盗めなかったモノ
蠱毒 暦
無題 初ノ敗北ハ薔薇ノ香り
煌びやかだった場所は崩れ、辺りは炎で包まれている。
「……」
外敵を確実に殺さんとする冷徹な瞳
身の丈に合わない大きな銃を使い、傷だらけになろうとも挑み続けるその姿勢
美しい。やはり彼女はこうでなくては
「……ふ。」
所々から出血し、壁にもたれかかる私を見据え突撃銃を構えた。
そして……
………
……
…
彼女…ローズ・フォレストの話をしよう。
一見すると、金髪で灰色の瞳をした幼い少女
だが作者から盗んだ設定資料を見てみると、なんと実年齢は21歳。祖国に仇なす敵を、慈悲すら与えず駆逐する『アテナの映し身』
アテナ共和国の最終防衛ラインである、メティス平原から迫り来る列強国の連合部隊相手に1人で、戦線を押し留め、殲滅し続けるという異色の経歴を持つ軍人…らしい
ただ、今は全てを忘れさせて、『私の妻』になっているが……
「……」
私はシャッターが閉まったスーパー銭湯『
どうして詳しく知っているかと言えば、至極単純。本来なら、サブキャスト達を連れて来る連中がドジり仕方なく代役でこの私が『洗脳』して、直接『擬似世界』に連れて来たからである
確か…ルーレットの女神とスロゥとか言っていたな。『簒奪者』(ここでは泉様と言う方が通りがいいか)に出会える絶好のチャンスを逃したくないから、手伝ったというのに
裏口にあるドアの前で足を止めた。
……恐らく
鍵を挿し、ゆっくりとドアノブを回す。
既に友情=最強な
正直言って、気が進まないが…やるしかな
「侵入者!!!」
「ドアっぶっ!?」
勢いよく開いたドアに顔を殴打されて、悶絶しながら尻もちをついた。
「イテテ…っ!?」
顔を上げると、黒光する拳銃が僕のこめかみら辺にあって……!?
「僕だよ、僕、僕…!!
「姑息にも裏口から侵入者するとは、良い度胸だ。正々堂々…戦う気すらない軟弱者め。今、楽にしてや…ん。」
「何だ
改めて観察してみると、この形…『人狼』の持ってたものと似ているような……?
「なら、私の質問に正確に答えろ。今まで何処をほっつき歩いていた?」
「『箱庭世界』」
「…?
「元の居場所に帰した。」
「??…何だと?」
おっと。長く空けていたから『洗脳』が途切れかけているようだ
いつもは適当な機材に録音したものを使っているけど…ここで、道具を出す素ぶりをしようものなら、問答無用で発砲される可能性がある……なら、仕方ない
卑怯卑劣、正面突破こそ『怪盗』の華
……裏口侵入は、正面突破じゃないだろとツッコミを入れるのは勿論ナシだ
〜〜♬
今回は分かりやすいように表記しているが、私の体から発するこの音は本来、人間の聴力では絶対に聞き取る事は出来ない
今更だが、もし聞き取れるくらい大きければ、私は怪盗ではなく、音楽家の道を歩んでいた…かもしれないな
「どうしたの?」
「あ……いや。私はまだ寝ぼけているようだ。今の話は忘れてくれ。」
「そうかい。で…その拳銃はどっから?」
「……お客様の忘れ物だ。」
「後、その服装…あ、ちょっと!」
私の話を無視して、彼女は拳銃を持ったまま、踵を返して家の中に入っていく。
「…中に入らないのか?」
「は、入るさ…あはは。」
服装といい、『人狼』…私が所属している【零落園】のメンツが来ていた事に、不思議と妙な悪寒を覚えつつ、彼女の後を追った。
……
次に、私について話す。極秘情報だから、決して誰にも口外しないように。
ある時は『情報屋』
またある時は『警部』
そのまたある時は、謎の組織【零落園】序列第8位の『怪盗』
と、この通り…『箱庭世界』の中で活動している時の身分や姿は数あれど……
個人的に前のダサい名前より、気に入っているから聞かれた際、この名を使う事が多い
そんな私の正体は『旧キ神』
真名はポテフ
『簒奪者』に奪われた力を取り戻すべく、遥か彼方からやって来た異形生命体。『箱庭世界』における、人智を超越した邪神(?)の様な存在
なんだけどなぁ……
「お茶だ…熱いうちに飲め。」
「ありがとう。」
服装は置いておいて、2階の居住スペースは変わりないだろう…なんて思いながら、階段をヒイヒイ言って上がっていた、ちょっと前までの私を…殴りたい
「聞きたいんだけど、ここ…いつから軍の駐屯所みたいな感じに模様替えしたの?」
「最近だが?」
「最近…ねぇ。」
妙にリアルな感じに配置されたミリタリーグッズ達を眺めつつ、お茶を啜る私の前に1枚の紙が置かれた。
「【絆を深め合え!2026年新春夫婦限定サバゲーフェス】…?」
「銭湯の常連様から貰った。サバゲーなど、銭湯の女主人の私には縁のない話だが…不思議と興味をそそられてな。」
夫と妻のタッグで、最大12チーム。応募締切は今日まで…か
「僕はちょっと…」
「これで応募出来るな。開催日も私達の結婚記念日と一致している…放浪の旅ばかりで、構ってくれなかった分、私に付き合え。」
正体を知らないとはいえ、私を脅迫するとは…無知とは恐ろしいものだ。
〜〜♬
彼女には悪いが、これ以上の関わり合いはするべきではない。再会しただけで…こんなにも、私の決意が鈍ってしまうのだから。
「じゃあ…行こうか。」
「決まりだな…装備も用意してある。運動不足気味な新死の背中は私が守ろう。」
………んん?何故、『洗脳』が効かない?あ、あれ…こんな事例は…っ!?!?
