惑星クロノス

永嶋良一

第1話 宇宙時間XXX年12月22日22時00分

 二人乗りの着陸船の窓には、惑星クロノスが大きく浮かんでいた。人類がまだ到達したことがない星だ。クロノスの横には母船の底部が銀色に鈍く光っている。


 母船からの音声が狭い着陸船の中に流れた。


 「母船との切り離し10秒前・・9・・8・・7・・6・・5・・4・・3・・2・・1・・切り離し」


 ガクンと着陸船が揺れた。


 私は時計を見た。宇宙時間XXX年12月22日22時00分を指している。


 そのとき、窓の外に見えていた母船の底部が消えた。ワープしたのだ。クロノスの周囲は重力場が激しい。母船のような普通の宇宙船は長く留まることができないのだ。


 食い入るように窓の外を見ていたケイが、パチパチパチと手を叩いた。


 「よかった! 切り離しがうまくいったぞ! 重力場が大きいエリアだから、母船との切り離しが一番難しいんだ。でも、うまく切り離せてよかったよ」


 私はケイを見た。着陸船には私とケイだけが乗っている。


 「後は・・私たち、何もしなくていいのね」


 ケイが頷く。


 「ああ、そうだ。何もしなくていいと言うより・・何もできないわけだけどね。重力場が大きいから手動の操縦なんて出来やしない。ここからは、この船が自動操縦で惑星クロノスに着陸してくれるってわけだ。重力場の中でこんな芸当ができる宇宙船は・・宇宙広しといえども、この着陸船だけだぜ」


 そう言って、ケイがポンポンと着陸船の壁を叩いた。


 「そうね」


 私はそう言ったが・・それでも不安は去らなかった。


 「本当に・・この船だけなの? 後から、誰かが別の船で追ってくることはないんでしょうね?」


 ケイが笑った。


 「あはは。サユリは心配性だなあ。大丈夫さ。この船は、重力場を跳ね返す特殊な金属で作られた、重力場用の宇宙船第一号なんだぜ。その特殊な金属は、ごく少量しか合成できないことは、サユリもよく知っているだろう。だから、重力場用宇宙船の第二号の完成は、地球時間で100年後とも200年後とも言われているんだ。


 つまり、惑星クロノスの重力場に侵入して、この船を追って来られる宇宙船は・・俺たちが生きている間は、どこにも存在しないというわけだ。惑星クロノスの恐ろしい重力場が、ずっと俺たちを守ってくれるってことさ。だから、クロノスで、俺たち二人だけのパラダイスを作れるんだ。母船から盗んできた、この最新式のロボットを使ってさ」


 ケイが、私たちの足元で横になってる人間型の高性能ロボットを足で軽く蹴った。でも、ロボットは身動きもしない。船がクロノスに着陸してから電源が入るようになっているのだ。

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