第19話 情報交換
この世界に術者はいるのか。
リトが知らないから存在しないものだと思っていた。思い込みだったのか。
もし本当に俺がいた世界と同じ世界なら。俺のいた世界の一万年以上あとの時代がこの世界なら術者が残っている可能性はある。
ネットで調べたところ。実在する情報や非科学的という情報。ただ実在するという情報はちょっと信憑性に欠ける。というか、なんか明らかに関わらない方が良い感じがする。少なくとも俺の知っている術とはだいぶ違う。
昔は存在した記録もある。ただこの情報は俺の知っている術とは違う。なんか精神的な技や薬とかのなんか別もの。自然現象の模倣とは程遠い。
あとは創作で使われるくらいかな。
とするなら、やはり術は実在しないと思った方がいいな。少なくともリトは知らない。
……もし、リト達がおかしい可能性はあるのだろうか。
「なんだと。」
リト。君は一般的に常識的な人か。
「この状況はめちゃくちゃおかしいけど、私は超も付かないほど普通の一般人だよ。」
他の国では変な思想の一族である可能性は。
「いやぁ、ないとは思うよ。」
では、リトの感性や常識はこの時代では一般的なものだと思っていいか。
「フンッそうだよ。なにを疑い始めてるの。」
ああ、なんか先入観でいろいろ間違えて物事を解釈していた気がしてきてな。まず前提をもう一度確認したほうがいいかな、と。
「……なんか、ビビッてる。」
ハッ俺が。この俺が。
「なんか門を通ろうしているときと同じ感じがする。こうとに確認しないと進もうとしない感じ。」
いや、まあ、まだ奴らがいるかもと思うとな。警戒心が強くなる。
「ああ、トラウマってやつ。」
とらうま。
「怖い思いをして、同じことが起きそうになると混乱しちゃう病気、かな。」
この俺が。
「ねえ、その術者に何されたの。」
……覚えてない。
「ワア、トラウマだ。」
なんでだよ。
「いやな記憶を忘れる現象。」
……普段通りだった。そのときは北の大陸を旅して飽きたから南へ移動していた。いつも通り雲の上で誰にも手を出せない。油断していた。一瞬、影が通過した感じがして驚いて上ばかり見ていた。何かに捕まれた。地面まで引きずられた。雲が異様に黒色の厚かった。その下だけ真っ暗で何も見えなかった。この俺が暗闇で視界を奪われた。地面まで叩きつけられた。全てを弾こうと力を強めた。次の瞬間に光の術を浴びた。弾いた。そう思ったが体の感覚が失われた。
「うん。」
それで……。抵抗したが体に重りが圧し掛かり、身動きが完全に取れなくなった。 術を破壊すれば次の術で攻撃された。体がどんどん動かなくなり感覚が奪われいった。視界の隅で何かが動いていた。術者だ。複数いる。数人は人型。その内の一人。大柄の奴。小さい巨人と言われても信じるだろう。そのくらい大きな奴だった。奴は術者ではないのだろう。剣を持って、そいつにとって剣だからリト達にとっては大剣だろう。両刃の剣を振り下ろされた。
「……殺されたの。」
まさかっ。この俺がその程度では倒れない。無理だ。絶対に。現に俺はリト、君といる。
「でも。」
俺の体はリトの思っているような体とは少し違う。器としてではなく俺の力としての体だ。感覚としては幽霊に近い、かな。
「死んでるじゃん。」
いやいや、俺の知っている時代なら霊も多種多様だ。でも総じて力の塊であることがほとんどだ。精霊だろうが神霊だろうがな。術でできた模倣でもな。
リトもそうだろうけど、人族やこの地上に生まれた生き物は体が先。意識は後。
俺は逆。地上が生まれるより前に生まれた俺たち原初の存在は意識が先、体が後。
「それで幽霊か。人と違って体がなくても生きていけるの。」
そういうわけじゃない。力が集まって意識が生まれる。強くなるにつれ余分な力が意識を守る体となった。体がない、つまり他の意識と混同することも意識が四散してなくなる可能性もある。
だから俺たち原初の存在にとって体は意識を守る鎧だ。
そんな俺がリトの体で目を覚ました。
「意識が混同しちゃってるの。」
いや、意識はちゃんと独立しているだろ。