考えに耽っていて不覚にも、彼女が椅子から立ち上がって机の上に乗った事に気づかず、小さな手からはあり得ないくらいの強い握力で、私の首を絞め上げられていた。
「こうでもしないと寝ないだろう?明日は早朝出発だ…ふ。心が踊るな。」
「ぐぁ…がっ……ぁ」
……ぐ…グルジィ……元の姿なら…いざ知らず、人のカタチ…変装してるからっ…意識が
……
『ナハハッ!司会の……でありまぁす!!』
『ルールは至ってシンプル…何でもアリで…』
『これはアドバイス……ただ戦うだけじゃ…でありますよ。』
『前置きが長く……12組……半分以上、年齢詐称や…で、失格…』
『では…スタートでありまぁす!!』
「
「……ん」
「…あ。」
体を起こし、窓から外を眺める。
「遊園地…観覧車の中……中?」
寝起きは全くと頭が回らない私ではあるが、流石に目が覚めて、彼女を見た。
「ここ…どこ?」
右隣でずっと私の服の裾を摘んでいた彼女が、呟くように言う。
「遊園地エリア。4つの区画の内…の1つ。私達は、この場所から始まった。」
気を失う直前に見た【絆を深め合え!2026年新春夫婦限定サバゲーフェス】についての紙が脳裏を過ぎる。
「
「いいよ。」
さっさと敗退した方が私にとって、都合は良かった…しかし
『ルールは至ってシンプル…何でもアリで…』
意識がないなりに聞こえた、あの聞き覚えがあるような言葉が正しければ、無闇に動くと場合によっては最悪…いや、所詮はゲームだ
「僕さ。気絶してたから全然、内容を知らないんだけど…詳細を教えてくれないかな。」
「…了解した」
胸ポケットから端末を取り出して、私に渡す。
「…んー。」
誰が仕組んだのかは知らないが、ろくな奴ではないのは確か…自分の事は言えないけど
「新死…1番上を押せ。」
「あ、そうなの?」
「相変わらず、ガラケー派なのだな。」
彼女に言われるままに、端末を操作すると…ルールについての情報が出てきた。
『エリアは全部で4つ。遊園地、病院、商店街、火葬場となる。』
『エリア外に出る事以外はルール無用』
『武器弾薬等はエリアの各所に配置している』
『制限時間なし』
『優勝した夫婦に特典を授与する』
サバゲーの詳細はよく分からないが、明らかに場所のチョイスがおかしいくらい分かる
ルールも、やけにあっさりしてて……あぁ
「……そういう。」
「……?」
私は席から立ち上がり、丁度、1番下に戻り出口が開いたのを見て、彼女の左手を取った。
「とりあえず出よっか。」
「あ、ああ…武器を調達しなければな。」
……
「わーーー!!!」
「……」
「きゃぁーーー!!!」
「……?」
「何これ、回る回る回ってる!?!?ふぎゃぁぁぁぁぁあーーーー!!!!」
「……??」
「の…乗り過ぎた。うぷっ…吐きそう。」
「……
「お、おぇぇぇ…」
「っ…少し待ってろ、水を持って来る。」
そうして遊園地の施設を存分に堪能し、お土産屋の、UFOキャッチャーで遊んでいると、後ろから彼女に声をかけられた。
「本当に…何をやっているのだ。新死…こんな事をしている暇は」
「あるよ…よし、落ちた!」
昔懐かしな音楽が流れつつ、取り出し口から、1本のチョコレートバーを手に取る。
「このチョコレートバーはさ、創業当時からずっと変わらない味なんだ。」
袋から出して、半分に折って彼女に渡した。
「食べてみな?」
「食べ物に恨みはない…か。っ……これは!」
「美味しいでしょ?僕の残りもあげる。食べ終わったら、次のエリアに向かおう。」
……私の蒐集品の1品として、今後もこの世界に放置して置いてもいいんじゃないか?
