第4話

「リンさん、ライン交換しよ」

「あ、うん」

「俺、セイって言うんだ」

「そう」

いつものキャバクラでの接客は出来なかった。仕事中だけど、セイの自由奔放なやり取りに振り回されまいと、すんとなった自分を作ってしまう。

ラインの交換を終え、グラスが空になってないか確認。体入の女の子がついている客のグラスはなくなりそうだから、作らないと。

「ライン、見て」

状況確認していると、また耳元で囁かれた。もうこれ以上やめて、内心で苛立ちながら、スマホを見る。

―仕事終わったら、リンさんの所行くね♥

隣に座っているのに、ラインで言いたいことを言う。仕事終わったら・・・あの日のように、胸を弄ばれる・・・

「想像した?」

「っ」

また、耳元で囁かれた。声の終わりの誘うような吐息に、体が震えた。仕事中なのに、下着がじんわり濡れたのが分かる。

なんとか自制心を保とうと、パーマイケメンのグラスに氷を入れて、お酒と割り物を注ぐ。私の動きに気付いた体入の子は、あっ、という顔をして私を見て、小さく会釈した。

懸命に客と会話をする中で、お酒を作ることまで気が回らなかったことを後悔するような表情。今の私にはそんな姿さえも、癒しに思えた。

セイの体を熱くする言動を忘れさせてくれるような、純粋な姿だった。


仕事が終わり、セイに指定されたバーに向かったのは、深夜3時過ぎだった。

「あ、リンさーん!お疲れ様ー」

バーに入ると、カウンターでお酒を飲んでいたセイがこちらを振り返り、手を振った。セイの隣には、同じような年ごろに見える、アイドルのような可愛らしい男の子がいた。

セイだけじゃなかったことに、何故か安堵を覚えた。

「こいつねー、シュン!よろしくねー!」

「よろしくお願いします!」

「どうも」

シュンと紹介された可愛い男の子は、にこっと笑って挨拶。本当、アイドルグループにいそうな、歌って踊って汗を流していそうな顔。

私は、セイとシュンの間に座り、お酒を注文した。

「リンさん、バーでは何飲むの?」

「んー、キールとか」

「おっしゃれー!」

セイは外見からは想像出来ない、明るい話し方をする。黒髪、太い眉、奥二重の意志が強そうな瞳・・・と来たら、静かに話すとか、寡黙なイメージなのだけど。

高校生や大学生だったら、カーストのトップ、一軍にいそうな人。


「ねっ、シュンのことどう思う?」

「どうって?」

キールを2杯ほど飲んだ所で、セイが切り出してきた。一体何の話か?とセイを見た。

「こいつ、こーんな可愛い顔してさ。女の子と付き合うの怖いって言うんだよね」

「そうなんだ」

セイの言葉を聞いた後、シュンを見た。

「女の子って、口だけじゃないですか?僕のこと好きって言う割に、他の男のことをカッコイイって言うから・・・」

シュンの告白に、なるほど、と思った。可愛い顔して、独占欲が強いタイプだ。もしかしたら、女性を痛めつけて興奮する趣味嗜好があるタイプなのかもしれない。

心の中でシュンの正体を考えていると、

「ねぇ、シュンとセックス出来る?」

「え?」

また、耳元で囁かれた。そして、セイの手は足と足の間に滑り込んできた。他にも人がいるのに・・・

セイの動きを見たシュンは、目を大きく見開いて、ニヤリと口角を上げた。

可愛い顔をしていても、男。シュンの本性を垣間見たような、そんな気がした。

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