第22話 弟さん
本当にやるのか。
「ダメなの。」
駄目とは言わないよ。でも変なことするなぁ。とは思う。
「ンン。だって、この石は力に反応するんでしょ。」
石が入った缶を掲げる。
プラスチックの袋では持ち歩くのに心許なかったので小物入れの缶にプラスチックの緩衝材を入れて再利用した。中は金色、外は動物と花の装飾。元はお菓子の缶の再利用。
リトが触れるほど近付かなければ光らないので缶に入っていればリュックに入れて持ち歩いても大丈夫。
ああ、でも力を調べるものではないと思うぞ。
「そうなの。」
うん。いやまあ、力を感知できる者が術者になるから力の有無を調べるために使っていないだけかもしれないけど。でも普通は洞窟で見ただろ。光の術みたいに術を発動させるための媒体として使う物だ。調べるためではないだろ。
「いいの。私は分からないから調べるために使うの。」
ハア、分かるようになろうとか思わないの。
「今気になることは今調べる。」
フンン。意外とリトは猪突猛進系なのか。もしかして光の術に突っ込んでいったのもそれが理由か。
「ンンン。」
いやだって、親に言わずに学校から病院に来ただろ。大丈夫なのか。ただでさえ行方不明だった少女が帰ってきたら奇行続きだぞ。両親から不審がられているぞ。
「だから言わないで来たんじゃん。」
それが心配なのだろ。
部活がある日に、部活をサボって来た。
「大丈夫、すぐ帰る。」
学校から路面電車で病院前の駅に。電車内からも見えていた大きな白い建物。
車が停まれる大広場。車から降りれば大きな屋根の下。少し歩けば小さい門のようなガラスの自動ドア。入れば大広間。
大勢の人が歩いたり、座ってくつろいでいたり。中には痛そうな怪我をしている人もいるけど。この広間はこれから検査する人も退院する人も入り混じる場だ。
久しいな。懐かしい光景だ。
視界が縦に揺れる。
広間を通り左へ。
入院していたときに歩いて回ったから病院の構造は少しだけわかる。建物は近くの建物と比べても大きく高い。二十階建てくらいのビルが三棟くっついたような建物だ。
真ん中のビルが入口。左にくっついているビルが一番大きい建物だ。リトが入院していた所。
そこに向かっているのか。
視界が縦に揺れた。
入院病棟なのかな。この建物は。
エレベーターに乗りボタンを押す。扉が閉まり上へ。
降りて受付にいる職員に話しかけて案内を受ける。
色々な手順があるのだな。
白い廊下にいくつもの扉。その一つ。弟さんがいる部屋に来た。
扉を三回叩く。
開ける。ベッドにいるのが弟さんかな。
銀色の短髪で小さな少年。この色がリトの昔の髪色だったのかな。身長はリトより小さそうだ。
「おはよう、ユウ。」
弟さんの反応はない。寝ているというよりは意識がないのか。
「うん。いつもこんな感じ。偶に起きてたりもするけど。」
ぱっと見だと何か術に掛かっている感じはしないけど。
「うん。」
リトがリュックから缶を取り出す。開けて中の袋の口を掴み取り出す。
うん、割れてはいない。入れたときと同じ状態だな。
「えっと近づければいいんだよね。」
ンンまあ、それしかないだろうな。
弟の上で袋をフラフラ。
「えっとユウ、失礼。」
頭に置く。
無反応。
なぜ頭。
「いや、風邪のときは頭に近付けるし。」
ハア。俺たちのときは指に反応したし弟さんも指でいいのでは。
「そうかな。」
自分の頭に当てる。
眩しく光った。
オイッ。
「ワアワワッ。」
念を押すけど、それ光の術に使われていた石だからな。気を付けろ。
「うん、分かってる分かってる。試してみただけ。でも私達には反応するのにユウには反応しない。」
ンンン、まあ確かに。リト、足に当ててみてくれ。
「えっと。」
自分の。弟さんの足ではない。
「アア、そう言ってよ。」
スカートから出る足に当てる。
