猫と遺書

@KAIJIN2004

第1話 遺書

「にゃぁあん」

ゴロゴロと膝の上で彼女は鳴いた。


「こら、あんまり鳴くなよ。ご近所さんに迷惑だろ。って言ってもご近所さんなんていないんだけどな」


遠くに小さな火の塊と、建物が崩れるのが見えた。


「今回はこんなもんか、小さいな」


==============================

辺り一面瓦礫の山、視界を遮る高い建物が全くないこの世界は、まさに世紀末と呼ぶにふさわしい。

そんな中、奇妙に形を留めた10階建てのマンションの最上階に、俺はいる。

==============================


「書き出しはこんなもんでいいかな?リン」

彼女は眠たそうにこちらを見つめている。


「そんな顔するなよ。こんなご時世だ。俺も、いつ死ぬか分かったもんじゃない。」


「にやぁん」


「そうだろ?お前には読めないだろうけど、こうして書いておこうと思うんだ。いわゆる"遺書"ってやつだ。あいにく俺は目立ちたがり屋なんでね」


気に食わなかったのか、彼女は膝から降りてどこかへ行ってしまった。


「続きでも書くか。」


==============================

数え方が間違っていなければ、今年で20になる。

俺が生まれる少し前、人類には超能力が使える新しいタイプの人種が誕生した。

その新しいタイプの人間は当時の科学と、人々の需要に基づき、指数関数的に数を増やしていった。

争いも、それに比例して勃発した。

==============================


「リン、ほらご飯だぞ」


さっきの態度とは裏腹に、興味津々でこちらに駆け寄る彼女。


「お前ほんと手のひら返しがすごいよな。猫だからこの場合肉球になるのかな。」


そう言ってツナ缶をめくる。


「この遺書はさ、こんな争いを知らない遠い先の人とか、はたまた宇宙人とか。誰に見られてもいいように書きたいんだ。」


彼女は食べるのに夢中だ。


「色んな人に読んでもらいたいだろ?まあ理由はさっき言った通りさ。」


==============================

俺はその紛争の中生まれた。

こんな時代、俺はいつ死ぬか分からない。

だからこうして、俺が生きた証を残しておこうと思うんだ。

==============================

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る