セロテープを食べる女の子 Girl eating cellophane tape
紙の妖精さん
PROLOGUE
彼女は、いつも自分より少し先にいる少年を知っていた。
追い越すことも、並ぶこともできない。
ただ、視界の端に、必ずいる。
少年は年を取らなかった。
というより、年という概念を持っていなかった。
昨日と今日の区別もなく、約束を覚えていることもなかった。
彼は言った。
「君は変わったね」
彼女は答えなかった。
それが事実なのか、彼の視点の問題なのか、分からなかったからだ。
彼女は、時間の中を移動していた。
身体は重くなり、役割が増え、戻れない場所が増えていった。
だが、彼女自身は変化を選んだ覚えはない。
ただ、そういう構造の側にいただけだ。
少年は、変化しないのではなかった。
彼は、変化という概念が成立しない場所にいた。
「ここにいれば、何も失わないよ」
少年は笑った。
彼女は初めて、その言葉に違和感を覚えた。
失う、という言葉を使えるのは、
すでに何かを持っている者だけだ。
「あなたは、私が作ったんだと思う」
彼女はそう言った。
少年は首をかしげた。
理解できなかったのではない。
理解する必要がなかった。
彼女は知っていた。
彼は、自分が現実に適応していく過程で、
切り離された視点だということを。
変わり続ける自己が、
変わらない自己を必要とした結果、
彼はそこに置かれた。
だから彼は自由で、残酷で、軽かった。
「じゃあ、君は僕を消すの?」
少年は尋ねた。
「いいえ」
彼女は答えた。
「あなたは必要。だけど、同じ場所にはいられない」
彼女が振り返らなかったのは、
別れが辛かったからではない。
彼がそこにいることを、
もう確認する必要がなかったからだ。
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