聖女が美少女とは限りません~勝手に召喚しといて、なんなの、あんたら!

ロゼ

召喚は突然に

 私の名前は『野村 かなえ』。


 四十二歳。


 バツイチで現在はフリー。


 子供はなし。


 元旦那と立ち上げた会社で、元旦那を立てて副社長をしていたけど、事務で入ってきた二十代の頭お花畑の女にまんまと元旦那も会社も奪われて無職になった、世間から見たら惨めなアラフォー女だ。


 でも私的には惨めだなんてサラサラ思っていない。


 そもそも社長なのに何にも出来ない、頭の中沸いちゃってる馬鹿男だった元旦那。


 私が苦労して上げた利益を湯水のように外車やブランド品に勝手に使いまくり、私が知らないと思ってただろうけどこれまで散々若い女に貢ぎまくり浮気しまくりだったから潮時だと思ってた。


 社長室でバッチリ浮気現場を目撃した時は内心『ヨッシャー!!』ってガッツポーズ決めてたもんね。


 本当はもう我慢の限界で、いつ暴れてやろうかと思ってた所に棚ぼた状態で浮気現場目撃。


 こんな好都合はない。


 ただ暴れただけだったら貰えなかったであろう慰謝料も貰えるだけたんまり貰って、副社長も辞めて、これからは心置き無く自由を満喫してやるんだから。


 私の第二の輝かしい人生はここから始まるのよ!


 二人で立ち上げた会社はそう遠くない未来に駄目になるだろうし、その時泣き付いてきそうだけど知ったこっちゃない。


「そんな面倒臭い事、この俺がしなくちゃなんない事じゃないだろー」


 って何も学んでこず、お姉ちゃんのいるお店での接待だけは喜んで行くもののそれ以外の事にはノータッチで、取引相手の顔も名前も一切覚えてないようなやつがいきなり私がこなしてた事を全部引き受けて上手く回せるわけがない。


 あー、何であんな馬鹿男と結婚しちゃったかなー、私。


 顔と体だけは良かったんだよねー。


 それだけだったなー。


 若い頃に戻れるなら絶対あんな男と関わらない道を選んだよな。


◇◇◇


 たんまりふんだくった慰謝料で郊外に買った小さな一軒家。


 ここに越してきて一週間が経った。


 私の離婚と退職を知った今までの取引先さん達から色々なお誘いの電話が来る以外は穏やかに過ごせている。


「犬なんて臭いし馬鹿だし毛が抜けるし邪魔なだけだ!」


 って元旦那に言われて諦めていたけど、庭もあるし時間もあるし、大好きだった犬でも飼おうかな。


 元旦那よりも犬の方が数百倍賢くて可愛いし。


 そんな事を考えながらソファーで寝転んでいたらスマホがけたたましく鳴り出した。


 緊急地震速報かと思ったけど違った。


 警告音と言うよりは金属音のような甲高い耳障りな音で頭が痛くなりそうだ。


「何? 何なの? 壊れたの?」


 電源を切ろうとしたら画面から眩い光が溢れ出し、あまりの眩しさに目を閉じた。


 目を閉じても感じる程の光がようやく収まったので目を開けると全く知らない場所にいた。


 煉瓦張りの湿った地下室のような場所。


 コンタクトを外してるから遠くはあんまり見えないけど、奥の方に人が何人かいる。


「おお! 成功だ!」


「聖女様の召喚に成功したぞ!」


 その言葉に耳を疑った。


 は?! 聖女?! 召喚?! 何?! 頭沸いてるやつらに私拉致られたとか?!


 一人の黒いローブを着た男が近付いてきた。


 そして私の顔を覗き込んでこう言い放った。


「これは聖女様ではない! 聖女様がこんなおばさんな訳があるか!」


 その瞬間、何かがプチッと切れた。


「だーれがおばさんじゃぁぁぁぁ!!」


 気付けば暴れまくっていた。


 私がひと暴れした後、茶色いローブを着た男が近付いてきた。


「鑑定」


 そう言うと目の前にアニメでチラッとだけ見た事があるあのステータス画面なる物が現れた。


╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍


名前 ・野村 かなえ


職業 ・聖女 神々の申し子


年齢 ・四十二歳


魔力量無限・神々の癒し手 etc……


╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍ ╍


「何じゃこりゃー?!」


 目の前の画面に驚いて叫んでいた。


 周りの人達のザワザワした感じも伝わってきた。


「な、なんと! 本当にあれが聖女様だと?!」


「聖女というよりただのおばさん……」


「聖女様とは可憐で儚げな存在ではなかったのか?!」


「何かの手違いではないのか?!」


「聖女と呼ぶには歳を取りすぎてるぞ!」


 あのー、全部聞こえてますけど?!


 もっかい暴れちゃおうかなー?


 そりゃ確かに家で寛いでたからスッピンだし、服だって毛玉多めの楽チンスエットだけど、これでも多少は美人で通ってたんだけど?!


「かなえさんって四十過ぎてるようには全然見えないよね」


 っていつも言われてたんですけど?!


 半分以上お世辞だって分かってましたけどね!


 いやー、マジで暴れちゃってもいいですかね?


 すごい好き勝手言われてますけど?!


 あれ? 私この状況受け入れちゃってる?


 その時初めて自分がこの変な状況をすんなり受け入れてる事に気付いた。


 普通は疑問に思ったり戸惑ったりしておかしくないのに。


 そう言えばさっき見たステータス画面に『状況処理能力無限』って書いてあったけどそれのせい?


「と、とりあえずこの方が聖女である事は間違いない」


 そう言った茶色いローブの男が私に手を差し伸べてきた。


「聖女様、お手を」


 その時にその男の顔をちゃんと見た。


「お前かー!!」


 私はその男をぶん殴っていた。


 男の顔は元旦那そのものだった。

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