第1話 刀鬼と瞬動

 2つ名への昇格証明書と、正式な2つ名の命名書をギルマスに提出してきたクラナは、やつれた表情で私の元に来た。


「全く、酷い目に会ったわ。裏切ったわねナーシャ。」


「私にはどうすることもできなかったよ。お詫びとして、焼き鳥食べる?」


「ソースもありで手打ちよ。」


「はいはい。」


 ふぅ、何とか許して貰えたようだ。

 2週間ほど、離れていたうちに少し性格が変わってしまったような気がする。


 あれ?元からこうだったかも。


 二人並んでソース付きの焼き鳥を食べながら、2つ名についての話をする。


「それで、祝福は何になったの?」


「『瞬動術』みたい。」


「シュンドウ?」


 頭の中で音と意味が繋がらない。てっきり居合に絞った祝福とかだと思ってたけど。


「停止したあとの初動に、補正がかかる祝福だそうよ。あ、でも二つ名は『刀鬼』になるらしいわ。」


 汎用性が高そうだし、色々工夫できそうな祝福になったんだ。

 抜刀みたいな技以外にも色々工夫すれば……。うん。失礼だけど、この子がそんな器用なことできるわけないね。


 それにしても、祝福と二つ名が別々なんだ。

 あの子に直接聞かないと分からないけど、多分……。


「私と同じパターンだね。」


「⋯確かに。ナーシャも、祝福は『舞闘術』なのに、2つ名は、『精霊』だものね。」


「まあ、私の精霊も、クラナの刀鬼も、イメージにはあっているんじゃない?」


 精霊も、鬼も、どちらも伝承上の存在。


 そして、精霊は魔法的な方面で、鬼は武術的な方面で名前が知られているものだ。

 鬼は、角の生えた人族のような物、精霊は、半分が人、半分は魔法の様な存在だ。


「そうかしら?まあ、気にしても仕方ないわね。」


 クラナは、特にそこの違いには気にしていない様子。

 私個人としては結構重要というか、気分が重いというか、悩みの種が増えた感じだったりする。


 そう言えば、クラナが二つ名を貰えた事だし、あれを渡さないと。


 私が、クラナの買い物に付き合った日に買っておいた、あの黒い簪をポーチから取り出す。


「はい、二つ名昇級のお祝い。」


 クラナは、私に簪を差し出されて、きょとんとしている。


 うーん、反応が悪い。

 こういう物は髪に刺してあげる方がいいのだろうか?


「ちょっと後ろ向いてね。」


 クラナは、言われるがまま後ろを向く。


 耳より上の髪をまとめ、ねじってから団子状にして、そこに簪を指すだけ。

 という結構シンプルなものだ。


 エミリアさんに昔、教えてもらった髪のまとめ方だったりする。

 人の髪を結ぶことなんてすることないのにと思っていたら、偶然にも王都の知り合いの子が丁度いい髪の長さで、ついついやってしまったのだ。

 そうしたら、とても好評で会うたびに結んであげていたため、覚えてしまったのだ。


 クラナの髪は、あの子と同じように綺麗に梳かしてあるため、わざわざブラシを使う必要もない。私がしている魔法頼りのズルいケアよりも、ずっと髪質がいい。


「はい、できたよ。どう?」


 クラナに一つ手鏡を渡し、後ろ側から別の手鏡も使って結んだ部分を示す。

 我ながらよくできたと思う。


「あ、ありがとう。簪も、結んでくれたのも。」


 うん、良かった良かった。


 ご機嫌斜めだったのが、普段よりもいい状態まで来ている。

 間違った選択じゃなかったようだ。


 少し照れているクラナを横目に私は焼き鳥をつまむのだった。


ーーーーーーーーーーーーー



 クラナが王都に行っていた期間にあった、フノーツの話などをしていると、街の東側の外周の方から、冬の商隊のラッパの音が響く。


「そう言えば、冬の商隊が来る頃だったわね。」


「そうだねぇ。早いうちに行っておかないと、必需品系なくなっちゃうから明日にでも行かないとだね。」


 冬の備えがまだのなのか、数人の冒険者たちは仲間を連れ立って見物に行くようだ。

 その様子をぼんやりと眺めていると、入口の扉の方から外の冷気が流れてくる。


 時折人の出入りでやってくる冷気に、足をすり合わせていると、どこか懐かしい気もする足音がこちらに近づいてきた。


 クラナと揃って後ろを振り向くと、大きな杖を持ち、灰色がかった緑のマントを羽織った女性がいた。


「シンリー?!」


 クラナが大きめの声で叫び立ち上がると、その女性はフードをおろす。

 彼女の手首には、金色のプレートが輝く。


 そして、それと同じ金色の短めの髪が緩く広がり優しく微笑む。

 そして、クラナに駆け寄り、抱きしめる。


「ただいま、クラナ。それと、二つ名昇級おめでとう。」


 そう言って、もう一度強く抱きしめると、クラナを離す。

 さて、私も挨拶をしておこうかな。


 久々、というよりも、一年近くあってない相手だ。


「おかえり、シンリー。王都で有意義な時間過ごせた?」


「はい。リアーヌさんの助言の通り、とても良い一年間でした。」


「そっか。どう?魔法は上達した感じかな?」


 それを聞くと、シンリーは苦笑いを浮かべる。


 ふむ、王都の学院でする研究は魔法の開発だけだと思っていたのだけれど、違うのかな?


