東夷無頼・逆さ仏

ねくたる

 東夷とういの雨は、いつだって血と鉄の味がする。

 鈍色の空から絶え間なく降り注ぐそれは、大地を濡らす恵みではない。肌に触れれば微かに痺れ、古傷を疼かせる、呪われた『くさあめ』だ。


 宿場町「雨宿あまやどり」。

 かつては東方征討軍への物資を運ぶ中継地として作られたこの町も、二百年の時を経て、今や西からあぶれた人間と妖異よういが混ざり合う吹き溜まりと化していた。

 軒を連ねる長屋は傾き、剥がれた漆喰しっくいの壁には、廃材を打ち延ばした赤錆だらけの鉄板が無造作に打ち付けられている。

 八洲やしま西方・天晶浄土てんしょうじょうどを守る防波堤――それが東夷の役割だ。幕府の威光など、ここには届かない。届くのは、過酷な年貢の取り立てと、こうした冷たい雨だけだ。


 その一角、ガラスのホヤが煤けた妖油ようゆのランプが揺れる居酒屋があった。


「おい、アキラの旦那ぁ。聞いてんのかよ……」


 薄暗い店内で、アキラは箸先で酒の肴を突きながら、向かいの席に座るハゲ頭のオヤジ――篤郎あつろうの話をぼんやり聞いていた。


 擦り切れた着物に、どこで拾ったのか虫食いだらけの洋套コートをちぐはぐに羽織ったその姿は、いかにも東夷の泥水を啜って生きてきた、しぶとい小悪党といった風体だ。脂ぎった額には汗が滲み、卑屈に動く瞳がこちらの顔色を窺っている。


 対して、アキラの纏う空気は冷たく、静かだ。

 煤けたランプの灯りが照らすその横顔は、東夷の汚れに塗れながらも、病的なまでに白い。長く伸びた黒髪の隙間から覗く瞳は、外の雨と同じ、光のない鉄色くろがねいろ

 頬がこけた痩躯そうくは、一見すれば栄養失調の病人のようだが、卓に置かれた左手には、似つかわしくない無骨な戦闘用の鉄甲が装着されている。

 二十四という若さにしては、その身から漂う死の気配が濃すぎた。


 オヤジの手には濡れた手配書。机に叩きつけられ、皿やお猪口がカタカタと揺れた。


「また碌でもない話なんだろうな、とは」

「酷いこと言うなぁ、あんたも」

「――で、何の話なんだ」

「あぁ、『顔盗み』の巣を潰して欲しいんだよ」

「顔盗み、ねぇ」


 アキラは小さくあくびを吐きながら、篤郎の手から手配書を抜き取る。

 薄汚れた和紙には、達筆だがどこか焦りの滲む文字で、事の顛末てんまつが記されていた。


 ――事の発端は、町はずれの墓地だ。

 先日、行き倒れの流れ者を埋葬したばかりの新しい土饅頭どまっじゅうが、夜のうちにあばかれた。棺桶はこじ開けられ、中身の死体だけが綺麗に消えていたという。

 犬猫の仕業ではない。獣なら肉を食い荒らすが、持ち去りはしないからだ。


「死体泥棒か。趣味の悪い」

「ただの泥棒なら役人の仕事さ。問題はその後なんだよ」


 篤郎が声を顰め、机に身を乗り出す。


「その墓が暴かれた翌日からよ。町で『行方不明』が増えたんだ」

「行方不明?」

「ああ。若い衆や、長屋の古女房……。ふらっと居なくなって、三日もすれば何食わぬ顔で戻ってくる。――だが、戻ってきた奴らは、何かが決定的に『ズレて』やがるんだとよ」