無表情ながらも、幸せそうに食べる姿を見て、私は思い…そう思ってしまう自分の甘さに内心、失笑した。
「でも…美しくない。」
「……?」
……
「次は何処へいく?」
「……病院かな。」
「なら、真っ直ぐだな。」
彼女がしれっと遊園地巡りで手に入れていた地図を頼りに、次のエリアへ
「お…雨が降り始めたし、早く入ろう。」
「……新死、すまない。」
「え?」
病院の入口に入ろうとした瞬間、彼女が私に回し蹴りを放った。
「……っ!?」
地面を転がり、すぐに顔を上げると…彼女の下腹部に1本の矢が刺さり、それでも彼女は、目線を下げず、ただ真っ直ぐに見つめていた。
「あっ…白髪の人じゃなかったんだ…無駄に戦力を削っちゃったな。」
自動ドアが開いて見えたのは、黒色のボロボロでツギハギな雨ガッパを着た黒髪黒目の少女…外見は違うが、見間違える筈もない。
カラカラカラ…
———
黒幕を殺す前…周りに仲間がいて、文字通りの『荷物持ち』だった
仲間からの意思を託され、1人で黒幕を殺した後…雨が降り続く中、黒色の雨ガッパを着続け、ゾンビや変異種を殲滅し続けた
並行世界において、ゾンビに食い殺され、先天的な完全適合者だった故に暴走し、日本どころか世界ごと滅ぼした
『怪盗』が元の世界に返したのは…あくまでも現在、黒幕系館長の部下として、博物館で働いている
「……っ。」
考えてる暇はない。一手遅れれば、彼女が死ぬ
「こっちを見ろ!橘 雨天!!」
「…え?」
〜〜♬
橘 雨天は人間だ。これは…効くはず
「……?まあいいや。先にこの金髪の人を…」
「な…なぁ!?」
まただ。どうして『洗脳』が……ぐっ。私の蒐集品が目の前で壊されるくらいなら…!!!
カラカラカラ……
「到着っと…ダメじゃないか、橘ちゃん。」
右腕と両足が付け根から存在していない。
灰色の目隠し。
ボサボサの長い白黒のまだら髪。
車椅子に座り、高校の制服を着ている。
思考が止まりかけ…私の表情が自然と歪む。
見間違えも何もこんな人間は1人しかない。『箱庭世界』で、毎度毎度、蒐集品集めの邪魔する宿敵
謎の組織【零落園】序列 第7位
『悟り探偵』
「
一瞬だけ、目隠しを取り…その薄い青色の瞳で私と彼女を一瞥し、すぐに戻した。
「…うん。彼は私の知人だ。そこの金髪の子もね。サバゲーの癖に、まるで武装もしてないようだし、中に入れてあげようよ。」
「そうね…数は多ければ多い程いいし…」
2人で話し合いをしている内に、私は彼女に近寄る。
「平気…じゃないよな。」
「丁寧に毒が塗られている…あの少女、中々にやる…が、
表情は青ざめ、小声で弱々しく呟く。
吐血し…今にも倒れそうな姿を見て、私は…私、は。
「っ…仲間にでも何でもなる!!その代わりに、私の妻を治療しろ。壊…殺したら、絶対に許さないからな。」
「…決まりだね。」
……
切羽詰まっていたとはいえ、『悟り探偵』の口車に乗ってしまった。一生の恥だ…それにこれから、何をさせられるか想像もつかない
手術室の光が暗くなり、扉が開いた。
カラカラカラ
「お疲れ様…ひとまず峠は越えたよ。彼女は解毒薬を投与して、隣の部屋に寝かせたし…橘ちゃんも側で見てるから、安心するといい。」
「安心か…はっ。人質の間違いだろう?」
「道すがら、話をしよっか。」
車椅子を蹴りたくなる衝動を抑えて、手術室前のイスから立ち上がり、隣を歩く
カラカラカラ……
「君はもう知っての通り…これはただのサバゲーなんかじゃない。幸福の為に他者を蹴落とし、幸せな家庭を築く」
「戦争…だが」
「少し違う…ってね。
「大方…各エリアごとに、お互いに幸せを感じなければ…どんなに殺して、2人だけになっても…最後は優勝出来ないとかだろう?」
「ふふ。流石だ。」
カラカラカラ…
「『これはアドバイスであります。ただ戦うだけじゃ、意味がないでありますよ。』……やれやれ。【零落園】序列第1位の彼らしい、無茶振りだと思わないかい?」
「『自由人』…か。道理で聞き覚えがあった筈だ。」
この世界に来ていたのか…アレの好奇心をくすぐる何かがあったのか…はたまた……ぁ?
