〈第五話〉 レッツお買い物!
「わー!町ってこんな感じだったのね!」
騒がしい町の中、前を歩いているレイさんは嬉しそうに目を輝かせた。
今は、お昼ごはんを買いに町に来たところだ。町も昼時だからか人が多い。まあ、昨日の祭りほどではないけど。ちなみに、ならさんは魔法店でお留守番です。他の魔女もそのうちくるみたい。
「ねえ。ねえ。あれ何かしら?」
ふと、レイさんが立ち止まった。指を指した方向を見ると、ガラスの向こうにある色とりどりな旬のお野菜に向いていた。店の中には昨日のおばさんがいた。昨日ならさんと寄ったお店みたい。
「あ、これは野菜ですよ。」
「へー!これがお野菜なのね!本で見たとおりだわ。」
レイさんはガラス窓の前に座り込んだ。赤、緑、黄色とカラフルな野菜たちを興味深そうに見ている。少しの間見つめた後に、レイさんはバッと立ち上がった。
「折角出すし、ここ寄っていきましょうよ!!」
「あ、待ってください!!」
店へと駆け出すレイさんをわたしは全力で追いかけていった。
「いらっしゃいませー。」
聞き覚えのある声が扉から聞こえた。くすんだ赤色の服に真っ白なエプロンを着ている茶髪のおばさんがいた。昨日の屋台のおばさんだ。
(!?)
なにか冷たいものがわたしのほっぺを触った。振り返ると、レイさんがわたしのほっぺを触っていた。び、びっくりしたあ。
「ねえ、ねえ、何を買うの?私も手伝いたいわ!」
「えっと、じゃあ野菜をお願いします。。」
もう、びっくりさせないでよお。
心のなかで泣きながら叫んだ。うう。怖かったあ。。おばけかと思ったよおお。。。
自分を慰めていると、気づいたらレイさんは消えていた。もう、買いに行ったみたい。速い。
(でも、元気になってくれてよかった。。。)
さっきまでの依頼の話のときは大人に見えたけど、今はちゃんと年相応な雰囲気な気がする。やっぱり同い年なんだなあって思う。
「わたしも探すかあ。。」
わたしは大きな背伸びをした。
ここは街の人達でも買えるようなものしか売ってないから、サンドイッチのメインの材料がなかなかない(お肉とかお魚とか卵とか)だから、なかは野菜作めになってしまう。
さすがにそれじゃあ寂しいから、ならさんに相談したら「スープなんてどー?」って言われた。
(確かスープには豆とか、野菜とか、穀物が入ってるはず。あとは、ならさんが骨持ってきてくれるし。。)
店の中をうろつきながら、お母様が昔作ってくれたスープを思い出そうとした。お母様は庶民出身で嫁入りとかだったはず。だからか、お母様は時々町の人の食べ物を食事に出してきたことが何回かあった。
そういうときは、いつもお母様の手作りだった。
お母様専用の台所で、お母様が鍋をかき混ぜてた気がする。温かい鍋にキャベツや豆、残り物の穀物を入れて、塩で味付け。骨を下味にするときもあった気がする。
そして、パンとスープをお母様とお父様と使用人のみんなで一緒に食べてたなあ。。
あのころは、楽だったなあ。ああ。お家に帰りたいよお。。。。
「ライナちゃん!聞いてますかー?」
「え?」
前を向くとレイさんが頬を膨らませながら立っていた。たぶん、話しかけていたんだと思う。
「あ、ごめんなさい。。!聞いてませんでした。。」
「もう!ライナちゃんったら。」
プイッ。
レイさんがそっぽを向く。わああ。。やばい。。怒らせちゃったあ。。。
声かけるべきだよね。でも、なんて声かけたらいいのかなあ。。うう。。胃が痛いよお。。。
「あ!そうだったわ。えっとね、私が話してたのはこれのことよ。」
レイさんが指を指した先には黒い豆みたいなものが棚に置いてあった。コーヒーの豆だ。
レイさん気になるのかな。。?というか、情緒不安定だなあ。。
「こ、コーヒーですね。」
「コーヒー?」
レイさんが首を傾げた。やっぱ、知らなかったんだあ。
「コーヒーはですね、えっと、大人の飲み物です。それで、これはそのもとです。」
「なるほど!」
レイさんは頷きながら、わたしとコーヒーを交互に見た。
どうしたんだろう。。。心配そうに眺めてると、レイさんは一粒コーヒーを棚からとった。
「コーヒーって美味しいの?」
「え、ひ、人によると思います。」
ふーん。
っと、レイさんはコーヒーをまじまじと見つめた。その目は私を友達に誘ったときと同じ目だ。
うーん。。?どうしてだろう。とても嫌な予感がする。。
「ぱく。」
「え?」
気が付くと、目の前のレイさんの手にあったはずのコーヒーが口の中に入っていた。
ってことは、レイさんそのまんま食べたの。。!?慌ててレイさんのほうに視線を移した。レイさんはというと、さっきの笑顔とは違いどんどん顔を引きつらせていった。
「うう。苦い。。」
「そりゃそうですよね。。」
わたしも今日の朝飲み切るのに苦戦したのに。。。しかも、豆のまんまだし。。興味があったんだと思うけど。。。
「ていうか、勝手に食べちゃだめですよ!!」
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「あああ。。ようやく終わった。。!!」
空っぽの空にのびのびとライナちゃんが背伸びした。
私、レイはそんなライナちゃんの横に並んで歩いていた。えへへ。これって友達みたい。
「でも、まさかあそこですべて買い終わるなんてね。ちょっと残念だわ。」
「そ、そんなこと言わないでくださいよ。あの後大変でしたからね。。」
あの後。。?
