ショーペンハウアーのぼやき〜なぜ私がトイプードルに転生した?〜

zakuro

ショーペンハウアートイプードルになる

第1話 名前という名のレッテル

私は今、「モコちゃん」と呼ばれている。

この柔らかく、どこまでも思考を拒む音の連なりが、私の存在を包み込んでいる。


生前、私は意志について語った。

世界は意志と表象でできている、と。

だが、どうだ。

この世界では、名前がまず先にあり、思考は後回しだ。


「モコちゃん、ごはんだよ」


美咲が、床に皿を置く。

乾いた粒状のそれは、栄養学的には完璧らしい。

だが味覚とは、意志の最も素朴な表象である。

不味い。

正確には、味がしない。

これは“満たされているという記号”だ。


私はそれを咀嚼しながら考える。

人間は、概念を食べて生きている。

健康、映え、安心、安全。

味など、最初から問題ではない。


「いい子だねえ」

「……」


頭を撫でられる。

温かい手。

反射的に尻尾が揺れる。

意志は身体に宿る。

理性は、いつも遅れてやってくる。


私は何も言わない。

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