最期の約束が今も。

ただの人

第1話

寒い。呼吸をする度に肺まで冷たい空気が張り詰めて凍ってしまいそうだ。

帰路に着く途中、公園から啜り泣くような嗚咽が聞こえた。横目で確認すると薄着の女性が1人、ベンチで項垂れながら泣いていた。

怖いもの見たさだったのか、心配からなのか僕は駆け出しで声をかけていた。

「大丈夫ですか!?」

独りで泣いているのに大丈夫な訳がない、と冷めた頭が働いてきた。一人であたふたしていると彼女は目線をあげずに質問を投げかけてきた。

「私のために、命を差し出してくれますか?」

意味がわからなかった。彼女は初対面のはずだ。なんで? 少し考えた後、問いかける。「あの、何故ですか?何か理由があるのなら然るべき機関に相談とか…」

彼女は話を遮り大声で言う。「それじゃあダメなんです。だって私は…!」視線を泳がせながら声を絞り出していた。暫くしたら頭を抱えながら口を開く。「ごめんなさい…。ごめんなさい。失礼ですよね。忘れてください。」その様子がいつかの僕に重なって見えた。思わず乾いた笑いが出る。

ようやく女性がこちらを向いてくれた。綺麗な水色の瞳が僕を捉えるが物怖じせず答える。「貴方のために命を差し出せるか、でしたっけ?えぇ、僕は貴方のためならできますよ。喜んでこの命など差し出しましょう。」水色の目が大きく見開かれる。「本当、ですか!?」「ええ本当ですよ。だけど一つだけ、条件があります。」「お願いします、どうしたらいいんですか?私は何をしたら…」

言葉を遮り、冷たく言い放つ。「僕には価値が無いです。僕が死んだ時に悲しんでくれる人は僕の周りにはいません。あなたはそれでもいいのですか?」目の前の涙で顔を濡らしている少女は間髪入れずに言葉を紡ぐ。「それでも私は貴方が必要です。お願いします。」彼との約束を思い出し、少し残念に思えてくる。彼女は連絡先を交換しようと僕の気持ちも知らずに笑いかけてきた。最後まで彼の約束は果たせなかったな。自分の感情がよくわからなくなってきて彼女の目も見ずに返事をし、逃げるように家に帰る。

もう終わりなんだ。終わりにするって決めたんだ、と自分に言い聞かせる。スマホのバイブ音が鳴る。彼女からのメッセージだった。名前もなにも話してなかった、と慌てて打ち込んだであろう文章を眺める。彼女の名前は澪、と言うらしい。僕はたたたた、と入力をし始める。「僕の名前は琳冬です」、そう送信したらすぐに既読が着いた。澪さんから今度また会わないか、と言われすぐ予定を立て始める。結局、明日の夜7時、近くのカフェで会う事になった。スマホをベッドに投げ、横になる。今日も学校で仮面を被ってしまった。毎日反省して言いたいことは言えるようになろう、って決心してるのに。

彼も両親もいないこの世なんてなんの価値もないから逝ってしまってもいいのかもしれないな、いつからこうなったんだろう、と馬鹿なことを考えてると瞼が重くなってきた。僕は睡魔に身を任せて思考を辞めた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈処女作です。カクヨムに投稿するの初めてなので使い方が変だったりするかもしれません。

暖かい目で見ていただけますと助かります。

見ていただき、ありがとうございました。

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