第4話 リトの思い出
緑の木々が並ぶ土の上は涼しい風の通り道。その日の半分は体育の授業で浮足立った。
歩くと二人の少女に出会う。一人は紺色のポニーテールのカナだ。幼い頃からの友人。もう一人は茶髪で短髪のセナツだ。小学校から始めたスポーツクラブで仲良くなった友人。
二人とも体操着で安心して合流した。
山の隣にある木造の校舎。とにかく校庭が広い小学校だ。同じ学年は六十人ほど。三クラスの学年。近所の子が多く他クラスにも友人がいる。
廊下で会えば流行の話を。教室ではカナとセナツとよく話す。授業の話。課題の話。昨日見たテレビの話。カナも付き合いで見てくれた試合の話。
そして引っ越しの話。
一日の出来事ではない。毎日何気なく会話していたある日、引っ越しの話をした。
二人は驚いた顔をしたが、別の話に変わっていった。分かっていたことなのだろう。弟が設備の良い病院に移動した話は噂話で知られていた。何度も救急車を呼んでいたことも。
冬休みで引っ越しの準備をしていた。お父さんは去年新しい仕事について先に新居で準備を始めていた。今はママと社会人のお兄ちゃんと一時帰国したお姉ちゃん、そして進学せず働くと言っていた兄。この四人で物を整理している。
運べそうな物は父と兄の車で運ぶ予定だ。だが多過ぎる。私の部屋だけでタンス、机、ハンガーラック、大量の服、人形。いつ強請った物か忘れた玩具。さすがに捨てないと新居に行ったときに苦労するだろう。と、お兄ちゃんから捨てるように言われる。
教科書や使い終わったノート。いらない服など分別していく。
隣ではお姉ちゃんが懐かしい物を取り出してははしゃいでいた。この人たちにとって引っ越しは大したことないのだ。お兄ちゃんもスポーツ選手を目指していたときはずっと寮だった。お姉ちゃんなんて国外の高校に行っているし。
唯一引っ越しを嫌がっているのはヒキ兄ぐらいだ。就活もしなければ片付けもしない。いつ作業が終わるのだろうか。絶対に手伝いたくない。
家具の多くを業者に運んでもらった。残った物をお兄ちゃんの車に積んだ。あとは近隣の人に挨拶をして出発だ。近隣の人、カナやセナツにも何か言っておこう。少し歩くが出発までには間に合う。
まばらに大きな一軒家がある町。ときどき車が通るだけで静かな所だった。田んぼや畑の間の道を通りカナの家に来た。何度か来たことあるがリトの建物より大きくて古い城のような家だ。
インターホンを押してカナのおじいちゃんが出てきた。カナは家族と旅行に行っているため居なかった。
セナツの家へ。セナツの家はスーパーの近くで車が良く通る道だった。カナの家よりは小さいが新しく綺麗な家だ。セナツとは会えなかった。おそらく買い物だろうが待つ時間はなかった。
家に帰ると出発した。車で山の方へ行き、他の車と一緒にトンネルへ入っていった。
高速道路に乗って都会に近付へ。
高いビルが立ち並び、灰色のコンクリートの道を走る。ビルの陰では強い風が通る。どこを見ても車と人がいる。道は信号ばかりでなかなか進まない。
そんな所だった。そのまま郊外へ近付く。周りが囲まれていて自分の家がどこにあるかもわからない。狭い道を通り着くとカナの家より小さくセナツの家より古い家が現れた。
一階はキッチンとダイニング。お風呂は一人しか入れないだろう。トイレは一階に一つ。部屋は二階に三つ。あいつの部屋、お父さんとママの部屋、お姉ちゃんの物置と私の部屋。
ユウの部屋は用意できなかった。
「ユウまたね、ママ、世界地図と携帯お願いね。」
「携帯は退院したらね。また迷子になっても困るしね。」
ンッ目が覚めた。
なんだ。意識が。眠っていたのか。
病室から出て、動く部屋の前に来た。
「エレベーターね。」
エレ、なんだか機械には聞き覚えの無い言葉が多いな。
「うん、私も。退院したらびっくりすると思うよ。現代の英知の結晶スマートフォンにね。」
ほう、俺を驚倒させられると。言うようになったな。
「そこまでかはわからないけど、驚くと思うよ。私が魔法を見たぐらい。魔術だっけ。」
さあ、術ではあると思うけど。魔術なのかはわからん。ただ、確かにあの術も凄かった。流石にあれほどの術は初めてだ。ただな、本当に凄い術はあんなものじゃない。あれは邪道で汚い術だ。本当に凄い術はもっと綺麗で、洗礼されている。美しさに驚くぞ。人間を見くびれない理由だ。
「ヘエエあなたはできないの。」
ああ、人間が作った術はできないな。でも人間が作った術は俺の真似事だったりするからな。使える術もあると思うぞ。
「じゃあ、元に戻ったら見せてよ。」
ああ、約束しよう。
「ふふ、楽しみ。それとお母さんが次来た時に世界地図持ってくるって。」
世界地図。せかいちずぅ。そんなものがあるのか。この世界の。
「うん、ああまだ完成してないよ。今の世界の地図だから。最新版。」
ああ、そういうことか。俺が知っている限り世界はまだ大きくなり続けているはずだから。
「うん、そうだよ。世界は大きくなり続けているよ。」
だよな。ちなみに世界の中心はどこだ。
「えっと、学校で習ったよ。えぇっとオルアメルゲス中央王国だってけな。」
オルアメルゲス。アメルゲス。聞いたことがある。知っている言語だ。国の名前ではなかった気がするけど。
よし、リト、その国についても知りたい。いや行ってみたい。連れて行ってくれ。
「やることが増えていく。もうだめ寝る。」
あっ、駄目だ寝かせねぇぞ。この建物回ろうぜ。
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