「上達と言うよりも、私の場合はですが、理論の方が中心でしたね。魔力の効率的な使い方や、複数人で行う魔法の構築についての論文を仕上げて、帰ってきた感じです。」


「複数人で、か。私も試したことがない分野かも。面白そうだしまた今度、リアーヌと一緒に聞かせて貰おうかな。」


「はい!まぁ、論文は仕上げましたけど、完全な結果では無く、可能性の段階って形で締めてしまいましたからそんなに凄いものでもないですよ?」


 少し恥ずかしそうに、シンリーは微笑む。

 でも、複数人で魔法を構築するのは結構難しそだし。仕方ないのかな?


 それに信頼関係とかも影響しそうだし。


 クラナはあまり魔法の方にはそこまで興味が無い様子。

 たまに使うものではあっても、メインの武器ではないから興味が薄いのも仕方ないか。


 私は、別の話題を振ることにする。


「王都の方はどうだった?昔、住んでた頃と変わった所とかあったりした?」


「あ、あと、家の方。お父さんや、お母さん何か言ってなかった?」


 そう、シンリーとクラナは、元は王都に暮らしていた。


 しかも貴族の子。


 なんで今冒険者をしているかといえば、2人とも長子では無く、両親の地位は安定した所にあり、教育方針も子の自由にさせるといった物だったからだ。


 色々あって、冒険者に憧れたふたりは、冒険者になるために、辺境とはまた違うけれど、わざわざ王都から離れたフノーツにやってきたのだ。


「お二人は相変わらず元気でしたよ。また夏頃にでも依頼を出すようだから、その時里帰りをしてくれると嬉しいって。」


「分かったわ。あの人たちのおかげで、無茶な貴族からの依頼も来ない訳だし、ちゃんと顔を見せないとよね。」


 ふうっ、とクラナはため息をつく。

 家族仲は良好だから、単純に王都があまり好きではないのかな。


 フノーツの街の空気と、王都の煌びやかな雰囲気は、大きく違うからだろう。

 あれを楽しめるか、窮屈に感じるかは、個人差が激しいと思う。


「王都では、そうですね、丁度半年くらい前から、マドレーヌという物が流行っていましたね。貴族の方から流れてきて、庶民の間にも少しずつ普及しているようです。」


「へぇー、マドレーヌなんて懐かしいわね。数年前に家に帰った時に珍しいものだって、食べさせて貰ったお菓子よね?まぁ、こっちで広まるにはあと1年か2年は掛かりそうね。」


「そうですね。私もお菓子の方はさっぱりなので、作り方は特に学んでいないんです。レシピだけでも持ち込むべきだったでしょうか?」


「いらないんじゃないかな?もしかしたら、商隊の人が持ち込んでくれてるかもしれないし。」


 そもそも、私も王都の方の知り合いから作り方は聞いてるから何時でも広められるんだけど。

 街に少しずつ浸透させるのに、タイミングとしては丁度いいかな。


 と言うか、私は普通に教えてもらったけどタイミングを考えるとなぁ。

 確か、一昨年だったはずだし。


 まぁ、あの子の立場的には知ってても可笑しくないけど。

 ホイホイと凄いものを教えてくるなぁ⋯⋯。


 でも、これで、黒猫の主軸の1人が帰ってきたってことになるのかな。


「今は冬だから、そんなに依頼は無いけど、クランとして受けられる依頼も増えそうだね。」


「そうね。さすがに私一人でやれる依頼には限界があるし、あの子達の実力的にも、いきなり森の奥とかには放り込めないから。」


「シャクナはまだ帰ってきていないのですか?私より半年近く早く出ていましたよね?」


「あの、シャクナよ?」


「…そうでした。あの、シャクナですからね。」


 可哀想にシャクナ、二人に悪い意味で信頼されてる。

 呑気にそんなことを考えていたら、入口の方が騒がしくなってきた。


 若い冒険者が集まって、ざわざわしているが、聞き取れるワードから不穏なものが多い。


「人が倒れたみたいだけど、大丈夫かな?」


「この時期に倒れるって一体何があったのよ。」


「そうですね、それこそシャクナだったら空腹とかで倒れそうじゃないですか?」


「ふふっ、確かにありそうね。」


「グウゥゥゥゥ。」


 タイミングがいいのか悪いのか、空腹を知らせる特大の腹の虫がギルドの中に響く。

 もちろん場所は騒ぎの中心の方から。


 3人とも、一瞬で真顔になり顔を見合わせる。


「ねぇ、あんまり見ない服とか、刀を二本って聞こえてるけど。」


「全くあの子は。ナーシャ、食べ物の注文お願いしていい?シンリー行きましょう。黒猫の恥を晒す前に。」


「分かりました。あと、もう手遅れです。」


「行ってらっしゃい。」


 私は苦笑いを浮かべて2人を見送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る