第12話 一万年後の学校へ
一万年、それ以上前か。俺を狙ってきた奴らも生きていないよな。
一万年。いや、その程度どうってことない。俺はそれ以上前から存在していた。
もし本当に一万年前に術に掛けられたのなら、この時代にこんな形で目覚めた理由はなんだ。
……やはり奴らにとっても、俺のこの状況は想定外なのだろうな。
それとも、この時代に俺が目を覚ます必要があったのか。奴らの思惑通りか。
一万年もあとに時代になんの用があるのだ。
そうか俺を知っている奴がいなくて当然か。
術を知らなくて当たり前か。
いやまだ確証はない。
まだ……。
どうしよ。
龍人族なら五世代ぐらい。小人でも五十世代ぐらい。魔族なら裕に生きていられる時間だ。そう思えば一万年なんて短いものだ。
だが問題なのは、魔族ですら存在を知られていないこと。あんな人ならざる化け物が知られていない、なんてありえない。それどころか、今の人類は一種族だけ。しかも寿命が短く、術の存在を知らない。にも関わらず、見たことにないほどの発展を遂げている。
ネットで調べる限り、この国だけの繁栄ではない。この国より発展した九つの国があるらしい。凄いよな。
オルアメルゲス中央王国ですら、経済力は世界第六位らしい。世界の中心を治める国より上に五か国もある。信じられない。
もう、実は異世界です。と言われた方が信じられるな。
ただリトの当てずっぽうな推測から、神話や伝承、民話には俺由来の話が多く残っているそうだ。
それが当たっているなら、俺がいた世界の一万年以上後の未来の姿がこの世界らしい。凄い世界になったもんだ。
さて、この世界でどうするか。俺の知り合いはいないだろう。術に詳しい奴もいないだろう。俺を襲った奴らも敵もいないだろう。
今は俺に関係する情報がないか探すくらいだ。
「カナト共和国。南オルオーン大陸の北に位置する共和制国家。首都ヘイローン。国内総生産は世界第十位。」
だから頑張れ、リト。
「フソウさん。この国の主要産業は何ですか。」
「……えっと、わからないです。」
「わからないはダメです。夏休みの宿題で出したところですよ。やっていれば解けるところです。」
「……やってませんでした。」
「はい皆さん、こうなりますから気を付けてくださいね。フソウさん、次から気を付けるように。」
「はい……。」
公開処刑だな。このばあさんはリトが入院していたこと知らないのか。
八月が終わって学校が始まった。凄いよな、全ての子供に教育をする制度が世界中であるらしい。ありがたいことだ。俺みたいに一万年以上前の世界しか知らない人には救済だね。
頑張れ、リト。
「……。」
学校は複数の大人が交互に入れ替わりながら講義をするようだ。前の学校とは少し教え方が違うのか。子供の成長に合わせて変えているのだろう。
でもリトの成長に合ってなさそう。まあ、あまり賢いほうではないのだろう。
「……。」
講義の合間で休み時間がある。そんなときリトは同じような服装の女子の集団に交じって過ごす。
ただ、まあ、いるだけ。
「……。」
いや、気にするな。どうせ中身のない話だ。何んの話か分からん。最初の方はさっきのおばさん先生の話をしていたが、すぐ変わる。今度はネットの話。次に知らない友人の話。
この部屋には四十名ほどいる。男子は二十一人、女子が十九人。灰色の床に白い壁。茶色い机が四十台。四十名入るにはちょっと狭そうな部屋だ。
そんな感じの部屋が大量にある。この二階だけでの八部屋はある。同じような階が上下にある。さらにこの部屋より大きい部屋。おそらく二百人ぐらいは入れそうな部屋が一階と四階合わせて五部屋ぐらいある。さらに大きい集会場が二つ。おそらく二千人は入りそうな大きさだ。そして大きな広場がある。
学校は宮殿だ。
もし全ての部屋に四十名いるなら、この建物に千人はいるだろう。
しかも全員リトと同じくらいの歳。
そんな数の子供が朝から夕方までいる。大半の子供は授業が終わった後も残って運動や芸に励む。
なんだもう、この巨大上流階級製造工房みたいな環境は。良い世界になったな。
「……。」
わかっている。見ればなんとなくわかるよ。これでも人類と長い付き合いがあるからわかる。
こんな環境だ。しかも強制参加。かなりの社会性が求められるだろう。ゆえに上流階級製造工房。
社会性。俺にはないものだ。というか群れをなす生き物にしかないものだ。
授業後も運動や芸に励むのはそれが理由だろう。一芸ある奴、ない奴では群れの評価に著しい差が生まれる。
社会性がある奴、一芸持っている奴、顔が良い奴。一目置かれないと群れでの生活は大変だよな。
大丈夫だ、リト。君は顔が良い。そして俺という力に慣れれば一芸持てる。あとは社会性だ。それは俺には無理だ。俺がやると知らない奴らに襲われて一万年後の未来で目を覚ますことになるぞ。ワハハハッハハ。
「……フッ。」
まあ、仕方ないさ。君はちょっと前まで違う場所にいたのだ。俺がいた時代ならよそ者だ。ここまで溶け込めているだけ凄い。
昼時になると、どこかで調理された食べ物が学校に運び込まれるらしい。
大きな集会場の一つは運動などに使われる場所。そしてもう一つが、食べ物が運び込まれる食堂。
昼時になるとリトの階の人達は廊下に二列で整列して食堂へ。
一階に階段で降りて、外に出て別の建物へ。大きな出入口が三つ並ぶ。リトたちの階の列は右側の扉から。入ると目の前に食事が置かれた長い机があり、二手に分かれて座る。
食堂は大きく長い机が三列に設置されている。木材のようにも見えるが別の素材なのだろう。この世界で偶に見る丈夫だけど重くない素材だ。
夏の終りとはいえ、まだ暑い。屋内を冷やせる機械がなかったら暑すぎたな。
食事は豪華というわけでない。……。いや、まあ贅沢ではある。パン、野菜。肉、スープ、果物。めっちゃ贅沢だぞ。ただ、なんか病院で見たような物と同じだ。
リトの家ではもうちょっと鮮やかで熱々で美味しそうな見た目の物が出たが。もしかしてリトの家はめっちゃ豪華な食事なのか。
病院といい、学校といい、なんか彩度の低い食べ物だ。そして冷めている。というよりは冷めても食べられる物を出している感じだ。
なんか、あんまり喜ばしくないな。まあ、周りの人ははしゃいでいるみたいだが。
食べ終わると、そのまま戻る人や広場へ向かう人もいる。
リトは、戻るみたいだ。
そしてまた講義。
それが終わって夕方に近付けば帰れる。
こんな生活だと、調べごとするのも大変だな。
……あれ、リト帰らないの。
「うん、部活行く。夏休み休んじゃったし。」
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