 アキラは手配書の続きに目を落とす。

 そこには、依頼主である庄屋が震える手で書き足したであろう、決定的な一文があった。


 ――昨晩、戻ってきた家人の部屋から、奇妙なものが発見された。

 それは、人間の顔の形をした、蝉の抜け殻のような薄皮であった。


「……なるほどな。『脱皮』か」


 アキラは納得したように鼻を鳴らし、手配書を机に放った。

 墓の死体を掘り起こして中身が寄生する。そして死体の鮮度が落ちて腐り始めると、今度は生きた人間に乗り移るために『新しい皮』を被る。

 その過程で古い皮を脱ぎ捨てるのが、『顔盗み』という妖異よういの生態だ。


 アキラは、かつて斬ったその中身の醜悪さを反芻はんすうする。

 人の皮を一枚剥げば、そこにあるのは赤い筋肉と黒い甲殻の混ざり合った、ムカデとヤドカリの合いの子のような肉塊だ。

 本来なら脳みそが詰まっているはずの頭蓋には、無数の複眼と大顎おおあごがぎちりと修、肋骨の檻の中には無数の節足が胎児のように折りたたまれている。

 人の形をした袋の中に、別の生き物がみっしりと詰まっている――その生理的な嫌悪感は、何度味わっても慣れるものではない。


 気色の悪い。アキラはお猪口に酒を注ぎ、一気に飲み干す。


「……抜け殻が出たなら間違いないな。この町はもう、奴らの餌場になりかけてるってわけか」

「だろう? こいつはただの『入れ替わり』じゃねぇ。もっとタチが悪い『増殖』だ」


 篤郎が嫌悪感を露わにし、声を潜めて続ける。


「奴らは人間を襲うと、特殊なゲロを流し込んで中身――骨と内臓だけを溶かしてすすっちまう。残るのは、皮と肉だけの綺麗な『肉袋にくぶくろ』だ」

「……」

「そうやって作った空っぽの『袋』に、野良の仲間を呼び込んで詰め込むのさ。一匹入り込めば、一週間で一家全滅。一月もすれば、長屋ひとつが丸ごと奴らの『巣』になっちまう」


 ネズミ算ならぬ、虫算だ。

 奴らにとって人間は、食料であり、衣服であり、繁殖のための揺籃ゆりかごでもある。

 庄屋が顔を青くして依頼を出したのも無理はない。自分の隣で寝ている家族の中身が、いつの間にか得体の知れない多足類にすり替わっているかもしれないのだから。


「頼むよぉ、アキラの旦那。これは『掃除屋』のあんたにしか頼めないヤマなんだ」

「断る」


 アキラは即答し、残りの肴と酒を口に放り込んだ。

 喉を焼く安酒の刺激とともに、店内に充満する煮込み鍋の湯気――獣の臓物を煮込んだ生臭い匂いが鼻を突く。

 人間を「肉袋」に変える化け物の話を聞いた後だというのに、周囲の客たちは平然と臓物を突き、濁った酒をすすっている。ここでは命も尊厳も、路傍の石ころより軽い。


「――いいか、篤郎ハゲ。この手のヤマはな、人手が必要なんだよ」


 口の端を手の甲で拭きながら、鋭く突き刺さる視線を篤郎に向けながら続ける。


「顔盗みを一匹、二匹斬るわけじゃねえ。もう数日も経っちまっているんだ、を潰すような仕事、一人じゃできねえよ」


 巣ができているなら、そこには数十匹の成体と、無数の幼体が蠢いているはずだ。それはもう個人の仕事ではない。本来なら幕府の軍隊が火炎放射器でも担いで焼き払うべき案件だ――もっとも、西の連中がわざわ東夷のゴミ掃除に来るはずもないが。 


「そ、そうかもしれねぇがよぉ! 報酬だって弾むって――」

「篤郎、やけにこの話に執着するな」

「え?」


 篤郎は声を裏返して、目を丸くした。脂汗をこめかみに滲ませる。


「てめえの懐が寒いのは知ってんだよ」


 図星。篤郎は言葉に詰まった。

 

