死にたい君の、死神に僕はなる
九戸政景@
死にたい君の、死神に僕はなる
「あははっ、ほんとー?」
「ほんとほんと。もう、マジでないよねぇ」
いつも通りの教室。その中心にいるのはいつだって彼女だ。
「
「
今日も彼女はあちらこちらから声をかけられ、何かとお願いをされる。成績優秀で人当たりもよい。その上、愛嬌のある顔立ちをしているからみんな彼女に惹かれるのだろう。
「……なのに、どうしてなんだろう」
彼女をボーッと見ながら呟く。いつも朗らかな笑顔の彼女だけど、どこかに陰りがある。その理由はわからないけれど、なんだか気になるのだ。
「あ、みんなちょっとトイレ行ってくるね」
彼女の言葉に応える形でみんなが頷いて彼女は教室を出ていく。僕はなんとなくその後をついていくことにした。ついていかないといけない。そんな気がしたから。
廊下を歩いている間も彼女は何かと声をかけられる。それに対して彼女は律儀に答える。そうして歩いていくと、彼女はそのまま屋上の扉の前に立った。ただ、以前に屋上で事件があったので今は封鎖されているらしい。
「どうしてこんなところに来たんだろう」
彼女の行動に疑問を抱いていたその時だった。
「……もう、ダルい」
その声に僕は驚いた。普段の彼女の声は、鈴を転がしたような心地のいい物なのに、今の彼女の声はとても低くて暗く、絶望そのものが声になって出てきた。そんな感じの声だった。
「みんなウザイんだよ。何かにつけて土御門さーんだの花夜だの私の事ばかり呼んで、私に何かを頼むのが当たり前みたいに考えて。いい加減にして欲しいよ。私は、あなた達に利用されるために勉強を頑張ったりしてるわけじゃない」
陰りの正体はどうやらこれだったようだ。人気者の彼女にもやはり不満はあるのだ。
「……こんなにめんどくさい人生なんていらない。この屋上も開いてたらそのまま飛び降りるのに」
彼女は扉に両手をつきながら俯く。その肩は小刻みに震えていた。
「死にたい。自由もない鳥かごみたいなこの世界からいなくなりたい。このままどこかへ飛び去ってしまいたい……!」
「それが、君の願いか」
近づきながら僕は声をかけた。彼女がこちらを見る。その瞬間の表情はとても苦しそうだった。悲しみの雨が降る目には生気がない。しばらくぼーっとしていたけれど、相手が他の生徒だと気付くと、彼女はハッとした。
「こ、こんにちは。えーと……同じクラスの人……だったかな?」
彼女が僕をわからないのも無理はない。これまで僕は彼女に関わったことはないから。ただ、彼女の中の闇、死への渇望に興味が湧いた。だから、声をかけたのだ。好きになってしまった彼女に。
「ねえ、僕と一緒にどこか遠くへ行かない?」
「え……ど、どうして?」
「好きになった君に最高の死に場所を見つけてあげるから」
その言葉に彼女はのどをゴクリと鳴らす。緊張はもちろんしているだろう。でもそれと同時に。
「本当に? 私を、こんな世界から連れ出してくれるの?」
「もちろんだよ。だから、さ」
僕だってこんなところはもう飽き飽きだ。縛られて否定される世界なんてなくていい。でも、彼女と一緒なら楽しそうだ。
「僕を、君の
たとえ、一緒に地獄に落ちたとしても。
死にたい君の、死神に僕はなる 九戸政景@ @2012712
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