第2話

館の薄暗い廊下を慎重に進むうちに、柚葉はふいに足を止めた。壁に掛かる古びた写真と日記帳に目を凝らしている。


「…これ、私の過去と関係してるの?」柚葉の声は震えていた。目の前に映る古い写真には、若い頃の自分と少年の姿。そして、その隣にいるのは、見覚えのある少年の影だった。


蓮が静かに言葉を続ける。


「柚葉、その写真は…君の記憶の一部だ。だが、全部を知るにはこの日記を読まなければならない。」


海斗も真剣な表情で日記を手に取る。ページをめくると、そこには少年時代の柚葉の名前と、涙ながらに書かれた言葉があった。


「私、あの日…何も覚えていない。でも、何か大事なことを忘れている気がする」


柚葉の声は涙声になった。彼女の心の奥底に、何か重い過去が眠っていることが確信できた。


その時、館の奥から微かな物音がした。誰かがこちらを見ているような気配。蓮の表情が険しくなる。


「誰かいる…」と、海斗がつぶやいた。


静かな廊下の先に、影の人影が浮かび上がった。ゆっくりと近づいてきたのは、蓮だった。


「お前たち…ここに入るなんて、危険だ」蓮の声は低く、重々しい。


柚葉は恐る恐る尋ねる。


「何が危険なの?私たちに隠れてることがあるの?」


蓮は一瞬黙り込み、やがて静かに答えた。


「この館には、俺たちの家族にまつわる秘密が眠っている。お前たちには関係ないと思っていたが…」言葉を濁しながら、一歩近づいた。


その瞬間、館の奥から扉がギィと軋む音とともに、何かが動き出した。


空気が一層重くなる。


「この館には、俺の過去が詰まっている。お前たちが知るべきこともあるだろう」と蓮は続けた。


柚葉は、自分の過去の記憶とこの場所の秘密がつながっていることに気づき、心の奥でざわめいた。


「私…何かを知ってしまった気がする。これが私の運命なの?」


その時、館の奥の扉の向こうから、かすかな声が聞こえた。


「……」


それは、まるで誰かが自分たちを待っているかのようだった。

館の奥から聞こえてきた声は、まるで誰かが待ち構えているかのようだった。海斗と柚葉は緊張しながらも、蓮に促されて扉に近づいた。


「行こう」蓮の声は静かだが、決意に満ちていた。


扉を開けると、そこには薄暗い部屋が広がっていた。机の上には古びた日記と、錆びた鍵。壁には何枚もの写真とメモが貼られている。


「これは…」海斗が手に取ったのは、幼い頃の自分と柚葉、蓮の写真。そして、その横に貼られたメモには、驚くべき言葉が書かれていた。


「真実は、あなたの記憶の中にある」


柚葉は震える声でつぶやいた。


「これ、私の記憶の断片かもしれない。だけど、何を意味しているの?」


蓮は静かに近づき、壁に貼られた写真を指差した。


「この少年…俺の兄貴だ。彼は、何か大きな秘密を抱えていて、そのためにこの館に隠された真実を守っていたんだ。」


「兄貴?」柚葉は目を見開いた。


蓮はゆっくりと語り始めた。


「彼は、家族が関わる闇の事件を調べていた。その証拠を隠すために、この館に秘密を封じ込めた。だが、その真実は誰にも知られてはいけなかった。」


「それって…私とも関係あるの?」柚葉は心配そうに尋ねた。


蓮は少しだけ目を伏せて答えた。


「柚葉、お前は…彼女の記憶の中に、何か重要な何かがある。それは、彼女が誰かと深く関わっている証拠だ。」


その時、突然館の照明が揺れ、壁に映る影が動き出した。誰かがこちらを見ている。静かに扉の向こうから、低い声が響いた。


「やっと気づいたか」


その声は、幼い日の自分と瓜二つだった。


「お前たちには、早すぎる真実を伝える時が来た。だが、その前に、覚悟を持て」


影の人物は扉の奥に消え、館の空気は一層重くなった。


柚葉は、過去の記憶と向き合う覚悟を胸に抱きながら、海斗と蓮を見た。


「私…全部、知りたい。真実を」


海斗も静かに頷いた。


「俺たちの未来を決めるのは、自分たちだ。真実を追い求めて、進もう」


三人の瞳に、次なる冒険への決意が宿った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る