「……じ、実は、この町の庄屋の旦那に借金があってよぉ。この依頼を仲介して解決すれば、チャラにしてくれるって約束なんだよぉ……。なぁ、アキラの旦那、頼むよぉ……」


 篤郎が机に頭を擦り付けて泣きつく。

 やはりか、とアキラはため息をついた。


「知るか。自業自得だ」


 アキラは懐から、一枚の銀貨を取り出した。

 四角い形状に、北辰幕府の紋たる九曜紋が刻まれた一分銀いちぶぎんだ。


「……おやじ、勘定」


 指先で弾かれた銀貨が、汚れた卓上で回転し、チャリと硬質な音を立てて倒れた。  油と手垢にまみれた木の机の上で、その純銀の輝きだけが、場違いなほどに冷たく整っている。

 天晶浄土ばくふが鋳造するこの貨幣だけが、東夷でも変わらぬ価値を持つ「信用」そのものだ。ここが幕府の支配下であることを示す、皮肉な証でもある。


「ま、待ってくれよ! アキラの旦那ぁ!」


 すがりつく篤郎を無視し、アキラは席を立った。傍らに立てかけていた相棒を掴み、腰に差した。

 黒鉄くろがねの鞘を持つ、無骨な打刀。

 その柄頭つかがしらには、黄金の阿弥陀如来の首が打ち付けられている。

 揺れるランプの灯りが、逆さまに笑う仏の顔を不気味に照らし出した。


 アキラが出口へ向かおうとした時だ。

 行く手を塞ぐように、小さな影が立っていた。


「……どきな」


 アキラが見下ろす。

 そこにいたのは、十五、六ほどの少女だった。

 継ぎ接ぎだらけの着物は泥にまみれ、帯代わりの荒縄で痩せた体を縛っている。だが、その瞳だけは異様な熱を帯びてアキラを見上げていた。

 少女の視線は、アキラの顔ではなく、その腰にある『逆さ仏』に釘付けになっている。


「おとおとおかあの仇をとって……お侍さん!」


 少女はそう叫ぶと、三和土たたきの床に膝をつき、額を押し付けた。

 アキラは眉をひそめ、気怠げに髪を搔き上げる。


「人違いだ。俺は侍じゃねえ。ただの賞金稼ぎだ」

「お願い、します……! あいつら、お父たちの顔を……皮を……っ!」


 少女の声は悲鳴に近かった。

 このご時世、珍しくない話だ。妖異に家族を食われ、あるいは攫われ、復讐を願う遺族。だが、その願いが叶うことは稀だ。

 幕府の役人は東の治安になど関心がない。金のない弱者の願いなど、誰も聞き入れないのが道理だ。


「仇討ちなんざ、一文の得にもならねえぞ」


 アキラが冷たく突き放すと、少女は懐から何かを取り出した。

 泥で汚れた、小さな碧色の石ころ。おそらく、川原で拾っただけのガラス片か何かだ。


「こ、これしかありませんが……私の、宝物で……」

「……ガキのおはじき遊びに付き合う暇はねえんだよ」


 アキラは石を受け取ることなく、少女の横を通り過ぎて引き戸に手をかけた。  背後で、少女が絶望に息を呑む気配がする。

 心が痛まないわけではない。だが、情けで飯が食えるほど、この世界は優しくない。自分の命を守るだけで精一杯なのだ。


 ――ガラリ。


 アキラが戸を開けた瞬間、生暖かい湿った風と共に、二つの人影が入ってきた。


「ああ、ここにいたのか。心配したぞ、チヨ」


 入ってきたのは、初老の男と女だった。

 男は股引ももひき半纏はんてん、女は前掛けをした野良着姿。どこにでもいる、貧しいが善良そうな夫婦に見える。店内の他の客たちは、ちらりと彼らを見ただけで、すぐに興味を失って手元の酒に戻った。日常のありふれた光景だ。


 だが。


「ひっ……! い、いや……!」


 少女――チヨが、弾かれたように後ずさった。

 その顔は恐怖で引きつり、ガタガタと震えている。


「何を言っているんだ。さあ、家に帰ろう」


 父親らしき男が、優しげな笑みを浮かべてチヨに歩み寄る。

 母親らしき女も、全く同じ角度の笑顔、全く同じ歩幅でそれに続く。まるで精巧なからくり人形が二体、並んで歩いているようだ。


 アキラは足を止めた。

 鼻孔をくすぐる、強烈な違和感。

 雨の匂いに混じって漂ってくるのは、腐りかけた肉を隠すための安い白粉おしろいの香りと、防腐剤のツンとする刺激臭。

 そして何より――こいつら、笑ったまま一度も瞬きをしていない。


(……なるほどな。一番古い「皮」がこれか)


