誰かこの哀れで矮小な冒険者をお救いください
ちょばい
魔物蔓延るこの森で助けてください
「誰かぁーーー!助けてくれーーー!」
魔物のいる深い森の中助けを呼ぶ声が響く…
俺は冒険者A。冒険者ギルドに所属しているシルバーランクのソロの冒険者だ。
冒険者のランクはブロンズランクが一番下で次にシルバー、ゴールド、プラチナの4つがある。本当はもう少し細かくランク分けがあるのだが俺はそんなに強くない一般冒険者ということだけわかってくれればいい。どうして俺が助けを求めてるかって?それは…
ある日俺はプラチナランクの冒険者の戦いを見た。華麗な剣技、敵の攻撃を回避する時の巧みな体捌き。そして魔法の破壊力…彼は勇者という肩書きも持っていた。そんな彼の技に憧れ…
ゴブリン共を相手にそれを再現していた。俺の剣はゴブリンを容易く斬り裂き(当たり前)、彼らの攻撃は俺の体捌きによって一撃も当たらない(避けなくても当たらない)。魔法は…使えないので石を投げて再現した。一人プラチナランクごっこだ…今思えばいい大人が何をしてんだとは思う。
そんな舐めプを楽しんでいた俺は最後のゴブリンを殺した後にゴブリンの血で足を滑らせて、ゴブリン達が掘っていた作りかけの落とし穴に落ちてしまった。その落とし穴は意外に深く、俺は頭だけを地上に出し綺麗にハマってしまった。出ようと思っても背中の剣の鞘が引っかかってしまって手に力を入れても微動だにしない。
マジで困ったぞ。この状態じゃどんなやつが来ても俺は抵抗ができない。魔物ですらないアリにすら俺は抵抗できないだろう。今俺の足をチクチクしてるのはアリだよな?なんか変な毒虫とかじゃないよな…アリってことにしよう。おのれアリ野郎め。しかしそんな攻撃じゃ俺のHPは削れないぞ。
しかし思わず声を上げて助けを求めてしまったがこれは非常にマズイかもしれない。ここは魔物がいる森。俺の声に魔物が来るかも…
せめて片手くらいでも外に出ないか?【パンチ】くらいは攻撃の選択肢として欲しい。
俺はモゾモゾしてみた▼
何も起こらなかった▼
ダメだ…そうだ、剣の鞘が悪さしてるのならなんかこう…頑張って回転したら土が上手いこと削れて動けるのでは?
俺は回転してみた【ゴリゴリ】▼
少し体の周りの土が削れた▼
おっ、いいぞ?これを繰り返せばスペースが作れそうだ。
…
……
………
俺は回転してみた▼
何も起こらなかった▼
チクショウ、少し鞘の形に土が円状に削れただけだ。俺の靴の中が土まみれだよ!
マズイ!日が暮れてきた!夜になったら魔物が活発になる!俺にも帰りを待ってる家族と幼なじみがいるんだ!シャレにならんホントに死ぬ!
(うおおおおおおっ!)
俺は全力で体を捻った▼
腰を痛めた▼
「うおおおあああ………」
ダメだ。俺の命はここまでのようだ…夜の魔物に俺は何も抵抗もできずに殺されるんだ…
諦めを悟った俺は…
…
……
………
いつの間にか朝になっていた。どうやら寝てしまったようだ。ゴブリンの腐敗臭で目が覚める。
「く、くせぇ…」
ダメだ。現実逃避に2度寝としゃれ込もうとしたけど臭すぎて寝れん。トイレも行きたくなってきた。
バサッバサッバサッ!
俺の頭に何かが止まった。多分鳥か…もう諦めの境地に至った俺に恐怖はない。どうやら俺の死因はこの鳥に頭を喰われることらしい…
「ふっ、俺を喰うか…せめて美味しく頂いてくださ『ブチブチ』イテテッ!髪の毛抜くのはやめろ!」
嫌だぞ!もし誰かが死んだ俺を発見した時にハゲてたら!コラ!やめなさい!髪の毛を抜くな!
「コヒョッヒョヒョヒョーーーー!!」
…コヒョ?俺はこの鳥の鳴き声を知っている。コイツはもしかして…
「あーー!いたーーー!…あれ?死んでない?」
「…間に合わなかったか」
俺の友人のゴールドランク冒険者の男女2人、【ハサン】と【ミサキ】声が俺の頭の後ろから聞こえる。俺とは違い戦いの才能があった2人は驚く速度で成長していき、あっという間にゴールドランクの冒険者になった。最初は俺たち3人でパーティーを組んでいたが、有名なクランに誘われ2人は今はそっちで活動している。
しかしこんな俺ともたまに一緒に冒険してくれるし、良い奴らだし、俺は昔馴染みが活躍してるのは素直に嬉しいので嫉妬や妬みもない。ちなみにハサンが槍使いでミサキは魔法使いだ。
そして頭の鳥はミサキがテイムした鳥【コヒョン】だな?コヒョンは【エクスプローラーバード】という種の鳥で、索敵や罠を察知してくれる便利な鳥さんだ。俺は相性が悪かったらしくテイムできなかった。
「ああ…A…」
「もっと早くお前が帰ってないことに気づけていれば…」
表情が見えないがきっと涙を流してるに違いない。2人ともそんなに俺のことを心配してくれて…
「…プフ…それにしてもAらしい間抜けな死に方ね」
「ああ、周りのゴブリン残骸を見るに調子こいてゴブリン相手に無双して、滑って落とし穴に落ちたんだろう。間抜けだ」
おい!間抜けとはなんだ間抜けとは!御尤もです…
「コヒョンー、そのムダ毛もっとムシっちゃって!」
「コヒョー!(ブチブチ)」
「すぐにやめさせろ!」
「やっぱ生きてるじゃないの」
「Aは性格が悪いからな。俺達が涙してると思って少し黙って楽しんでたろ…」
「そ、そんなことないよ〜…(べちゃ…)」
「あら…」
「あっ…」
頭に嫌な感触がした…コヒョンが俺の頭の上で糞をしたようだ。焼き鳥にすんぞこの野郎!って違う違う!
「あの…とりあえず俺をこの落とし穴から出してくださいませんか?」
「…糞で栄養も付いたし、いっそのこと植物魔法でここに木でも作ってみる?」
「いいな、立派な世界樹になりそうだ」
「やめてーーー!ホントごめんて!早く俺をここから出してくれーーー!」
魔物蔓延るこの森で助けを求めていた俺は助かった。夜に魔物がここに来なかった理由はゴブリンの腐敗臭が原因だろうとのこと。確かに、かなり臭かったわ。ミサキとか俺を掘り起こすとき終始顔を歪めていた。せっかくの美人が台無しだった。ちなみにハサンもイケメンな顔を歪めていた。俺の顔は…言わなくてもいいだろ?
そして無事に森から帰った俺は…俺と関係のある色んな人たちにめちゃ怒られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます