剣と紋章《エムブレム》の世界に転生して~辺境の農奴に転生した俺の手には、五大国の王しか持たないはずの『王之紋章』が刻まれていた~
KAZU
第1話 転生したら剣と紋章の世界でしたー1
意思の強さこそが人の強さだ。なんて主人公が言いそうなセリフが正しいのなら。
間違いなく俺より強い意思をもって立っているのに、敗者となった彼らは間違っているのだろうか。
まぁ……どうでもいいや。めんどくさい。
『ストライク!! バッターアウト!! ゲームセット!!』
俺の投げた白球が収まって、審判の気合の入った声が甲子園球場に響く。
敗者であるはず彼らは、悔しそうに這いつくばり、泣いていた。
なら自然と、勝った俺達は抱き合い喜び合うのが普通なのだろうが。
「……ちっ、負けろよ。くそが」
「はいはい、天才様がよ。きもちわりぃ、マシーンが」
「一人でやってろ……社会不適合者」
そんなこともない。
チームメイトに罵倒されながらマウンドを降りた。
いつものことだ。
俺はみんなから嫌われている。両親からも嫌われて捨てられたぐらいなのだから当然だ。
でもそれでいい、俺もみんなが嫌いだから。
「嫌なら、やめればいいのに……下手くそなんだから」
「はぁ?」
俺が思ったことをつぶやくと名前はなんだっけ? 忘れた。多分先輩が殴りかかってくる。
避けるのもメンドクサイ……。
バシッ!
「ナイスゲームでした。先輩」
すると、リュウが間に入ってきて、その拳を止めてくれた。
殴りかかってきた強面の先輩はおどおどと震えている。
「……す、すみません。リュウさん……つい」
「整列しましょう」
「……はい」
リュウに謝り、びくびくと震えている。
リュウは怒らせてはいけない。
大企業の御曹司で、全国模試一位で、モデルで、インフルエンサーで……人気者。
俺とは真逆で完璧だからだ。
後輩のリュウにみんな敬語を使って、頭を下げることから明らかだ。
するとリュウが俺の肩に手を乗せる。
「……空、お前はいつも通り完璧だったな。さすがだ」
「うん」
リュウが褒めてくれる。
周りの名前も知らない奴らに嫌われようが、それだけで俺はよかった。
整列し、甲子園球場を後にしようとする。
カメラを持った誰かが俺に向かって走ってきた。
「空選手! 甲子園決勝進出おめでとうございます! ぜひ、インタビューをお願いしてもよろしいでしょうか」
「……嫌」
「い、いや!?」
唖然としているが、聞かれたんだから嫌だと答えただけだ。
「僕でよければ受けますよ」
「龍令選手! ありがとうございます! ぜひ、お願いします!」
「空、クールダウンはしとけ」
「……うん」
そして俺はクールダウンのジョギングへ向かった。
俺が球場を出ると、女の子達が叫んでいる。サインを求められる。
こんな俺でも表面的には好きになる人はいるんだろう。
でも違う。
彼女たちが好きなのは、俺ではなく甲子園ピッチャーという肩書だから。
俺は無視して、走る。
最初からいなければ、もう傷つくことはないから。
俺が誰かと関係を作れば、必ず壊れる。嫌われる。心が痛くなる。
だから誰も俺に近づくな。
アナウンサーがリュウに近づく。
『龍令選手! 大病を患いながらの甲子園決勝出場おめでとうございます! お気持ち……きゃぁ!? 血!?』
『失礼……大丈夫です。今日は少し熱かったですからね』
『だ、大丈夫でしょうか』
『えぇ。あと一勝……次で最後ですから。もたせて見せますよ』
吐き出した血を拭いながら、青ざめた顔でリュウは笑う。
俺は、気づけば知らない場所にいた。
「スマホ……忘れた。財布……忘れた……迷った」
公園があったので、ベンチに座った。
別に何かが好転するわけでもないのに、ぼーっとする。
すると目の前で男の子が壁に書いた的に向けて野球ボールを投げていた。
5、6歳ぐらい? 俺はそれをただ眺めていた。
……1時間ぐらいたっただろうか。
その間も、ずっと一人で壁にボールを投げ続ける男の子。少し寂しそう。
それを見ていると嫌な思い出が蘇った。
忘れたい記憶――捨てられた記憶。
俺が4歳の頃だ。施設に預けられた年、そして俺が父さんと母さんに捨てられた年。
もう忘れたはずなのに、あの時の記憶を思い出すと苦しくなる。
父さんにもらった野球ボールを、ずっと壁に向かって投げていた。
朝から晩まで、ずっと一人で。
うまいぞ。って父さんに褒めてもらいたくて。
でも俺は父さんに捨てられた。いらない子だった。
夕暮れ、暗くなりだす時間。
騒がしかった公園も、静かになっていくこの時間が大っ嫌いだった。
親と手を繋いで嬉しそうに帰っていくみんなを見なきゃいけないから。
俺も母さんと手を繋いで……今日もたくさん遊んだねって……笑いかけて欲しかった。
ぎゅっと抱きしめて欲しかった。今日何食べる?って聞いてほしかった。
迎えに来てほしかった。
でも俺は母さんに捨てられた。いらない子だった。
いつかきっと……迎えに来てくれる。そう信じて、父さんと母さんとよく遊んだ公園で毎日遅くまで待っていた。
でも、誰も来てくれなかった。泣きながら施設に帰る。
わかっているのに、明日はきっと……そう思ってまた公園に行く。その繰り返し……。
『ママ、パパ……迎えに来てよぉ』
叶いもしない願いを抱いて、きっと……きっと……明日こそ。
『そんな日は一生こない。クズな親に期待などするな』
雨の降る日だった。
その言葉に泣きじゃくって否定する俺を、冷たい言葉とは裏腹に優しく抱きしめてくれた。
『一人で立てないなら、俺と立て』
そして優しくぎゅっと握ってくれた手。
俺と同じぐらい冷たい手だったのを覚えている。
でも握れば二人ともの手が温かくなっていくのも覚えている。
『俺と一緒にこい、空』
それが、リュウとの出会いだった。
もう……随分と昔のことになる。
「お兄ちゃん、野球上手なの?」
「ん?」
気づけば目の前に、一人で壁投げをしていた子が目の前にいた。
首をかしげると俺のユニフォームを指す。あぁ、野球部だと思ったのか。そうだけど。
「僕、野球うまくなりたいけど……でも狙ったところに投げられないんだ」
「……お父さんとかお母さんは?」
「お父さんはいないよ。お母さんは仕事でいっつも遅いんだ」
「そっか……あの的?」
「うん」
不思議と会話が出来た。
いつもならめんどくさい……そんな感情が出てくるが、今日は違った。
なんで? 親がいないで寂しそうなこの子を見てたら、過去を思い出したから?