 アキラは柄に手をかけた。

 その瞬間、柄頭つかがしらの黄金仏が、ランプの光を浴びてギラリと輝いた。逆さまに打ち付けられた阿弥陀の顔は、慈悲の笑みを浮かべているはずなのに、この状況下ではこれ以上ないほど冒涜的な嘲笑に見えた。


 男がチヨの腕を掴む。


「い、いやぁ! 離して! あんたたちはお父じゃない!」

「わがままを言うな。……お前も家族になるんだ。我々の『新しい皮』が必要なんだよ」


 男の声から、抑揚が消えた。

 それは壊れた蓄音機のような、無機質なノイズだった。


「お、おい! 乱暴はやめな!」


 見かねた篤郎が、酔った勢いも手伝って割って入ろうとした。

 だが、男は振り返りもせず、空いた裏拳で篤郎を薙ぎ払った。


 グニャリ。


 人間の関節ではありえない方向に、男の腕が鞭のようにしなった。骨格という概念が存在しないかのような、軟体動物の動き。

 篤郎が鞠のように吹き飛び、酒樽に突っ込んで動かなくなる。


「ギチ……邪魔ヲ、スルナ……」 「ひ、ひぃっ!?」


 異様な光景に、ようやく周囲の客たちが騒ぎ始めた。何人かが席を立ち、出口へ向かおうとする。

 だが、遅かった。


 男の顔が、ピクリと痙攣した。

 次の瞬間、額から顎にかけて、顔面の皮が熟した果実のように縦に裂けた。


 粘液の糸を引きながら左右に開いたその奥から、赤黒い筋肉と濡れた甲殻に覆われた、巨大な百足ムカデの頭部がせり出してくる。

 無数の複眼がギョロギョロと動き、鋼鉄のような大顎が擦れ合い、耳障りな金属音を鳴らした。


 正体を現した『顔盗み』が咆哮を上げる。

 狭い店内に、人間のものではない金切り声が響き渡った。


「ば、化け物だァ!」


 店は一瞬で恐慌状態に陥った。客たちは我先にと出口へ殺到し、テーブルがひっくり返り、食器が砕け散る。

 運悪く化け物の近くにいた日雇い労働者の男が、逃げ遅れて腰を抜かした。


「た、助け――」


 化け物の腕が――いや、人間の皮を被った節足が、男の足首を掴んだ。

 そのまま軽々と持ち上げると、化け物は玩具でも扱うように、左右の腕を開いた。  男の絶叫が途切れる。

 抵抗すら許さず、人体が腰から無造作に引き千切られたのだ。大量の血と臓物が、天井まで届くほどの勢いでぶち撒けられる。

 人間など容易く蹂躙する圧倒的な膂力りょりょく。それが顔盗みの真の脅威だ。


「肉ダ! 新鮮ナ、肉ダ!」


 血の雨を浴びて、化け物が歓喜の声を上げる。

 チヨは悲鳴すら上げられず、その場で凍りついていた。化け物の複眼が、次の獲物としてチヨを捉える。

 巨大な大顎が、少女の頭蓋を噛み砕こうと大きく開かれた。


 その顎の間に、黒い鉄塊が割り込んだ。


 鈍く、重い衝撃音が腹に響く。

 アキラの『逆さ仏』――その黒鉄くろがねさやによる一撃が、化け物の頭部を横殴りに粉砕したのだ。

 硬い甲殻がひしゃげ、体液が飛散する。


「……おい。そのガキから離れろ。腐った脂が移るだろうが」


 アキラは鞘を構え直し、冷徹な瞳で化け物を見下ろした。

 抜刀はしていない。師匠譲りの特注の鞘は、中の妖刀を封じると同時に、それ自体が骨を砕く強力な鈍器となる。

 腰の逆さ仏が、飛び散った体液を浴びて、さらに深く笑ったように見えた。


「殺セ! 敵ダ!」


 異変に呼応するように、母親に化けていた個体も顔の皮を裂く。

