魔物の喫茶店

和雨

第1話 カッコいいマスターと非モテな彼


魔術結社日本支部指令室。

長官の永山聡は一人の少女を呼び出した。


「長官、わたしに御用ですか」


彼女の名前は辻村少華。日本支部に所属する魔術師の中でも神童と呼ばれるほど魔術の才に恵まれた少女。その容姿は黒髪黒目で可憐の一言。育ての親である聡から見ても立派な美少女に育った。魔術以外にも美術芸術、華道、武道にも造詣が深く、この日本支部では敵なしの少女。


「少華に頼みたいことがあってね」


「はい、なんでしょうか?」


「新しい魔導書の調達をお願いしたいんだ」


「魔導書の調達?」


少華が疑問に思うのも無理はない。魔導書とは古の時代から残ってきたとされる希少な書物。世界に千冊あるかないかと言われるほど数は少なく、日本支部の魔術師教育に使われている魔導書も二つだけ。残りの教育は個々の研鑽となる。そんな希少な魔導書の調達と軽々と言われてもなにを言っているのかと思われるのも仕方ないだろう。


「わたしの知り合いに魔導書作りの先生が居てね。彼から新しい教育用の魔導書を貰ってきて欲しいんだ」


「今の時代に魔導書を作れる人がいるんですか?」


「いるとも。ただ今のところ世界に三人だけだが」


「すごいですね」


少華は控えめに驚くが、内心とても驚いていた。魔導書を製作しそれを他者が使用するには魔術協会の厳正な審査を通過する必要がある。その倍率は一パーセントもない。毎年、我こそは魔導書作りの名工になると挑戦する者たちがいるがことごとくおとされているのを知っている。


「これは彼が住んでいる住所だ。ここに尋ねてくれ」


少華は住所が書かれた紙を受け取る。それと魔導書作りの達人だと言う彼の顔写真を受け取った。少華はまた驚いた。自分とそう歳の変わらない少年の姿がそこには映っていたからだ。


「若い方ですね」


「少華と同い年だよ」


「そうなんですか」


「驚いたかい?」


「はい。わたしと同じ年で魔術の深淵にたどり着くってことは相当苦労があったんでしょうね」


「ははは、確かにそれは半分正解、半分不正解だ」


どういうことだろうかと少華は首をひねった。魔術師として大成するには精神肉体ともに多くの努力が必要になる。それならば彼は相応の努力を積み重ねてきたはずだが……。


「まあ、詳しいことは本人の口から聞けばいいさ、余計なことを言って彼を怒らせたくないしね」


「そうですか」


「じゃ、行ってらっしゃい」


「行ってきます」


少華は指令室を退出し自分の寮にある部屋に向かった。少華は少し楽しみになる。自分と同い年で魔導書を作ったという人物がどんな人物なのか。とても興味がある。自室で期待を含ませながら出かける準備を始めた。



人生にモテ期というものが来るだろう。誰しも女子と仲良くなったり、特定の女の子が話しかけてくれるようになったりとか。だがほとんどの人間がこのモテ期というものに気付かず、恋人ができないまま学校生活を送ることになる。反対に女子に囲まれて過ごしている人間に限って自分が女子にモテていると勘違いして手痛いしっぺ返しを食らっていると言う。ちなみに俺こと西治連には確実にモテ期というものが来てないと思う。人間観察が好きな俺だが俺に興味を持った目を送ってくる女子は生まれてこのかた一人もいなかった。


「まあ、気にしてないからいいんだけど」


正直、俺は女子というものがあまり好きではない。なんだか女子全体から男子を見下すような憐れむような感情を感じることがあるからだ。俺は人より少し他人の感情に敏感で肌で感じやすいところがある。女子が優しいのも可愛いのもわかっている。だがなぜか俺は女子というものが信用ならなくて仕方がないのだ。


「マスター、コーヒーのおかわり」


「あいよ」


ちなみに現在俺は家の隣にある喫茶店でコーヒーを飲みながら小説を書いている。別にプロの小説家を目指しているわけではないがちょっとだけwebで書いている小説が高評価を受けて書籍化なんてことも夢見ることがある。小説を書きだしたきっかけは昔体調を崩して病院に入院していた時、母が絵本を買ってきてくれたことから本が好きになったからだ。小説を書きだしたのは最近だがこれがなかなか楽しい。


「なあ、マスターって結婚してたよな」


「してるぞ」


「奥さんとの出会いの話とか聞かせてよ」


「そんなこと、どうしてお前に話さなくちゃならないんだよ恥ずかしい」


「いや、新作で青春ものを書こうと思ってたんだけど、俺、彼女いたことないからわからなくて」


「そんなもの桜の木の下で目が合って、この人わたしの運命の人だ……とかそんな適当な設定でいいだろ」


桜の木の下で運命の出会い……。


「俺昨日学校の桜の木の下で女子に告白した男子が振られるところを見たんだけど」


「なら、食パン咥えた女の子と曲がり角でぶつかるとか」


「俺、立ち食いする女子ないと思う」


「なら、エッチなハプニングに巻き込まれて、下心がないことに気付いた女の子が男の子を追いかけるとか」


なんていうかマスターの思いつく案どれも古臭いんだよなあ。マスターとマスターの奥さんの出会いがこんなハプニングだらけの出会いだとは思えないし、非現実的だ。俺はもういっそのこと出会いは普通にしてちょっとずつ女の子が男の子に心を開いていく設定にすることにした。

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