「スライムすらテイムできない」と蔑まれた俺、実は「人型」なら100%テイムできると気づく。剣姫も王女も魔神も手懐けて、最強パーティー『我欲の権化』で世界を蹂躙します
@matu111000
第1話
「……ください。……きてください、レオン様」
甘く、とろけるような声が鼓膜を震わせる。
重いまぶたを持ち上げると、そこには世界中の男が羨むであろう絶世の美女の顔があった。
銀縁の眼鏡の奥、知的な瞳を潤ませ、陶酔しきった表情で俺を覗き込んでいるのは、俺の専属秘書イリスだ。
「おはようございます、私の愛しいご主人様。今日も世界で一番素敵です」
イリスは俺の頬に自分の頬をすり寄せながら、恍惚としたため息を漏らす。人前では冷徹な「氷の秘書」で通っている彼女も、俺と二人きりの寝室ではただの雌犬だ。
「……ん、朝か。イリス、水」
「はい、直ちに!」
俺が気だるげに指を動かすだけで、彼女は弾かれたように動き出し、適温の水を用意して跪きながら差し出す。
俺はレオン。かつてはスライムすらテイムできないと蔑まれた底辺冒険者。
だが今は違う。Sランクパーティー『我欲の権化』のリーダーにして、この屋敷の絶対的支配者だ。
着替え(もちろんイリスが全て行う)を済ませ、俺は大食堂へと向かう。
重厚な扉が開かれた瞬間、張り詰めた空気が肌を打った。
「「「「「「「「「「おはようございます、レオン様!!!」」」」」」」」」」
壮観だ。
長いテーブルの周りには、10人のメイドたち、そしてこの国の武力の頂点に立つSランク冒険者たちが、一斉にその場に片膝をつき、俺に頭を垂れているのだから。
「面を上げろ」
俺が椅子にドカッと座りながら許可を出すと、彼女たちは一斉に顔を上げた。その瞳に宿っているのは、絶対的な忠誠と、狂気じみた崇拝。
「レオン、今日の髪型も最高にかっこいいよ! あーもう、今すぐ襲いたいくらい!」
「こらシホ、抜け駆けはずるいですよ! レオン様! 私とハグしてください! ハグ!」
「……お二方とも、はしたないですわよ。レオン様、本日の紅茶は東方産の最高級茶葉です。お口に合うとよろしいのですが……」
黒髪ポニーテールの剣姫シホ、紫髪ショートの魔法使いラフィーネ、そして赤髪の王女リリティア。
国を動かすほどの力を持つ彼女たちが、俺の隣の席――「正妻の座」とも言うべき場所を目で牽制し合っている。火花が散るとはこのことだ。
毎朝見ている光景だ。
無視してフォークを手に取る。
「いただきます」
俺が一口料理を口に運ぶと、張り詰めていた空気が緩み、彼女たちもようやくカトラリーを手にした。俺が食べるまで、誰も食べない。それがこの屋敷のルール。
食後のコーヒーを啜っていると、背後に控えていたイリスが手帳を開いた。
「レオン様、本日のご予定ですが……ギルドへの定例報告を兼ねて、S級ダンジョン『魔の獄』の攻略が申請されております」
「ああ、あの面倒なやつか」
「はい。当クランの実力を定期的に示さねば、ギルド連中がうるさいですので」
「ちっ、だるいな」
俺はあからさまに舌打ちをした。働きたくない。一生この屋敷で美女に囲まれて寝ていたい。だが、クランの維持には名声が必要だ。
「……仕方ない。散歩ついでに行ってくるか」
「「「はいっ」」」
俺の言葉に、シホたちが頬を紅潮させて返事をする。
俺と出かけられる。ただそれだけのことで、彼女たちは至高の喜びを感じるように調教されている。
◇
「いってらっしゃいませ、ご主人様」
イリスとメイドたちの深い礼に見送られ、俺たちは屋敷を出た。
「それでは行きます!
