ぐーたら冒険者は転生しても現代スローライフがやめられない。 ~魔王が待ち構えるラストダンジョンには、今日も俺宛ての宅配物が届きます~
藤原苺
第1話 ダンジョンに届く宅配便
全ての冒険者が目指す最果て、ラストダンジョン──
数多の踏破者を迎え撃つ魔王の待つこの場所に、今日も一人の珍客が訪れる。
ピンポーン!
魔王の宮殿に似つかわしくない、やけに軽快な電子音が鳴り響いた。
「いつもありがとうございます! ウンディーネ急便でーす! お荷物のゴブリン10体をお届けに参りましたー!」
「……はい。入り口に置いといて下さい……」
「置き配ッスね! あざしたー!」
インターホン越しに応対するのは、最強にして最恐と畏怖されるはずの悪魔王・ヴェルベローザ。
マントをはためかせる全ての悪魔の頂点に君臨するドラキュラ族の王、またの名をラスボス──
だが、その声に覇気は皆無だった。
ヴェルベローザは深い溜め息を溢しながら、重い足取りでダンジョン最奥に勝手に作られた一室へ向かった。
コンコン。
恐る恐るドアをノックし、ヴェルベローザは部屋の主に語りかける。
「あの~~、ボックさん? また荷物届いたって……」
反応はない。
もう一度、コンコンとノック。
「あの、聞いてる? 荷物が……」
すると……
「あーーーーっ!! もう、なんだよコウモリ! 今いいとこだったのに!!」
部屋の奥から絶叫と共にドカドカと足音が近付いてくる。
その直後、ガシャン!という大きな音とともに乱暴に扉が開かれた。
「いまランクマ中なんだけど! 荷物なら部屋の前に運んでくれよ!」
顔を出したのは、寝癖頭にジャージ姿、まだ若干のあどけなさが残る青年だった。
このラストダンジョンに勝手に居候するヴェルベローザの天敵、冒険者・ボックその人である。
彼はコントローラーを握りしめたまま、魔王を睨みつける。
「いや、そう言われましても…… 届いたのゴブリンなんですけど…… 汚いし臭いし入れたくないんですけど……」
「あー、ゴブリンね。そういや注文してたかも。それ、メロメのエサだから食べさせてあげて。それじゃ!」
バタンと音を立てて扉が閉まる。ボックは再び部屋の中へと帰っていった。
「メロメって…… 勝手に名付けてるけどあやつは我の使い魔のドラゴンなのだが……」
困り果てるヴェルベローザのその背後から、見知らぬ声が聞こえた。
「こんちは。今のが噂の冒険者ボック? それで貴方がこの通称ラストダンジョンのボス?」
「ひいぃっ!? ……だ、誰だ貴様!?」
音もなく背後に立っていた影に、ヴェルベローザがビクつく。もはや悪魔王としての威厳は無い。
そこには、ダンジョンに挑む者とは到底思えない、軽装に身を包んだ快活な少女が立っていた。
「私の名はナッコ! 世界的な報道機関の敏腕記者(自称)ですっ!」
「いやいや、え……? ここに来るまでのモンスターはどうした!? 貴様が一人で倒したのか!?」
「そんなの私には無理に決まってるじゃない! 見るからに可憐で華奢でしょう? だからこれでさ。凄腕の戦士雇ったのよね」
「可憐…… これが可憐……」
いたずらに微笑みながら、お金のジェスチャーと共にあっけらかんと語った。
すると、ナッコと名乗る少女は、ヴェルベローザを無視してボックの部屋を無理矢理こじ開けようとドアノブに手をかけた。
「ふんにゅっっー!! なんですかこれ! 全然開かない! あなた魔王でしょ!? ラスボスでしょ!? 魔法とか使って開けてくださいよ!」
しかしヴェルベローザは情けない声色で答える。
「それが無理なのだ。我が力を持ってしてもこの扉は開けられん。なにせヤツは…… あぁいや、ボックさんは最強過ぎだから! 実力差が有りすぎて敵わないから!」
まさかの一言に、ナッコは蔑むように目を細めながら言う。
「情けなっ! 魔王情けなっ!」
ナッコは呆れたように吐き捨てると、閃いたように手のひらをポンと叩いた。
そしてドアに向かって、先ほどとは違う猫なで声を張り上げる。
「あの~! 最強の冒険者さ~ん? 素っ晴らしいお噂は予々聞いてますよ~! 取材させてくれませんかー!! ちょっとだけでも!」
されども反応はない。それでも強引にナッコがドアを叩き続けると、どこからともなくボックの声が響いた。
「ねえ、なんなのこの子? コウモリは何してるの? 追い出してよ、仕事でしょ」
突如聞こえてきたボックの声に、ナッコは慌てながらドアに向かって叫んだ。
「あーーっ!! そうだそうだ! 肩とか凝ってませんか!! マッサージさせてください! 私そういうの得意なんですぅ~~ えへへ……」
少しの間を経て、どこか気の抜けたボックの声が響く。
「……へえ、そりゃいいね。ちょうど肩凝ってたところだし」
これ見よがしに、駄目押しでナッコはアピールを続けた。
「私はこう見えてマッサージの魔王なんて呼ばれたことも~~ あったりして~~ なかったりしてぇ~~ なんて……」
