超能力選挙

間下田

第1話

 「おーい、いつまで寝てるのよ!もう7時!」


 リビングからの母の呼びかけで目を覚ます。

 夏休みなんだが?と思いながら枕元のスマホに目を向け、まだ6時59分じゃねえかと心の中でツッコミを入れる。


 2〜3時間しか寝ていない割には夏の蒸し暑さからかすぐに起きあがれたのでリビングに向かった。

 父はもう仕事に出たみたいなのでキッチンの母にだけ声をかけテレビが見える位置に座る。

 テレビをつけるとインタビューのようなものが放送されていた。ツーブロックの七三分け、高身長でスーツ姿がよく映える清潔感の権化のような男性だ。

 しかし、好印象な見た目にも関わらず何かこの人から圧というか違和感を感じた。


 インタビュー自体大した興味はないが違和感の正体を突き止めたかったためこのままテレビを見ることにした。


 『私はこの町を良くしたいんです。』『私には今すぐこの町を変える準備ができております。あとは皆さんと手を取り合って計画を推し進めるのみです!』かなり大口を叩いているように見えるがそういう自信が彼の取り柄なのだろうか。


 「この人って、支持率今独走状態なんですって!無所属なのにすごいわね〜。」「へ〜すごいなー。」「あんた興味ないでしょ。」など母と会話を交わす。


 すると次第にこの政治家から感じる違和感が強くなっていき、「この人、なんか変じゃない?」と母に問いかける。

 しかし母は「え、何が?」と分かっていない様子だ。

 ん?俺だけ?そう思ったものの、まあ俺の勘違いだろうと深く考えないことにした。


 朝ごはんも食べ終え、日課の散歩に出るため着替えを済ます。

 何か話の種になるものはないかとその辺をぶらぶら歩く。

 閑静な住宅街を抜け人口数十万の都市らしいそれなりに発展した駅の方に出ると、駅の入り口あたりで何やら熱気を感じた。

 ストリートミュージシャン?と思いながら近づいてみると、そこには記憶に新しいあの政治家の顔があった。


 今まではあまり気にしていなかったが、思い返してみると毎日ここで人が立っていた、そんな気がする。

 『今のままではこの町は変わりません!』『私が今すぐに変えて見せましょう!』


 すごい熱気が少し離れているここまで届く。支持者の応援も相まって聞いてるこちらの汗が止まらなくなるほどだ。


 演説を聞こうかとも思ったがあまりの熱血で近づき難いので離れようと思ったその時、ふと彼と目が合った。


ーーその瞬間、体に電流が走ったかのような感覚。それと同時に一つの思考が頭に入ってきた。


『征服』


 耳元で叫ばれているような喧騒の中で唯一はっきり聞こえるのはその2文字。

 なぜか分かる、これは間違いなくあの政治家の思考だ。

 脳がリンクしたように感じた。

 少し余韻がありハッとする。意識が現実に戻り地面に足がついた感覚がした。


 自分がこうなったなら彼はどうだとチラッと目を遣る。

 しかし彼は真面目な表情を一切崩さずに演説を続けていた。


 取り敢えずこの場を離れよう、そう思い背を向けたその時、体に寒気が走る。

 振り返ると彼は鬼のような形相で俺のことを睨みつけていた。

 そして、俺は逃げるようにその場を後にした。


 何か落ち着ける場所はないかと早歩きで辺りを見渡す。

 駅から少し離れたところにカフェがあることを思い出しそこに入ることにした。

 アンティーク調の店内はジャズ音楽も相まって大人びた雰囲気だ。

 俺みたいな子供は分不相応かと思いつつもミックスジュースを注文し、奥の方の1人がけの椅子に腰掛ける。

 ジュースを飲んでいると少し気分が落ち着いてきたので、さっきの出来事を振り返ることにした。


 まず、俺とあの政治家は目が合った。その瞬間征服の2文字が俺の頭に浮かんだ。あの時の宙に浮いた感覚を思い出すと今でも吐き気がする。

 流石に勘違いや気のせいでは済ませないが、だからといって俺が何かをできるとも思えない。

 だったら…よし、帰ろう。その時だったーー


 「なあおい、お前も感じたか?」いきなり隣から声をかけられた。


 「お前、すごく集中してた感じだな?何回か声をかけたんだが、無視されたもんだからさ。」


 誰だ?見知らぬ男だ。俺より一回り上の年齢だろうか。小綺麗な見た目をしている。


 「すみません、何か用ですか?」

 よし、とりあえず敬語だ。ヤバい奴かもしれないし警戒に越したことはない。


 「用も何も最初に聞いただろ?お前も感じたかって。」


 何のことだろうか。訳が分からなくて黙りこくってしまった。


 「あの政治家のことだよ。お前のこと見てたんだが明らかに様子が変だったぜ。あいつの力にあてられたんだろ。」

 そう言って男は続ける。


 「単刀直入に言う、お前にはあいつの力が通用しない。あいつを倒せ。」

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