ラフィーネが無詠唱で魔法を発動させる。視界が歪んだ次の瞬間、俺たちは既に禍々しい瘴気が漂う洞窟の入り口に立っていた。
S級ダンジョン「魔の獄」
通常のSランクパーティーですら攻略に一週間はかかり、生還率も低い死地。
「目標、日帰り。夕飯までには戻るぞ」
「りょーかい! レオンの手は煩わせないよ」
シホが愛刀の柄に手をかけ、嗜虐的な笑みを浮かべた。
ダンジョン攻略開始。……とは言っても、俺はただポケットに手を突っ込んで歩くだけだ。
「えい…! やっ!」
「『
シホが神速の抜刀でオーガの首を跳ね飛ばし、ラフィーネの極大魔法がドラゴンの群れを消し炭に変える。
俺に近づく敵など一匹もいない。万が一近づこうものなら、
「……『王家の盾』」
リリティアが展開した絶対防御の結界が、俺への攻撃を完全に遮断する。
「あーもうリリティア! 過保護すぎ! 今の私が斬れたし!」
「あらシホさん。レオン様の玉体に指一本でも触れさせたら万死に値しますわ。万が一埃でもついたらどうするのです?」
「そうですよシホ!もっと早く殲滅してくださいよらね!レオン様が退屈であくびしていますよ!」
彼女たちは競うように魔物を殺戮していく。
俺のために戦い、俺のために敵を殺し、俺に褒められたいと願う。
その姿は、魔物よりもよほど恐ろしい「怪物」に見えただろう。
結果、通常一週間かかる攻略は、わずか五時間で終了した。
最深部、ボス部屋。かつて多くの冒険者を葬った「深淵の魔竜」は、既に原型を留めていない肉塊となっていた。
「……ん」
俺はあくびを噛み殺しながら、魔竜の残骸のそばに転がっている虹色の石を爪先で小突いた。
虹色の魔石。これ一つで城が建つほどの国宝級アイテムだ。
「リリティア、拾っとけ。金にはなる」
「はい! 喜んで!」
一国の王女が、俺に言われるがまま、煤まみれになりながら地面に這いつくばって石を拾う。
俺にとってはどうでもいい石ころだ。だが、それを拾う彼女の姿は、俺の支配欲を心地よく満たしてくれる。
「帰るぞ」
◇
冒険者ギルドの重い扉を開けると、喧騒がピタリと止んだ。
昼下がりの酒場で管を巻いていた冒険者たちが、一斉に俺たちを見る。
かつて俺を「ゴミ拾いのレオン」と呼び、泥を投げつけた連中だ。
今、彼らの顔にあるのは侮蔑ではない。恐怖と、畏敬だ。
俺はカウンターまで歩き、ドン、とリリティアが持っていた袋を投げ出した。
中から転がり出たS級魔石やレア素材の山に、受付嬢が「ひっ」と悲鳴を上げる。
「さ、査定を……金貨100、いえ1000枚!……ちょ、ギルドマスターを呼んで!!」
パニックになるギルド内。
俺はそれを冷めた目で見下ろす。
「端金だがな」
吐き捨てるように言い、俺は後ろに控えるシホたちに顎をしゃくった。
「その金、全部やるよ。今日のオヤツ代にでもしろ」
「えっ、いいのレオン!? 大好き!」
「レオン様、太っ腹です……!」
並の冒険者の生涯賃金レベルの金を、子どもの小遣いのように渡す。
周囲の冒険者たちは開いた口が塞がらない様子だ。
ざまあみろ。お前らが一生かかっても拝めない景色を、俺は退屈な日常として消費している。用は済んだ。
俺が踵を返してギルドを出た時、路地裏の影から「ぬらり」と何かが湧き出た。
「……ッ! レオンに近づくな、下郎」
シホが瞬時に剣を抜き、殺気を放つ。
だが、俺は片手でそれを制した。
「よい。報告を聞こうか、ネムム」
影から現れたのは、小柄な少女の姿をした悪魔、ネムム。俺の4人目の「所有物」だ。
「御意……レオン様……」
ネムムはシホの殺気に怯えつつも、熱っぽい視線を俺に向けながら一枚の魔法写真を差し出した。
「隣国の『聖教国』……調査完了しました……。あちらが擁する『聖女』……やはり、種族は『人間(ヒューマン)』判定です……」
写真に写っていたのは、純白の法衣に身を包み、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる美しい少女。世界中の人々の希望の象徴。誰もが崇め、奉る、清廉潔白な聖女。
俺は写真を受け取り、ニヤリと口角を吊り上げた。
人間、か。
ならば、神の愛し子であろうと関係ない。俺のスキル「絶対服従」の前では、Sランク冒険者も、王女も、聖女も等しく「メス」に過ぎない。
俺は写真の中の聖女の顔を、汚すように親指でなぞった。
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