ライナちゃんは不貞腐れた顔をしながらこっちを見上げてきた。何のことだっけ。
あっ、コーヒー食べた後のことか。
結局あの後は、ライナちゃんと一緒にお店の人に頭を下げた。そうとうあれはダメだったみたい。たしか、高級品だったはず。よかったのはライナちゃんがおばさんの知り合いで見逃してくれたこと。もちろん代金はちゃんと払ったよ。
「えーでも、楽しいお時間が終わっちゃうじゃない。」
「わたしには苦労した記憶しかありませんけど。。。」
ライナちゃんは途方に暮れた顔をした。あはは。申し訳ないな。。
でも、やっぱりもう少し遊びたかったな。
私は目を伏せた。悲しいな。。。
「わっ!」
ドンッ。
突然の衝突音にびっくりして顔を上げると、小さなおさげの女の子がライナちゃんにぶつかって床に尻もちをついていた。多分、女の子が角から飛び出してきたんだと思う。
わたしは慌てて二人に駆け寄った。
「二人とも、大丈夫!?」
「わ、わたしは平気です。。それよりも、あの子は。。」
「み みあも へーき。。」
よかった。。二人ともケガはないみたい。。
ほっと、胸をなでおろした。
「ミアー!」
「あ レオ!」
ふと、さっきの角から女の子と同い年ぐらいの赤髪の男の子が走ってきた。
あ、
「みあ だいじょーぶ!?けがしてない!?」
「う、うん。みあ へーき。」
男の子がそっと女の子のほうに寄った。兄妹なのかな。。。
男の子がライナちゃんのほうを見つめる。そして、女の子の手を引いて立ち上がった。
。。
「ほら みあ。おねーさんにあやまって。」
「うん。おねーさん ごめんなさい。。」
「わ、わあ、わたしは平気だよ!!ほら!ちょう元気!」
ライナちゃんが大きく手を広げた。それをみた二人は顔を合わせてほっと息をついた。
「あの じゃあ みあたちいくね。」
「ぼくたち おつかいいかなきゃいけないんだ。」
男の子がお辞儀をして、女の子の手を引きながら町のほうへと歩いていった。
「あ、気を付けてね。。!」
ライナちゃんが小さな手を大きく振った。女の子たちも笑いながら振り返してきた。少し、手を振った後に二人はまた手をつなぎながらにぎやかな町へと消えていった。
いいなあ。。
私はそんな二人の背中をつい見つめてしまった。
小さな女の子を守ってくれるお兄ちゃんみたいな男の子。
。。。似てる
「レイさん、どうしたんですか?」
気が付くと、ライナちゃんが私の袖を引っ張りながら心配そうに見てきた。
ライナちゃんのほうが大変だったのに。
「ううん。何でもないわ。」
私は自分の袖にくっついているライナちゃんの手を振り払った。
だめだな。私。心配してくれてるのに。でも、でも。
ライナちゃんを見ると思い出しちゃうんだ。あの子を。
でも、思い出しちゃだめだ。思い出したらつらいから。
もう、会えないから。もう、教えてくれないから。
自分でどうにかしなきゃ。
「帰りましょう。」
「あ、うん。。!」
私はライナちゃんのほうを見ずに帰りの道を歩き始めた。ライナちゃんも私のほうに小走りで追いかけてきた。ごめんね。私は歩く足を少し早めた。
そうだ、もう会えないんだった。ああ。もう一回だけでもいいから会いたいな。
さっきと同じ景色を虚ろな目で見つめながら私は歩いた。
「ノアは今どんな景色を見ているのかな。」
ポツリと小さな声でつぶやく。誰にも聞こえないぐらいに。そうなしたはずなのに。
「あの、すいません。」
ふと、聞き覚えのある声がした。安心するような優しい穏やかな声。いきおいよく顔を上げると、茶髪の髪にお日様を入れたような瞳をした背の高い男性がいた。
前よりも背が伸びたからか、一瞬誰かわからなかった。でも、この懐かしいお日様のにおいはあの子のだ。あの子しか知らない。
少しの間の後、私はどうにか声を振り絞った。
「ノア。。?」
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