冬寂

@BAKENEKOTARO

第1話 少年の冬1

 日本には美しい四季がある。


「雪だー!」と母校の中学生のカップルが騒いだのを聞いて、雪野夏太ゆきのかんたは視線を上げた。

眼球いっぱいに広がる初雪に「もうそんな季節なのか」と冬に高校生とは思えない独り言を零した。


雪野にとっての冬とは1番の成長を与える季節だった。冬がこの雪野という人物を形成する全てを与えたと言っても過言ではないほどに。


雪野は、登下校で通るこの踏切に雪が少し乗るのを見て、頭の中から一つだけ飛び出してきた情景があった。


それは冬、いや春というべきか、その日は桜吹雪が吹いていてどちらとも言えるような日であった。その桜吹雪の中に君だけが冬へと消えていった。今でも君の声が脳に染み付いている。


「――――――まだダメだよ。」


そう聞こえたかと思えば、カンカンカンカンとやたら煩い警告音で意識が戻った。


「いつになったら……」


青年は電車がゴオォォッと風を切って進んでるのをみて、線路へ飛び込む妄想を繰り返していた。実行する気の無いただの妄想である。



家に着けば、自室に向かって着替える。家には母がいるが会話はない。母はキッチンで作業して、僕は18時前後に晩御飯を食べる。そして、風呂に入り、自由に過ごして寝る。


風呂から上がってベッドに座って机の上に置いてある写真に、お前が居なくなってからいつもの毎日がつまんなくて仕方ねぇよと少し笑って呟いた。外を見れば吹雪で、明日起きたら積もっているなぁと思いながら眠りについた。



翌日、窓を見れば予想どうり道には雪が積もっているのを確認し、リビングに向かっていつも通りの朝食を食べて自室に戻ると違和感を覚えた。


制服は何処……?


高校の制服がまるで最初からそこには無かったかのように消え失せていた。その代わりと言ってはなんだが、中学校の制服があった。意味の分からない現状に混乱していると、ピンポーンと高い音がなり、玄関までドタドタと走り抜けて、ガチャリとドアを開けた。ドアの向こうには、驚きながらも少し笑って


「そんなに私に早く会いたかったの?」


と意地悪そうにいった君、いや桔梗冬歌ききょうとうかがいた。俺はその景色に耐えられず、吐き気を催した。

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