「……あーそう。じゃあ入っていいよ。コウモリの下手くそなマッサージにうんざりしてたとこだし」
カチャリ。
魔王があれだけ苦労しても開かなかった扉が、ナッコの猛烈アピールであっさりと解錠された。
「おおっ! お邪魔しまーっす!」
「そ、そんなバカな……!!」
ポンと跳ねるように片足を踏み入れ、スキップのような軽快な足取りで室内へと入っていくナッコ。
そして、室内を見渡した途端、ナッコは目を丸くして絶叫した。
「な、な、なっ……!! なんじゃこりゃー!!?」
そこには、異界から取り寄せた未知のアイテムが所狭しと並んでいた。
ナッコを払いのけて、部屋の前で立ち尽くすヴェルベローザにボックは再び指示を下した。
「コウモリはメロメにエサのゴブリンあげるの頼んだからね。忘れないでよ」
一方的にヴェルベローザに一言告げると、バタンと部屋の扉を閉めた。
「あ、どうも。私は敏腕記者のナッコと申します! よろしくどうぞ!」
ナッコがそう言いながら差し出した名刺を、ボックは一瞬だけ目を通して適当に机の上に投げた。
「すごーい!! なんなんですかこれ! 光る板に、変な箱……!」
「そっか、こっち側の世界じゃ珍しいよね。これはゲーミングPC。あとは漫画にフィギュア。俺が元々居た世界から取り寄せたんだよね」
「元々居た世界……!? わーっ! 待って待って! メモ取るので話をもっと聞かせてください!」
「マッサージしてくれるんでしょ? 俺はいまから撮り溜めたアニメ見るから、静かにお願いね」
ボックは高級そうなソファーに深く沈み込むと、大型モニターの電源を入れた。
「うひゃーっ!! なんですかこの不思議な鏡はっ!? と……それより! さっきの元居た世界って話、詳しく!」
ナッコはボックの肩をグイグイと揉みほぐしながら、食い気味に質問を飛ばす。
「あーそれね。俺ね、転生者ってやつなの。気づいたらいきなりレベル999でここに爆誕してたわけ。おまけに便利なスキル付き」
「ふむふむ、転生者っと…… つまりそれは異なる世界から生まれ変わった的なアレですね……」
「うん。それでさ、ここが転生地点だったんだよね。……てことは、実質ここが俺の実家みたいなもんじゃん? だから住んでるだけ」
「なるほどっ!! 魔王の宮殿が実家! くぅーーっ! 取材のしがいがあるなぁーっ! あ、すみませんメモさせてください!」
ナッコのメモを取るペンが火を吹く勢いで走る。
「ではでは、生まれ変わる前の事は覚えてるんですか!?」
その質問にボックは片肘をつき、考え込むような表情をしたまま唸るように答えた。
「ん~~~、それが俺にも分からないんだよね。前の記憶は自分の好きだったものくらいでさ。こっちで名乗ってる名前もアドリブというかインスピレーションというかさ……」
「ふむふむ、記憶喪失っと……」
「やっ、それはちょっと違うけどね!?」
ボックのツッコミを聞き流してメモをがつがつ書き進めると、一通りまとめたところでナッコがさらに質問を重ねる。
「貴方は冒険者なのですよね? 噂ではそう聞いてますけど。ずっとここに?」
ボックは頭をぽりぽりとかきむしり、気だるそうにしながら、気の抜けた声色でその質問に答えた。
「いや、初期ジョブ的にはそうかもだけど…… 俺はただのんびり過ごしたいだけ。夢や目標みたいな暑苦しいことも、なくはないけど。まぁ強いて言うなら……」
ナッコがペンを握る力が再び強まる。なにを言うのか聞き逃すまいと、神経を聴覚に集中させていた。
「強いて言うなら……!?」
「うん、この世界で〝レア種〟っていわれる珍しい生き物がいるのは知ってる? それを全て集めて飼ってみたい。そんなとこかな?」
「それはまたド派手な野望ですね!!」
こつんこつんとペンを乱れ書きする音が静かな室内で響く。
ボックはそんなナッコを物珍しそうな目で眺めていた。
するとそこへ、ドラゴンのメロメへの給仕を終えたヴェルベローザが、またしても困り顔で部屋の扉をノックした。
「あのー、エサやり終わりましたよ……。あと、置き配でまた新しい荷物が来てました……」
部屋にあるモニターには、入り口で身を縮めるヴェルベローザの映像。
大きな荷物と、それから血色の悪い手には小さな段ボールが抱えられている。
「おっ! やっと来たか!」
嬉々としてソファーから飛び上がるボック。
さっきまでの気怠げな様子とは打って変わって、目が少年のように輝いている。
ナッコが首を傾げて尋ねた。
「なにが来たんですか? 今度はグレムリン!? それともトロールですかっ!?」
「違うよ。倒さないであげてるのにコウモリがあまりにも使えないからね、メイドを雇おうと思っててさ。あとコウモリへのお仕置きの道具ね」
ボックはニヤリと笑うと、荷物を受け取りに向かいながら語った。
「はて? メイド? お仕置き道具……?」
ナッコのメモを走らせる手が、ピタリと止まった。
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