 それだけではない。店の奥で震えているフリをしていた無愛想な女将までもが、顔面を裏返して襲いかかってきた。この店自体が、すでに奴らの苗床コロニーだったのだ。

 逃げ惑う客たちとは逆に、三体の化け物がアキラを包囲する。


「チッ、やっぱり『掃除』の時間かよ」


 アキラは低く呻き、踏み込んだ。

 女将の化け物が包丁をデタラメに振り回すが、アキラの動きはその遥か先を行く。

 切っ先を最小限の動きで躱し、懐に入り込んで鞘の先端こじり鳩尾みぞおちに叩き込む。

 内臓――といっても詰まっているのは蟲だが――が破裂する感触が手に伝わり、化け物がくの字に折れ曲がって吹き飛んだ。


 間髪入れず、背後から迫る母親個体の鋭利な爪が、アキラの喉元へ迫る。

 アキラは振り返りもせず、左腕を振り上げた。

 鉄と爪が噛み合い、散った火花が暗い店内を一瞬だけ照らす。

 西から流れてきた廃棄パーツで補強された無骨な鉄甲てっこうは、妖異の爪ごときでは傷つかない。


「神も仏もありゃしねえ。てめえらは地獄行きだ」


 アキラは鉄甲で化け物の腕を強引にねじ上げ、関節を破壊する。

 そのまま体勢を崩させると、右手の鞘を風車のように回転させ、遠心力を乗せたフルスイングで脳天を打ち抜いた。

 スイカを叩き割るような湿った音が弾ける。

 緑色の体液と、中身の虫の破片が派手に飛び散り、冒涜的な仏の顔をドロリと汚した。


 戦闘は一方的だった。

 客たちが逃げ去った後の店内には、三体の異形の死骸と、剥がれ落ちた人間の皮、そして引き裂かれた犠牲者の肉片が散乱している。

 むせ返るような腐臭と体液の臭いの中、アキラは鞘についた汚れを、死体の服で乱暴に拭った。


「……終わったぞ」


 アキラの声に、隅で震えていたチヨが顔を上げる。

 その目には涙が溢れていたが、同時に、確かな安堵と感謝の色があった。


 アキラは足元に落ちていた、あの「碧色の石」を拾い上げる。

 泥を指で弾き飛ばすと、それはランプの光を受けて微かに輝いた。


「……依頼料だ。貰っとくぜ」


 そう言って懐に仕舞い込む。

 チヨが目を見開く。


「あ、ありがとう……お侍さん……!」

「だから、侍じゃねえっつってんだろ」


 アキラはぶっきらぼうに言い捨て、酒樽の残骸から這い出してきた篤郎を見やった。額から血を流しているが、どうやら生きているようだ。


「おい、ハゲ。生きてるか」

「い、痛てて……。さ、さすがだねぇアキラの旦那ぁ……これで解決だなぁ」

「馬鹿言え。これで終わりなわけがねえだろう」


 アキラは冷たく言い放ち、死骸の山を見下ろした。

 これらは氷山の一角に過ぎない。この店がコロニー化していたということは、すでに町中に「幼体」がばら撒かれているということだ。


「俺にできるのは、目の前の火の粉を払うことぐらいだ。根本的な『駆除』は軍隊の仕事だって言っただろうが」

「そ、そんなぁ……じゃあ、借金は……」

「庄屋に伝えろ。『町を捨てて逃げろ』とな。手遅れになる前にな」


 アキラは篤郎の絶望的な顔も見ず、雨の降る外へと歩き出した。

 背中で少女が深々と頭を下げている気配を感じながら、アキラは一つ息を吐く。


 東夷の雨はまだ降り続いている。

 血と鉄の臭いは、先ほどまでより強くなった気がした。

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