未知もまた『未知』を知る

蠱毒 暦

無題 『黒猫』と『物体X』


にゃぁん♪可愛い『黒猫』だと思った?


残念。反抗する気力もなく、かまってちゃんにもなれない不出来な少年捨て猫でした。


はぁ………何やってんだ、僕は。


……


【零落園】。所属する前も今も…結成された動機も、存在理由もある程度は仮説こそ立てられるが、謎でしかない。


「クリスマス、何処行こっか?」


「そうだなぁ…」


各々に割り振られた役目を果たす時以外は、基本的に、自由に振る舞う事を許されていながら、少しでも【零落園】についての情報を流せば、『狩人』に始末されるという矛盾っぷり。


しかも、所属している17人中…約半数が人間という枠組みから逸脱した異常者や、人外という驚きのラインナップ。


「お。雪だ。」


「早く家に帰ろー、パパ!」


何もとりえもない何処にでもいる単なる一般人の僕じゃなくても…いいやっ!たとえ、衣食住や、贅沢にお金が使える事が約束されていようとも、裸足で逃げ出すレベル。


じゃあ…何で、所属してるのかって?


……完璧主義の兄と違い、不出来だったから家族から捨てられて、適当な路地裏で野垂れ死のうとしてた僕を『自由人』が拾ってくれたから以外ない。


「…おい。」


恩返し?違うね。これはあくまでも自身のキャリア形成の一環。生き残った以上…兄や家族に目に物を見せてやりたい……ただそれだけ。


前提として、今年で中学3年生…にもなれなかったクソガキが社会にひょっこり出て行って何が出来るよって話だ。


だから、色んな奴とコンタクト出来てかつ、この先の人生で役に立ちそうな人とのコネクションや、経験を大量に得られるこの受付ポジは…ベストって訳。


「【零落園】の手先…依頼がしたい。」


手先…か。これでも僕は【零落園】の一員で、序列第6位なんだよなぁ。ま… 『自由人』が適当に好き勝手に決めた序列だし、言ったら言ったで始末されるから言わないけど。


「…はいよっと。」


そんな思いを胸に抱きつつ、イルミネーションに飾られたクリスマスツリーから飛び降りた僕は、怪しげな依頼人を見て暗く笑う。


……


カツッ…カツッ


『黒猫』である僕の役目は、大きく分けて2つ。


【ボディーチェック開始……完了。】


1つは受付役として、依頼人と【零落園】に所属している者との橋渡し役になること。


【生体認証を行います。】


【零落園】にはお金次第で、少しでも見聞きしただけで瞬時に状況を把握して、事件を解決する『悟り探偵』、同様にお金次第で、どんな奴でも騙せてしまう『詐欺師』、最近だとクフ王のピラミッドを丸ごと盗んだ『怪盗』といった特級危険人ぶ…んんっ。奇想天外、摩訶不思議な奴らがわんさかいる。


【——、————……完了。】


形はどうあれ、全員とそれとなーく話せる社交性があった故に受付役になってしまったであろう僕は、なんと、【零落園】に所属する全員の連絡先を持つ特典が与えられているのだ。


【パスコードを入力して下さい。】


「…ふん。」


一般人である僕からして見れば…ぶっちゃけ、何も嬉しくないし巻き込まれたくないから、あんまし話したくもない。


【全行程終了。『黒猫』様である事を確認。対核防護ゲートを開きます。】


大体……面白がって馬鹿にされるか、騙されるか、金を取られるか、コケにされるかだし。


ウィ———ン


「久しぶり。元気してた?」

「<3%=(^,€(…¥%・4-」


『自由人』が用意した極秘施設の最奥にある白色のベットに横たわり、黒色の目隠しがつけられた全裸の僕。


否。僕のカタチを模した『物体X』は、見えてもいない筈なのに、僕の方を見つめていた。


もう1つの役目…それは昔、沖縄の某所で発見された『物体X』を観察、監視すること。これは…何のとりえもない一般人である僕にしか出来ない、重要な役目だ。


……


対核防護ゲートの側に置かれた『怪盗』お手製のボロボロの端末を持ち、付け心地が最悪な猫耳っぽい木製のヘッドホンをつける。


『物体X』

序列は第11位…とかは関係ないけど。


彼(或いは彼女?)の存在があったからこそ【零落園】が結成されたのではないだろうかと…たまに、思う時がある。


「あああああ。」

「111ああ。」


木を隠すなら森の中みたく、本当に隠したいものは、色物揃いな【零落園】の中…的な?メンツ的に考えても…そうとしか思えない。


『自由人』に聞けば分かるけど…口調といい、ウザいから答え合わせはする気はないけどね。


「…よし。」

「…よし。」


端末を使って、手足の拘束を解いた。


ガチャッ


「今日は定期検査の日だから。」

「今日は定期検査の日だから。」


「ま、僕はやらないけど…ついて来て!」

「ま、僕はやらないけど…ついて来て!」


また真似して遊んでる…やりにくいなぁ。


……


『物体X』は【零落園】において、僕にしか扱えない理由は単純明快。


何度も言及して、心が折れそうだけれど…僕が何のとりえのない一般人だから。


『自由人』曰く…「平気平気。天才でも癖も強い訳でもないし、成り代わろうする訳がないであります!!安心してもいいでありまぁすよ?」だそうだ。


何だか無性に1発…殴りたいな。


「早速、身長と体重を測るよ。」

「早速、身長と体重を測るよ?」


「…チッ。」

「…チッ。」


『物体X』は出会った人物を肉体や口調は勿論、本質まで模倣する性質があり、ある日突然、何の前触れもなく、その人物において最も大事なものを永遠に失わせて成り代わろうとする。


