鶴の恩返し~羽を織る心~
山下ともこ
第一章:鶴の救出
山のふもとの小さな家に、おじいさんとおばあさんが暮らしていました。
子どもを授かることのなかった二人でしたが、
互いを思いやり、つつましくも穏やかな日々を送っていました。
ある冬の朝のこと。
おじいさんは薪を背負い、市場へと向かっていました。
雪がちらつく中、きゅっ、きゅっと鳴る雪道の音を聞きながら、
少しでもいい値で薪が売れればと、肩を揺らして歩いていました。
そのときです。
ケーン、ケーン──
と、甲高くもどこか哀しげな声が、風の合間から聞こえてきました。
鳥の鳴き声にしては、切羽詰まった響きでした。
不思議に思い足を止め、音のする方へそろそろと雪を踏み分けていくと──
一本の杉の根元に、白く大きな鳥がもがいていました。
鶴でした。
片足に猟師の仕掛けた罠が食い込み、羽は雪と泥にまみれ、
身体を起こそうとしては、また倒れています。
「こりゃ大変じゃ……なんちゅうこと……」
おじいさんは背中の薪をどさりと下ろすと、迷うことなく鶴に近づきました。
手袋を外し、冷たい金具にかじかんだ指でそっと触れると、
鶴は驚いたように身を縮めましたが、おじいさんの目を見て、力を抜きました。
罠の留め金をゆっくり外し、傷口に雪を当てて血を止める。
鶴の細い脚はぶるぶると震えていましたが、
それでも、おじいさんが後ろに下がると、
一歩、また一歩と雪の上を歩き、向きを変えました。
そして一度だけ、おじいさんの方を振り返ると、
深く、まるで人にするかのように、お辞儀をしたのです。
「ケーン」
それは礼の声だったのか、別れの鳴き声だったのか。
一声鳴いた鶴は、大きく羽を広げて、静かに空へと舞い上がっていきました。
おじいさんは、舞い上がる鶴を見上げながら、手を振りました。
「よかった、よかった。もう罠にかかるんじゃないぞぉ」
飛び去る鶴に声を掛け、市場へと歩を戻すのでした。
続く~第二章へ~
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