最強騎士カップルは、ベッドの上だけで過ごしたい~邪魔が入るまでがセットです~

シエル・グランベル

ヴァルハラ王国

最強の剣士と魔法使いが住む。実力があれば、性別、貴族や平民の階級問わず、成り上がれる為、自身の描く最強と名誉を求めて、他国からも移住者が多い。

猛者どもが集う国であると同時に、モンスターの襲撃も多く、常に騎士や冒険者を募集している。


そんな国で、強くなるために英才教育を受けた、剣士の名門グランベル家の三女、シエル。

シエルは赤子の頃から目鼻立ちが整っていた為、剣士として才能が開花しなくても、年ごろになれば貴族や皇族からの婚約の申し込みが殺到するだろう、と家族からは積極的に剣を学ぶよう言われていなかったのだが、

「お兄様達はこうやって、こうして剣を振っていたわ」

兄達の剣術授業を何度か見ているうちに、自身もやってみたいと思うようになり、執事監修の元、剣を振ってみせた。


「お、お嬢様!一体どこで剣を習ったのです?!」

「習ってないですわ?お兄様達の授業を見ていただけですの」

「なんと...これはいけません!ご主人様に報告しなくては!」

グランベル家に勤める前は、剣士や魔術を教える学園で剣術クラスを指導していた実績を持つ執事リカルドは慌てふためいて、グランベル家主人の執務室へ向かった。


「ご主人様、大変です!」

「どうしたリカルド、騒がしい」

70歳近くになるリカルドは、常に落ち着いて丁寧な仕事をしているのだが、この時ばかりは興奮を抑えられなかった。

剣士名家の主人、バルトス・グランベルは低く落ち着いた声でリカルドに尋ねた。

「天才なんです!見ただけで完璧にグランベル家の剣の型を披露して頂いたんです!」

主人の声を跳ね除けて、リカルドは先ほど見た光景を早口で伝えた。興奮して話をする為、主語がなく、一体誰について話をしているのか、バルトスの秘書ユーリエも分からず、眉をひそめた。

「まるで、剣を自分の手足の用に扱い、振るう姿は美しく舞う蝶のようで!」

「リカルド、誰についてのお話を?」

目を輝かせて話を続けるリカルドを制止しようと、ユーリエは落ち着いて質問した。

「お嬢様です!シエルお嬢様ですよ!」

「シエルが?」

ユーリエの質問に、リカルドは鼻息荒く答えた。愛娘の名前が出てきた為、バルトスは不思議に思った。

「あの子には、剣術を習わせていない。それに、まだ5歳だ」

「シエルお嬢様は、ヴァルハラ王国の守護神と言われる剣士になります!お願いですから、是非一度、お嬢様の剣技をご覧頂けないでしょうか?

そして、シエルお嬢様が剣術授業を受ける許可を頂きたいと存じます!」

リカルドは熱のこもった目で、バルトスに力説した。


こんなにも興奮したリカルドの姿を見たのは久しぶりだった。かつて、セイント・グロリアスで剣術を指導していた名教授。彼が指導した剣士は、必ずといっていい程、戦で大成したという話は伝説として語り継がれている。

そんな人物が、愛娘の剣術は素晴らしいと話すのだ。ひいき目があったとしても、一度見てみるのは悪くないかもしれない。

「分かった。明日、時間を作ろう」

「ご主人様!ありがとうございます、本当に・・ありがとうございます!」


リカルドが偶然見かけた5歳の女の子の剣さばき。剣をふるう姿は、切れがあり、またしなやか。殺傷能力の高い剣術であるにも関わらず、グロテスクさはない。シエルの姿は美しかった。

この時からシエルは、蝶よ花よと愛でられるだけの女の子ではなく、剣の名家の生まれらしい毎日を過ごす様になった。

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