前任者だった『預言者』から、『物体X』といた記憶と善性の心を永遠に失わせたように。


「はい、口開けて。」

「はい、口開けて?」


「っ…いや、お前が開けるんだよ!!」

「っ…いや、お前が開けるんだよ!!」


本来なら『物体X』を理解する為に実験とかやった方がいいんだけど…そんな事したら、この施設どころか、ユーラシア大陸ごと消失する。


太平洋戦争後…『物体X』を沖縄で発見した連合軍は、『◾️体X』を確保し、実験や解剖を行ったら、暴走した『◾️◾️X』によって、アフリカ大陸ごと消し飛んでるらしいしね。


「おしまい…じゃ、ベットに戻ろう?」

「おしまい…じゃ、ベットに戻ろう?」


はぁ…疲れた。僕が担当する事になってから、ずっとこれだ。


僕は『◾️◾️◾️』がベットに転がったのを見て、端末を…あれ?◾️って誰だっ…


ガチャッ


「ばいばい。」

「ぁ…ちょ、待っ!」


ウィ———ン


手足が拘束され出口へ駆け出していくのを、呼び止めようとしたが、うるさいサイレンが鳴りながらゲートが閉じてしまい、届かなかった。


……


「4*(. 4*(. 4*(.」


外、外、外!!!!


息が白い…冬?

寒い=気持ちいい


これは…雪?


今日=クリスマス?

確定


=プレゼント欲しい


山、町、都市、男、女、子供、女、子供、老人、男、女、男、男、子供、子供、子供、女


「きゃぁぁぁ———!!!!変質者ぁ!?」


変質者?(╹◡╹)はhtohtoS-goY


「>…%i%8(*(・4(\-」


知らない 分からない 理解不能

(╹▽╹)に教えて?


「ぅ…泥棒だぁ!!!」


「誰か、捕まえ」



〜〜♫



「…て。」


もっと、もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと


溢れんばかりの知識を

隠された叡智を寄越——タァァン!!!!


「☆4☆,」


頭→血+脳みそ=沢山出てる 

暖かい=『痛い』に再定義


これは…怒り?

攻撃

超超遠距離からの狙撃=『狩人』?


タァァン!!!!


「☆4☆,」


再度 頭…人間は即死=絶命狙い


(╹o╹)への攻撃=確定→eTceV顕現


「¥→9」


右肩を叩かれた感触

誰?


「はぁ…はぁっ…ギリ間に合った。『怪盗』が周りの人達を洗脳してる間に帰ろう…って言いたかったけど、まずは服を着よっか。施設内ならともかく、外では服を着るのが常識だぞ!」


(╹∇╹)


服を着る…『常識』に再定義

裸=『恥ずかしい』に再定義————???


モヤモヤ…モヤモヤ??


頭 ポカポカ熱い→傷?再生済み…不可解

形容不可能 表現不能 言語化不能


理解拒絶=……………………🟥


(*╹〜╹*)


「♪…」


……



後日談。


どうして僕が、あそこから救われたのかは…


『ナハハ!!!』


この際…どうでも、いいっ…!!!!!!!!


のほほんとやって来た『自由人』の適当な指揮の元…『物体X』を狙撃で引きつけた『狩人』と周囲の人達を洗脳して避難させた『怪盗』、それと『黒猫』である僕も含めた共同捕獲作戦は、無事成功を収めましたとさ、ちゃんちゃんでおしまいっ!


それよりもだ。


(『物体X』めぇ…僕の記憶を失わせた挙句、僕の姿で好き勝手、動き回りやがってぇ…)の方が圧倒的に僕の中で勝っている。


自業自得ぅ?っ…やかましいわ!


「お前…プレゼントが欲しかったのか。」


「……うん。」


今月の定期検査を終えて、ベットに座って俯く『物体X』に俗物だなとは言えない…今は僕がベースになっているのだから。


「ほら、服はあった方がいいし…それあげるよ。それとごめんね…食事も排泄もしないし、定期検査の事を考えたら、全裸の方がやりやすくてさ。いらないなら別に」


「着る。100億年に1度…確定。」


「!?それは大袈裟すぎ…待って、マジで適当に買った奴なんだけ…ど。」


あのクリスマスの夜に、服屋で買った無地の安い服やズボンを見て目を煌めかせる『物体X』に対して僕は言葉を飲み込んで、黙って頭を撫でてあげた。


んん?髪…気持ち、ちょっと伸びてる?


目隠しはちゃんとしてあるから、見た目は僕と初めて出会った時のままで『更新上書き』する事もないし、変化する筈もないんだけどなぁ…それは後で考えよう。


「?……再度、ポカポカする。」


「…そ。」


心の底から嬉しそうに、『物体X』が服を大事そうに両手で抱き抱えている姿を見た僕は…ふと昔の事を思い出して、目を閉じる。


思い返してみれば、貰えるのはいつも兄ばかりで、僕はクリスマスプレゼントどころか、ご馳走すら一度も食べる機会もなかっ…ん?


あれれ。今更だけど…どうして、僕は記憶が戻ってる?永遠に失うとかって謳い文句じゃなかったっけ?


僕は目を開けて、『物体X』を眺める。


1歩、進んで2歩下がる。未知なる存在を完全に理解するには、まだまだ時間がかかりそうだ。面倒で心底、骨が折れるよ。


変わるなら、変わって欲しい…定期検査。

う。字余りだった…ちょっと悲しい。


「なあ『物体X』?」

「なあ『物体X』?」


チッ…また始めやがった。本当、嫌な奴だよ。


「もっと沢山、構って欲しい。」って言えない所が特に。頼むから、昔の自分を僕に見せつけないでくれよ…気が滅入るから。


                   了

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