俺は自分と重ねているのだろうか。わからないが、俺はボールを受け取って投げた。
「こんな感じ」
「うぉぉぉ!! すげぇぇ! こんな遠くからど真ん中だ!! もう一回やって!!」
俺は言われるがまま何度も投げた。全部当たった。
そのたびに驚き、キラキラした目で俺を見る。
色々教えてあげた。なんでできないのかよくわからなかったけど。
「ふぅ……疲れた。お兄ちゃん、天才だけど教えるの下手だね」
「……リュウも言ってた」
「でもありがとう。うまくなった気がする!」
「……そっか」
「野球ができるようになったら……僕も友達できるかな?」
「……いないの?」
「うん……お兄ちゃんは友達いる?」
友達……。
親に捨てられて、施設では嫌われて、施設の先生からもコーチからも。
一緒に戦う野球仲間からも嫌われて、みんなから嫌われて……。
でも……。
「1人だけ……たぶん」
「そっか……一人でもいれば……いいな。僕いないから……じゃあさ! 真ん中に当たったら僕と友達になってくれない?」
そういって、立ち上がり、ボールをもう一度投げる。
滅茶苦茶外れた。そして変な方向に転がっていった。その子は、走って取りに行った。
「友達…………友達……か」
そのボールの行く先を見ながら俺がつぶやく。そのときだった。
うるさいぐらいのクラクションが鳴り響く。
ボールに夢中で、道路に飛び出したその子に向かってトラックが突っ込んできた。
その子は動けない。轢かれる。
――死――
思考よりも体が反射的に動いた。
鍛えた足、全力で蹴る。最短ルートが脳に刻まれる。
いける。間に合う……脳みそがフル回転した結果は、ギリギリ間に合う。
そして俺はその子をギリギリで突き飛ばして助けることに成功した。
俺にトラックが迫る。慌ててハンドルを切ったのだろう。こちらに向かって突っ込んでくる。
だがこれを含めて間に合うだ。
目の前の死……でも冷静に見える。大丈夫、躱せる。
俺は一歩ステップで下がった。躱した。
「ママ!!!!」
「え?」
トラックの進行方向には、女性が走ってきていた。
俺が助けた子に手を伸ばしている。助けようとしていた。
だめだ、俺と同じコースで……トラックに直撃する。
再度脳がフル回転する。世界が止まる。
でも……もう間に合わない。
助けることはできない。
あらゆる情報が、もう不可能だと告げている。
あの人は轢かれて、死んで……そして。
*
『ママ、パパ……迎えに来てよぉ』
*
あの子が俺と同じ、一人ぼっちになる。
それは……ちょっと嫌だな。
「ぐっ!!!!」
気づけば俺はトラックを利き腕で掴んでいた。爪が剥がれて、指の骨が折れた。関節も外れた。
感じたことない衝撃で、体が慣性で引っ張られ、激痛が走る。剥がれそうになる。
それでも、ぐっと力を入れ、無理やりトラックの前に飛び出した。
そしてその女性を突き飛ばした。
ドン!!
代わりに俺がトラックに轢かれた。
クラクションと悲鳴が聞こえる。
体が動かない。血が水たまりのようになって、目が霞む。
あぁ……そうか……俺は死ぬのか。
別に……いいか。悲しむ人もいないし。
あ、でも……リュウは怒るかな。
次、決勝戦だし、謝らないと…………。
さっきの子と母親がこちらに走ってきて叫んでいる。二人とも無事みたいだ。
ひとりぼっちで寂しそうに見えたけど、命を懸けて守ろうとしてくれるお母さんがいるんだな。
捨てられた俺とは違う……なんだ………………なら。
「…………よかったな」
俺は静かに目を閉じた。
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寒い。ここはどこだ?
目が見えない。体が動かない。
『生まれた……生まれたの?』
……温かい。
抱きしめられている? でも体が動かないのは変わらない。
でも……とても温かくて柔らかくて……安心する匂いだった。
ここは……どこ?
『あぁ……レオ……レオ……私の赤ちゃん。頑張ったね……頑張ったね』
何か聞いたことのない言語が聞こえる。でも耳が遠い。まるで水の中みたいだ。
『生まれてくれて、ありがとう……私のところに来てくれて……ありがとう』
「オギャ……」
…………オギャ?
あとがき
欲を言えば5話まで読んでもらえればこの作品の魅力が一気に伝わると思います。
最高に盛り上げて胸熱にしたので是非是非!!
さぁ、天才すぎるが意思無き主人公、剣と紋章の世界へと!
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