最終話 -Facing the Unknown A Temporary Goodbye-

 ある晩。あと1時間で配信が始まろうとしていた頃。突然ムーゲが切り出した。


「…健二郎。今晩配信するタイトルを変えないか。」


「えっ、急にどうしたんだよ。」


「今晩はあのレースゲームにしよう。」


「よくわからないが、オンラインで誰かと対戦でもしたくなったのか?」


「いや。」


「じゃあ何で…」


「キミと戦いたいんだ。」


「は?俺と?何で?」


「ダメか?」


「別に…ダメじゃないけど…俺がお前に勝てるわけないじゃん。そんな動画伸びるとは思えないが…」


「それだ。」


「え?」


「気が付かないのか?だったら猶更だ。今晩の配信はマリ王カートだ。」


「よくわからんが…じゃあサムネとか作り直すぞ。」


 俺はムーゲの開発したAIを使用し、動画のタイトルからサムネまで必要な物を全て作り直させた。プロンプトを入力すれば一瞬で終わるので、大した手間ではないのだが、どうも解せなかった。


「すまない。」


「気にすんな。お前には随分助けられたからな。気がつけば半年か。お陰でバイトも減らせたし、感謝してるよ。」


「僕も楽しかった。キミとの共同生活は間違いなく、今後の人生における宝物になるだろう。」


「おいおい、それじゃ、まるで今生の別れみたいじゃないか。」


 冗談めかして言う。だが、ムーゲの表情は珍しく険しかった。


「お前…まさか…」


「健二郎。キミの勝ち負けに関わらず、この試合が終わり次第、僕は星に帰るよ。」


「なっ!?…そんな急な…冗談だろ?」


「いいや。冗談じゃない。本気だ。」


「まさかお前、自分のせいで俺が事務所に所属できないとか、考えてるんじゃ…」


「そんなんじゃないさ。キミは所属するつもりなんかないだろ?」


「じゃあどうして…」


「僕は少し外の空気を吸ってくる。キミは僕が戻るまでの間、練習でもしておくがいいさ。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――———


 あっと言う間に今晩の配信時間がやって来た。だが、俺の心は重く精細さを欠いていた。お陰で配信が始まっているにも関わらず、無言でいたり、つい噛んだりしてしまった。ムーゲの目配せで気が付く。


「えっと、みんなー元気ー?☆ギャラクCEO 無限二郎の配信、はっじまるよぉ~☆今回は…なんとゲストがいます!じゃーん☆リア友の…スエオキーくん(仮名)です。」


「やぁ☆みんな☆スエオキーだよ☆今日はよろしくね♪(裏声)」


『草』

『はい…』

『仮名は草。ガチ一般人か?』

『期待』


「はーい☆では早速やっていきましょー。今日はこれ!友達を家に呼んだ時の大定番☆その名も…マリ王カート!」


『キター!』

『丁度今やってる』

『定番』

『みんな大好き』


「スエオキーくんはさー、どのキャラが好き?因みに俺は…」


 取り留めのない話を続けながら、キャラを選択し、ステージを選ぶ。配信中とはいえ、友人と会話をしながらゲームをするのは久方ぶりで楽しかった。


「じゃあ早速行ってみよー♪マリ王カート配信…スタート☆」


――――――――――――――――――――――――――――――――――———


「…はい。以上で今回の配信は終了です☆みんな楽しんでくれたかな☆俺はめっっっっっちゃ楽しかった☆みんなもそうだったらいいな☆次回の配信の予定は…えっと、未定です。決まり次第、各SNSで告知するね☆じゃ、バイバーイ☆」


『乙!』

『乙~楽しかった』

『何かいつもよりキレがなかったように見えた。疲れてない?無理はしないでね。でも楽しかった。』

『↑俺も思った。無茶はダメよ。』


「お疲れ、健二郎。どう?僕の言いたかったこと、伝わった?」


「…ああ。ったく、回りくどいな。」


「自覚が無いようだったからな。直接体験した方がわかりやすいだろ?今のキミ、さっきよりずっといい顔をしているよ。」


「…それより、本当に行くのか?」


「うん。言ってなかったけど、一昨日父上から帰還命令が来ててね。

“早急に帰って来い”だとさ。」


「……そうか。」


「ああ。」


「…お前とは色々あったけど…寂しくなるな…。」


「何、別に今生の別れじゃない。また会えるさ。」


「…だな。いつか、お前の星に遊びに行かせてくれよ。」


「勿論だ。その時は是非優梨愛も誘ってきてくれ。」


「おう。」


 ムーゲがベランダに出ると、上からUFOが降りてきた(他の人間には見えない)。


「近い内に手紙を寄越すよ。」


「楽しみにしてる。」


「さらばだ。友よ。また逢う日まで。」


 ムーゲは二指の敬礼をするとUFOに乗り込んだ。UFOは瞬く間に夜空を昇っていき、やがて見えなくなった。

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