「ああそっか。」
まあ、ちょっと互いに影響し合っているけど。でもそれ以上に今の俺は意識を守る力すらない状態なのかもしれない。
「そうなの。」
いや、だって。俺の力の強さって、どのくらいかな。リトが分かる感覚なら海の水と同じくらいと思っていい。
「海と同じ。……うん、比べようもないことは分かった。」
まあ、それほど強い力が君の中に入るわけないよね。もし俺をそのまま体内に封印することができても、リトなら分かるよね。ちょっと力を強めただけで吐き気がするでしょ。
「うんまあ、海を体に入れると思えば無理なのはわかる。」
なっ。だから術で体内に封印することができても俺の強さに耐えられない。そもそも術が効かないしね。
「だから弱ってると。じゃあ誰かに力を奪われたの。」
ああ、そう思う。少なくとも自然に海の水が消えるなんてありえないだろ。そして十中八九奪ったのは奴らだろうな。もしかしたら襲った目的が俺の力だったのかも。
「じゃあ、あの洞窟で力を奪われて意識だけのあなたを私に押し付けた感じ。」
いや、おそらくあの洞窟はリトが目を覚ました場所に過ぎないと思う。リトの父親が言うように、あの洞窟に長時間いたとは思えない。
「まだわからないけどね。」
確かにリトが長時間いた可能性はあるよ。でも俺が一万年以上前からいたと思うか。しかもあの洞窟の出入口は百年前に作られた地下墓場に繋がっていた。百年前に出入口が作られた空間に一万年以上前からいました。とは考えにくい。
「百年前に作った地下墓地に偶然出入口ができたんじゃないかな。」
偶然できるものではない。術が想定していない現象を起こす可能性は十分あるけど、たまたま術が発動することはないと思うぞ。術は自然現象ではないからな。
おそらく、どこか別の場所で力を奪われたのだろう。その後、意識だけになった俺をリトの中に入れた。もしくは入った。それが偶然なのか狙い通りなのかはわからないけど。
「でも力を奪うことが目的なら全て奪ってそうだけどね。意識ごと全部。」
まあ、それもそうか。
「多分、意識だけ残ったのは想定外だったんじゃない。だって残す必要ないでしょ。うるさいし。」
おい。まあ、そうだけど。
「それと、あなたの力が本当に海と同じくらいあるなら、どこにあるの。私が見えないだけ。本当はそこら辺にあるのかな。」
……確かに。
ンンンン謎が謎を呼ぶゥゥ。俺の力はどこへ。なんでリトの中にいるのかもわからないし。
……リト、もしかしてさ。なんか変な物を食べた。
「……いやいやいや流石にそれはないよ。」
まあいいから思い出しみろ。行方不明になる前に何を食べた。
「いや、流石に一ヶ月前に食べた物なんて覚えてないよッ。」
でも普段は絶対に口にしないような物を食べた記憶はないか。他の人は食べない物だ。
「ないってッ。私のことなんだと思っての。」
そうか。じゃあ、寝ている間に食わされたか。
「やめて。」
アハハハッハ。まあ、体の中に入るのに手っ取り早いのは口からだからな。幽霊に体を乗っ取られたり、魔物に住み着かれたりするときも大体は口からだ。
「やめて、ホントに。それ寝てる間にGが口の中に入るみたいで嫌だ。」
ジー。なんだそれ。この世界にもいるのか。寄生してくる奴が。
「ンンンン、まあ似たような生物はいるね。」
エエエ、あいつらまだいるの。気を付けろよ。体に入り込まれると碌なことにならないからな。
「うん、今そうなってる。」
おい。俺に害はないだろ。むしろ協力しているぐらいだ。
「フフフッ。」
笑っているけど本当に気を付けろよ。マシな奴でも食べる以外寝たきりにさせる奴とかいるから。
「……。」
ヤだよ俺。そんな奴らとリトの中で大乱闘とかしたくないからな。
「私の弟。ユウトはお腹が空いたとき以外寝たきりの持病がある。」
……おっおう。それは。
「一年前の八月頃から。」
……。
「帰りが遅かった日に、夜ご飯を食べた後に、倒れたの。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます