診察室にて。
あきこ
世界は人の数だけ
こんにちは。
ねえ、先生。
おばけっているんでしょうか。
職場でそんなことを考えていました。
私はおばけがいるとはおもいません。
人は死んだら、思い出の中のみで会えるのです。
しかし、私はよくおばけをみます。
黒髪ロングの白装束の女が井戸から這い上がってきたわけではないけれど、
この現象を分類するなら「おばけ」なんでしょうね、という白昼夢のような現象をたびたび体験します。
小さいころに何を言ったわけでもなくとも祖母から「この子には霊感がある」といわれていましたしね。
最近、ひどいのです。
自宅のドアが外から開けられようとするのです。
しかし、私が気付くのはドアが音を立てるより前なので、現実の不審者でもないのでしょう。
なので、ここに来ました。
幻聴・幻覚の類だと思って。
先生、私、おかしくなってしまったのでしょうか。
様々な検査を受けましたね。
その結果。
私の五感から始まる様々な感覚器の性能が通常の半分以下であることがわかりました。
別に何か事故や病気ではありません。
そもそも何もなければ人の能力は均一だというのが思い込みなんだそうです。
工場で作られた規格品じゃないのだから、そういう感覚器の弱い人は一定数いるようです。
先生は、人間は実は世界の中にいるわけではなく、世界から取り込んだ情報をもとに脳の内側に世界を作り上げるとおっしゃいましたね。
それをするには一定以上の情報量が必要ですが、感覚器から得られる情報が十分でない人はどうなるか?
自分の脳で世界を補填することになります。
そうすると自宅での見慣れない人影や、あるはずのない声、動くはずのないものの動きなどを見ることになります。
大学の授業で習いましたが、イタコやシャーマンなどの霊能力があるとされる人々はどの地域でも目が見えなかったりする人が多いのだそうです。
祖母はおそらく、とっさに目で追いかけるようなものに反応しなかったり、あらぬところを注視する様子を見て、それは私に霊感があることが原因だと判断したのでしょう。
以上の理由から、感覚器の貧弱な人は現実離れした世界を生きることになります。
ま、釈迦に説法でしょうか。
つまり、おばけはいない。
しかし、おばけを見たという人が嘘をついているとは限らない。
今も、ドアノブが、外から。
ここにも来ちゃったんですね。
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