本文
本日の仕事。普段ならば見直しや体裁を除いて、三時間半掛けて終わらせるもの。因みに今回は見直しや体裁は考えない。一日掛けてやる仕事。そして一週間は欲しい仕事。
これらを全て一日で完了させるのは土台無理なので、三時間半掛けてやる仕事と一日掛けてやる仕事を延々とやる事になるだろう。因みに、風の噂で聞いた話によると、金曜日がふわっとしたデッドラインであるらしい。
画面を見て、金額を確認して入力し、括りを分けて、その繰り返し。総合計で出てくれれば今少し簡単なものを、其れがなされてない。画像読み込みの為、PDFの検索機能が使えない。こんな仕事を二時間程続けた後、突発的に思考が停止した。
この約百五十枚あるPDFの中から、たった一文字を見つけ出す事は可能なのか。検索機能も使わず。一応、目次は自分で作ったが、完璧ではなく、表記揺れも多い。
心配になったので、AIに聞いてみる事にした。約百五十枚あるPDFの中から、検索を使わずに特定の文字を見つけるのに何時間かかるか。
答えは無情であった。冷たい回答だけがそこに転がっていた。
――一時間から二時間ですね。
その言葉を見た途端、私の張り詰めていた神経系が一気に崩壊した。指の震えが止まらない。息切れはまだ起こしてないものの、動悸がする。返信を行おうにも上手く文字が打てない。それ故に、奇妙な文字を打ってしまう。
――ああああああああああああああああああああ。
其れは、言葉にさえならない私の心の絶叫であった。
家に帰ってくるなり、鏡花が俺の傍を離れない。言葉は少なく、必死に何かを抑えている様だった。引き離そうとも思ったが、如何せん窶れた顔に血走った目という極限状態の為、何も出来ずにいる。着いて回るよりも先ずはソファで寝転ぶ事が最優先だろうに。
しかし夕食を黙って口に詰め込むと、徐に口を開き始めた。
「……締切の分からない仕事を一つ。上司に聞かなきゃいけないんだけど、話すとお腹痛くなるから聞きたくない。何時もの四倍の仕事量をこれまでの経験から振り返るに、時間配分は通常と変わらない。残業も出来ない。嬉しいけど。でも出来ないと小言を貰う。完璧にやらないと何か言われる。……ストレスで崩壊した」
廃人になってしまったのは、そのせいか。限りなく無理な仕事をしても認められる事はなく、言われるのは常に小言。完璧を求められるが、押し付けた本人は完璧じゃない。だからこそ崩壊してしまったのだろう。
「お家だけが天国だぁ〜!! はははははははははは!!」
狂ったような金属質な笑い声が響き渡る。廃人から狂人に成り果てた姿だった。
俺は鍋の中からおでんのがんもどきを摘むと、彼奴の皿にぽとりと落とす。
「うぅ……」
「これだけで収まるものではないが、まぁ無いよりは」
「泣いちゃうからそんな事しなくていいよ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます