深紅の脚光

哺乳瓶さん

プロローグ

 月下美人。

 サボテン科クジャクサボテン属に属する植物。

 夜に咲き、翌朝にはしぼんでしまうという、非常に特別な存在。

 白く大きく、輝くような花弁が特徴で、強い芳香を放つ。甘く上品で、ジャスミンに似た香りと例えられることが多い。


 そう、しぼむ。一夜にしてしぼんでしまうのだ。

 白く透き通る様な美しい肌、鼻腔をくすぐる香水の匂い、華奢な体、嬌声。

 肩口で切りそろえられた黒髪、ビターチョコレート色の目、艶めかしい首筋、思わず見つめてしまう唇。

 それを五感で感じる度、胸が高鳴った。

 彼女しかいないと思った。


 その彼女は、美空愛衣は、血に染まっていた。

 ああ、信じたくは無い。

 さっきまで、俺と話に花を咲かせていた彼女が。ついさっきまで、ホテルの誘いを快諾してくれていた彼女が。


 生気を失い、道路で横たわる愛衣。

 周囲は何事かと愛衣に視線を向け、騒ぎ立てる。

 その内に、彼女へ人が群がっていく。

 それを、呆然と見つめることしかでき無かった。

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