静かで大人しい幼馴染は可愛すぎるのに優しすぎて無防備すぎるので抵抗する練習してみた。
燈外町 猶
できるけどしたくない方。
「ふー」
軽く息を吐いてから、手指を絡めて体の前に押し出し、簡単な柔軟運動をした。
集中力が切れてきた証拠だ。
思考が目の前の宿題ではなく、取り止めのない、少なくとも今は別に考えなくてもいいことに囚われ始めた。
こういう時、私の脳を支配するのは幼馴染の
『この前食べてたお菓子、美味しいって言ってたなぁ』とか、『家族旅行の写真の宮子、楽しそうだったなぁ』とか、そういうどうでもいいことを否応なく考えさせられる。
理由はわからない。そもそも理由なんてない癖みたいなものだと思っているから、深く悩んだこともない。
「……そういえば……そう、かも……?」
そしてその日はたまたま、私は彼女について考えているうちに、一つの疑問にたどり着いてしまった。
物心ついた時から一緒にいるけれど、私はこれまでに一度も、宮子からノーと言われたことがない。
宿題を手伝って欲しい時、一緒に遊びたい時、何もなくても傍にいて欲しい時、どんな時でも、どんな事でも受け入れてくれた。
ニコニコと笑って。その小柄な体で、全力で。
そしてそれは、これからの人生において、とても危険なのではないかと思い至ってしまうと、もうネガティブな妄想は止まらなかった。
優し過ぎるのに自己主張が苦手な彼女だ。嫌なことをされてもノーと言えないなんて……そんなの……!!
×
次の日の放課後、私は早速宮子を自室に招いた。
もはやどちらの部屋も勝手知ったるという感じなので、この段階でノーと呼ばれることは流石になかった。
「宮子、練習してみよっか」
「? うん」
ほらー! 急に雑な提案されてるのに『なんの練習?』って聞く前にクエスチョンマーク浮かべながら『うん』って答えちゃうんだもんこの子! 可愛すぎるよ!!
「じゃあそこに座って」
言われるがままにベッドの端へ腰掛けた宮子の隣に私も陣取り、精一杯表情を引き締めて言う。
「あのね、練習っていうのは、今から宮子のことが好きで、めちゃくちゃ狙っててめちゃめちゃ危ない奴を私が演じるからね、やられて嫌なことに対してちゃんと抵抗する練習だよ?」
「うん、わかった」
あまりにも理解が早過ぎる即答に、こちらが面を喰らいつつも続けた。
「その、設定があるの。……ここは保健室ね、午後の体育の授業中、軽い熱中症になっちゃった宮子は放課後まで休んでたの。それで私が迎えにきたんだけど、まだ宮子は寝てて、私は保健室の先生から『ごめん、ちょっと用事できちゃったから留守番任せていい?』って言われて二人っきりに……っていう状況だから!」
「わかった」
曇りなき
思ってたよりも恥ずかしすぎてやばいんだけど!? 顔あっつ! いや! でも! これも宮子のためだから……!!
「じゃあちょっと……そこで寝て?」
「うん」
咳払いをして、私はイメージ上の危ない人を思い浮かべた。
「んんっ……。みーやーこっ、体調はどう?」
「……おはよう
しっかり設定乗ってくれてる……! よし、これならちゃんと練習になりそうだ。
「それはよかった。熱はどうかな」
言いながら私はいきなり、宮子のおでこに手のひらを伸ばす。正解はそれをはたき落としたり、『やめて』と伝えることなんだけど——
「っ……うん……どうかな? 熱、ない?」
——ダメじゃん! なんでちょっと嬉しそうなの!? 早く払い除けないと! そんな頭撫でられてる犬みたいな目ぇしていいわけないからね!?
「熱は……そうだね、大丈夫そう」
思わず湧き出た撫で回したい気持ちを抑え、手を離す。
はぁ……この時点でもう赤点だけど……一応もうちょっと続けますか……。
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