第11話

 夕暮れ。


 めしまろさんは窓辺に座って、外を見ている。


 オレンジ色の光が、めしまろさんの毛並みを染めている。白い毛が淡い桃色に、グレーの毛が深い紫色に。きれい、と思う。きれいで、ふしぎで、少しだけ寂しい。


「何を見てるの」


 私は窓辺に近づく。めしまろさんの隣に立つ。


 空。雲。遠くのビル。帰っていく鳥たち。


 それが、私に見えるすべて。


 めしまろさんには、もっと多くのものが見えているのだろう。私には見えない色。私には聞こえない音。私には感じられない、空気の流れや、光の粒子や、何か——何か、名前のつけられない何か。


「いつか、教えてくれる?」


 めしまろさんは私を見た。琥珀色の瞳。


 それから、小さく鳴いた。なゃあ、と。普通の鳴き声。可愛い声。


 答えじゃない。答えなんかじゃない。でも、返事ではある。


「そっか」


 私はめしまろさんを抱き上げる。ふわふわの体。温かい。


「一緒にいてくれるだけでいいよ」


 めしまろさんは私の腕の中で、目を閉じる。


 ごろごろ、と喉が鳴る。


 夕日が沈んでいく。空が紫色から紺色に変わっていく。最初の星が光り始める。


 めしまろさんは眠っている。あるいは、眠りと覚醒の境界にいる。あるいは、私には想像もつかない場所にいる。


 でも、体はここにある。私の腕の中にある。


 それだけで、今は、十分だと思う。

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