃ、ちゃんと聞いてるよ!!?」
正直、全く聞いておらず、目を瞑り、夢の世界に浸っていた所だったが、適当に答える。
「本当ですか?いいですか、蓮君。私達図書委員には本の素晴らしさをこの学園の皆様に伝えるという素晴らしい使命があるんですよ。」
そんなに大袈裟に捉えなくてもいいのに...
この人は清水凛花先輩。
本をこよなく愛するお嬢様だ。
少し愛が大きい気もするけど。
「はぁ、あんたもこういう時くらいはちゃんと話聞きなさいよ!怒るわよ!」
もう既に怒ってるじゃねぇか。
心の中でツッコむ。
彼女は小坂奄美。
同じクラスの女子で、男子に大人気だった。
なんでもツンデレなところがいいらしい。
この前
「ツンデレって何がいいの?ただ面倒くさいだけじゃん。」
と言ったら、男子全員からフルボッコにされた。
正直、大の苦手だ。
「えっと、すみません。なんの話でしたっけ?」
奄美の文句を遮って、凛花先輩が
「今は学級新聞について話し合ってるんです。オススメの本コーナーがあるんですけど、蓮君は何か思いつきますか?」
「そうだったんですね。だったら、猫の生態とかどうですか?」
「あんた、真面目に考えてないでしょ。」
「いやいや、僕は至って真面目だよ。」
「嘘ね。きっと今日の夜ご飯の事でも考えてるんでしょ。」
図星だ、悲しい程に。
全く、僕は何をやっているんだ。どうしてこんなところに来てしまったんだ。
2人がオススメの本について話し合う中、僕は1人で図書委員会に入ってしまった時を思い出していた。
僕達が入学してからしばらく経つと、委員会募集が始まった。
あちこちに委員会募集中の貼り紙が出された。
生徒会、整備委員会、学級委員会、
そして図書委員会。
「こんなもの、誰が入るんだ。」
僕も当初は嘲笑う様に独り言を言っていた。
だけども、状況は一変する。
委員会募集の最終日。
僕が家に帰ろうと1人で歩いていると、必死に図書委員に勧誘している凛花先輩を見つけた。
どうやら後1人メンバーが来ないと、図書委員会は無くなってしまうらしい。
大変そうだなぁ。
と、他人事の様に思っていると、背後から奄美に腕をガッチリと掴まれてしまった。
そして僕は図書委員だった奄美に脅されて、泣く泣く図書委員になったのだ。
早く終わらないかな。
正直言って、図書委員会の仕事は苦痛でしかない。
放課後はほぼ毎日と言っていいほど仕事があるし、帰る時間も遅くなる。
図書委員会に所属するメンバーは僕以外女子な上、たった4人だし、そのうち1人は全然会議に来ない。僕は一回でも仕事をサボれば怒られるのに、何故か彼女は許されている。
凄く、不愉快だ。
とにかく、僕は授業が終われば図書室に行き、凛花先輩と奄美の女子2人に責められながら本の整理や貸し出し、更には会議の仕事までをこなさなければならないのだ。
「とりあえず、この本にしましょうか。これならきっと、本の素晴らしさを分かってもらえます。」
「そうですね、凛花先輩。ちょっと蓮!あんた本当に聞いてんでしょうね?」
「聞いてるからちょっと黙っててよ。」
いつもよりも強く返した。
はぁ、いっそ図書委員会なんて潰れてくれないかな...
そう思った瞬間、ドアが勢いよく開いた。
「おい!図書委員ども!どこだ!出てこい!」
甲高い声が図書室中に鳴り響く。
「ごめんなさい。一旦席を外すわね。」
「えっと、あら?綾?何か事件でもありましたか?」
凛花先輩が席を立ち、小柄な生徒会長、飯田綾に問う。
生徒会長は意気揚々と言う。
「お嬢!とびきりのニュースだ!本の虫のお前にとっちゃ大悲報だがな!」
それを捕捉する様に、側近らしき人物が言い放つ。
「これより、この図書室を取り壊します!」
僕の物語はたった今、始まってしまった。
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