子爵の三男なのに学院の生徒会長なんですが 卒業パーティーで王子が婚約破棄とか言い出してもうメチャクチャです

流花@ルカ

第1話

 煌びやかなホールの中にできた美しいドレスの令嬢達の海の中を漂うように歩きつつ、周囲を満足そうに眺めながら彼……レーノ・マキコマはゆっくりと歩く。

彼にとって正念場であり最後の仕事となる『卒業記念パーティー』のために、ここ数日徹夜で準備を頑張った甲斐があったというものだと心の中で少しだけ自画自賛みたりしていた。


「はぁ……やっとこれで肩の荷が下りるな」


少しだけ気を抜きつつ、自身の学院における『生徒会長』という最高責任者の立場を振り返る。


この国の貴族階級にある一定の年齢に達したすべての子女は、この王立学院へと通わなくてはならないという法律に基づいて学院へと通うのだが、この学院の生徒会は特殊で王族は生徒会に入ることが出来ないという規則が『王国法』によって決まっている。


その為、他国などでは統治の練習台にされがちな王族の生徒会長への就任がない。

ならば次席として高位貴族がその座に就くかと言えば、それも忌避される傾向にある。

過去に『この私を差し置いて会長職に就任するなど』と密かに嫌がらせなどを受けたりした事例もあったという話が歴代の生徒会の記録にも残っている。

つまり、高位貴族にとって生徒会とは雑用を押し付けられる余計な厄介事でしかないのだ。


「だからって低位貴族でしかない子爵の三男坊に会長職をやらせなくてもいいのに……」


つい、考え事をしながら声に出てしまったが、過去数十年に渡り色々あったおかげで今では生徒会の活動に支障がないように専属の教師が監査しており、問題が発生した場合は元老院へと報告が行き、しかるべき判断や処分が言い渡されることになっている。

 それでも色々……本当に色々なトラブルがあった一年間だったがなんとか最後まで無事に職務を果たせそうで本当に良かったなぁと、ちょっと涙ぐみながらまた会場を巡り始める……そんな時、なにやらざわめきが会場の真ん中あたりから聞こえてきた。


「デスワー・アークヤーク公爵令嬢! お前のような性悪にこの第五王子であるグーシャの妃など勤まるはずもない! 本日この場をもってお前との婚約を破棄する!」


「はぁぁぁぁ⁉ な……なにおっぱじめてやがるあのクソ王子いぃぃぃ⁉」


あまりの衝撃につい本音が出てしまった生徒会長ではあったが、こうしてはいられないと急いで現場へと駆けつける。


「グーシャ殿下!一体何をされているのですか!」


「む……たかが子爵の子でしかない生徒会長ごときが王族たるこの俺に直接話しかけるなど無礼なっ!」


「……学院内では、マナーや規則に反しないがぎりは、学生や教師相手に身分を理由に不敬や無礼は問えないと学院法に書いてありますので……あと身分のお話でしたら学院内では殿下より生徒会長の方が上位になりますので、簡潔にお答えいただきます!」


内心ビビりまくりのレーノではあるが、職務には忠実にがんばれる生徒会長なので無表情を取り繕いながらグーシャ王子へと詰め寄る。


「ぐ……み、見てわかるだろう! そこの性悪女と婚約を破棄することにしたのだ!」


「……なぜ学院生活最後の交流の場である卒業パーティーの会場でそんな真似を?例えやるにしても学院の外でいくらでもやったらよろしいじゃありませんか!」


「証人と立会人は多い方がよかろう?それにそこの性悪が、いかに非道で冷たい人間か広く知らしめておかねば、城に帰ってから俺が父上と母上に怒られてしまうではないか」


「……一応悪いことをしてる自覚はあるんですね……。ならなおさら撤回して素直に怒られた方が傷は浅く……もないかもしれませんが致命傷やそれ以上のヤバい事にはならないんで、こういう事はやめましょう?」


「今更後に引けるわけがないだろうが! それに俺はこの愛するネートリーを守らねばならんのだっ!」


そう言う王子の腕には、確かにピンク髪の令嬢が引っ付いている。


「ゲーシャさま……」


涙を浮かべながらグーシャを見上げつつ、これでもかと胸を押し付け縋りついているピンク。


「ネートリー……そう、俺とネートリーは『真実の愛』で固く結ばれているのだ!」


「あっ……とうとう言っちゃったよこの王子……」


顔を真っ青にして、今にも倒れそうなレーノ会長、その横にコツコツと靴音を鳴らしながら今まで一言も発さずにこの騒ぎを観察していたデスワー嬢が歩いてくる。


「おーーーーっほっほっほっ! とうとう『禁止ワード』を口にしてしまいましたわねぇぇ!」


勝ち誇るような高笑いと共に右手に持っていた美しい扇を、パシパシと左手に打ち付けながらデスワー嬢

が高らかにレーノ会長へ


「レーノ・マキコマ生徒会長!王族から『禁止ワード』がでてしまいましたわよーっ! わたくしデスワー・アークヤークの名において学院生徒会長へ『学院法廷』の開廷を要請したしますわっ!」


と宣言した。


「アクヤーク公爵令嬢……本当によろしいのですか……? 後日王家から……」


「まぁ⁉レーノ会長! ご心配くださるお気持ちは嬉しく思いますが心配は無用ですわ! 必ずこの日が来るものとして元老院の方へも手回しは済んでおりましてよ!」


キリリとした表情でレーノを見据えるデスワーに、グーシャとの決着をつける覚悟を見た彼は


「分かりました。ではこれよりレーノ・マキコマの生徒会長権限によって学院秘術『学院法廷』を召喚する!」


と周囲に宣言するのであった。

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