微かだが光った。
離して。
「うん。何かわかったの。」
ンン。多分だけど俺の意識はリトの上半身にいる。いや、まあ分かっていたことだけど。多分、リトの頭にいる。
「声が頭から聞こえるしね。」
ああ、弟さんも同じように何らかの部位が強く反応すると思う。
「じゃあ、頭より下かな。」
足に。
無反応。
「あれ。じゃあ。」
布団を払って太ももに。
無反応。
「ありゃ。えっじゃあ。」
絵面が酷い。
オイオイ待て待て、先に胸に置いてみろ。
「うん。」
胸に置く。
無反応。
「ンンン。」
お腹に。
無反応。
さらに下。
無反応。
「あれ。」
力はないみたいだな。
「うん。」
……そう落ち込むな。むしろ良かったのだから。力が関係していたら解決は難しかった。力は関係なく、ただの難病。いや何も良くないか。
「うん。」
納得できないか。
「うん、なんかあるだろうと思ってた。」
フフ。まあ、勘が外れるのはよくあることだよ。悪いことではない。
「……。」
まだ何か試したいか。
「うん。」
弟さんの服をたく仕上げる。
オイオイ。
袋を開け、石を弟さんの胸の上に落とす。
オオッ気を付けろ。刺さるぞ。
無反応。いや、微かに。気のせいか。
リト、部屋を暗くして。いや、石の周りを暗くするだけもいい。
「うん。」
掛け布団で弟さんの体を覆い暗い空間を作る。顔を突っ込む。するとわずかだが光っているような、ただの反射のような。
もしかして力が微弱なのか。俺と違って弱い力だから近付けただけでは反応しなかったのかも。胸でその光なら、お腹辺りに動かせるか。気を付けろ。
「うん。」
制服の上着を脱いで、袖口で石を持ち上げるように動かす。鳩尾の下に石が触れると。光った。リトの足に当てたときより微弱だが力に反応している。
弟さんの腹に何か力がある。術かは分からない。病気の原因かはわからない。だが力がある。
腹か。俺の偏見だと腹は何かが入り込んだときだな。呪術は心臓付近が多い気がする。
「なんか光が違うね。」
確かに。なんか灰が掛かった鈍いオレンジ色の光。なんだ力によって光り方が違うのか。まあ確かに俺の力は他と微妙に違うけど。でもそれが光の色でわかるのか。変な石。
「光の色って意味あるの。」
いや、わからない。そもそもこの使い方が初めてだ。
「ンンン。」
そろそろ離しておこう。
「ああ、そっか。」
布団を払い、袖口から袋へ石を入れる。
ああ、弟さんには光の術の耐性がないだろうからな。浴びるだけも危ないだろう。それに術がなくても石が破裂したら大変だ。
「うん、でも力があるのがわかった。」
明らかに嬉しそうに言う。
「なに喋っているの。」
か細い声が聞こえる。
「うん、何って……。」
ちょっちょっちょっ、リト。
「……アア、おはよう。」
「なにしてるの。」
「エエっとなにって、エエ、まあ、実験。」
すげぇ睨まれている。まあ完全に変態だものな。素直に謝っておけ。
「えっと、ごめん。」
「……。人が寝てるときに変なことしないでよ。」
はだけたお腹をしまいながらダルそうに喋る。
弟さんが起きた。
「ンンン、うんごめん。起きないと思って。」
また、睨まれる。
ウワッすげえリト。なんかちょっと嬉しいぞ。俺と喋っているときのリトってこんな感じなのだろうな。
「ンンン。ユウ、起こしてごめんね。もう帰るよ。」
「ああ、うん。」
いや駄目だろ。
「ン.」
偶にしか起きてないのだろ。なら今、話を聞くべきだ。何があったのか。腹の力に思い当たることはあるか。力と症状に関係があるのか。聞くべきことは山ほどある。
「ああ、えっと。ユウ、質問してもいい。」
「うん、いいけど。」
弟さんの声が弾んだ気がする。
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