第6話 神、コラボに誘われる

静寂。


勾玉の内側で、御珠は正座している。

今日は、珍しくスマホを手にしたままだ。


画面には、ひとつの通知。

見慣れぬ名前。

だが、文面はやけに整っている。


御珠は、しばらく指を止めたまま、

それから静かに画面を開いた。


―――


「突然のご連絡失礼します。

 小さくVTuber活動をしている『灯-akari-』と申します。


 のじゃちゃんねるさんの切り抜きで『生きよ』という言葉を聞いて、本当に救われました。


 自分も配信で誰かの話を聞くことが多く、あの距離感や、言葉を断定しない姿勢に勝手ながら共感してしまって……。


 もしご迷惑でなければ、一度だけ雑談コラボという形でご一緒できないかな、と思いご連絡させていただきました。


 もちろん、断っていただいて構いません。

 お返事も不要です。

 これからの配信も、陰ながら応援しています」


―――


御珠は、声に出さない。

ただ、最後まで読み切る。


「……」


スマホを、そっと伏せる。


「……ふむ」


短い独り言。


「悪い話では、ないの」


否定する要素はない。

条件も、押し付けも、期待もない。


「……利用されておるわけでもない。

 ……むしろ、誠実じゃ」


視線が、自然と下がる。

だが、そこに見るものはない。


「じゃが」


言葉が、続かない。


「コラボ、とは……

 役割が、生まれるということじゃ」


自分は、呼ばれる側になる。

相手は、招いた側になる。


「立場が、定まる」


上下ではない。

だが、等しくもない。


「妾が……

 “影響を与える存在”として、

 確定してしまう」


その言葉を、自分で少しだけ嫌そうに転がす。


「相手の配信に、

 相手の視聴者に、

 相手の時間に……」


言葉が、そこで止まる。


「……踏み込む、のう」


善意であっても。

軽い雑談であっても。


「……断れば、それで終わる話か?」


すぐに、首を振る。


「終わらぬ」


断られた理由を、相手は探す。

自分の価値を、測る。

何が足りなかったのかを、考える。


「……それもまた、妾の影響じゃ」


スマホを、机の上に置く。

画面は、伏せたまま。


配信の時間は、とうに過ぎている。


「今日は……

 話すことでは、ないの」


誰に向けるでもなく、呟く。


「誘われることより……

 妾が気にしておるのは」


少しだけ、間を置いて。


「断ったあとに、相手が、どうなるかじゃ」


それを考えてしまう自分を、面倒だと思いながら、否定もしない。


「……面倒な神じゃ」


自嘲気味に呟いて、それ以上は、何も言わない。


しばらくの沈黙。


そして、本当に小さな声で。


「……善意ほど、扱いに困るものはないの」


勾玉が、静かに光る。


スマホは、伏せられたまま。

返信も、拒絶も、まだ選ばれない。


夜は、そのまま過ぎていく。

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