『悟り探偵』が適当な病室の前で足を止め、私も足を止める。
「勿体ぶらずに教えろ…『悟り探偵』。『自由人』はどうなった?」
自由奔放、縦横無尽に動き回るアレがこのサバゲーの司会なら、喧しく何度もアナウンスしてもおかしくない。寧ろ…何もしないのは
「破綻したんだよ。」
違和感でしか……
「……は?」
『悟り探偵』が左手で病室の扉を開けて、その惨状を私に見せつけた。
「このゲーム開始直後…『自由人』や私達以外の人達はなす術もなく殺された。生存者は…私達と殺した1人を含めた5人だけさ。」
病室にあったのは…積み重ねられた死体の山だった。
……
「まっ…破綻したっていうのは厳密に言うと少し違うけどね…勝利条件は残っているよ。」と『悟り探偵』に言われ説明を受けた後、手術室を訪れた。
「ここで、大人しくしててね…その…あの時は、ごめんなさい。」
「いい。私も同じ立場ならそうした…だから、悪くはない…ん。
すれ違う間際、小さな声で「さよなら」と呟き、走り去って行った。
「傷は…痛む?」
「ズキズキと痛む…解毒は」
不意に私の右手を掴むと、彼女の左頬に触れさせ…安堵の息を漏らした。
「温かい…お互い、何とか生きているようだな。」
「…ああ。冷んやりしてずっと触っていたいくらいだ。」
「お…ぅ…せ、セクハラか?」
珍しく動揺した彼女が手を離すと同時に、建物がカタカタと揺れ始め…『悟り探偵』の計画通りに、接敵してしまったのだと察した。
「……立って歩けるか?」
「?」
冷たい目のまま、首を傾げる姿につい魅了されかけるが……
「説明する暇はない…悪いっ!」
彼女を抱き抱えて、事前に手術室に用意された隠し扉から裏口へ出る。
「っ…勇敢なのは嫌いじゃない…が、後で説明を要求する…覚悟しておくといい。」
「これが終わったら…幾らでも文句は受け付けるよ。」
……
カツカツと足音が聞こえる…これは、残党である私達を狩りにやって来た死の足音だ。
とはいえ…ここで死んでも、元の世界に戻されるだけなのだから、死にはしない…というのは欺瞞だね。
元の私や
この身、この魂はIFの存在。
……橘ちゃんだってそう。
絶望と恐怖に震え、大事な人を目の前で喪い、心が砕けそうな私達は…どこまでいっても私達しかしないのだから。
「ここで負けると知っていても、圭の敵討ちがしたい…だなんて。らしくない事をしようとしてるのは分かってるさ…橘ちゃんも、本当にいいのかい?絶対に死ぬけど。」
「目の前で2度も
「それはそれ…これはこれさ。さて…どうなることやら。」
結末はもう分かっているけど……悲しいね。
————さようなら。
「…今!」
「はい!!」
……
…
病院の方向から爆発する音が聞こえても、走り続ける。
『いいかい?君達は残り2つのエリアに向かうんだ。夫もいなくて、勝利条件を満たせない私達は、こちらを察知してこれから来るであろう…彼女相手に時間稼ぎをする。』
『その彼女の名前を教えておく…名前は』
———
「はぁ…っ…はぁ…!」
「前よりも体力が上がっている…喜ばしいな。」
私はその名を知っている…佐藤 やまねの姉
最弱にして最強な矛盾の塊——『本物の化物』
開始早々、なす術もなく殺されて当然だ
神や悪魔、数多ある異世界の頂点に君臨する選ばれし『超越者』も、数多ある異世界を滅さんとするテロ組織集団である『剪定者』ですら、アレの前では単なる雑兵に成り下がる
「ひぃ…ううっ…それは…どうも…ぜぇ…はぁ…」
「右に曲がり、後は真っ直ぐ前進だ!」
狙いは十中八九、私だ。前に弟に変装し演じた私を殺す為、縁のはるばる…さも当たり前の様に侵入して……チッ、ブラコンめっ!!!
「到着したのか……これは。」
雨が止み、足を止めた。
「はぁ…ぜぇ……これが、商店街…?」
入口のゲートは血に染まり、殆どの建物が倒壊し、活気があるどころか、死の匂いで充満していた。
……
「そろそろ降ろしていいぞ」と言われた私は、彼女を降ろし、商店街跡地の探索を開始した。
まことお兄ちゃん!来たよ!!ほら、きんぱつのおねーさん!!
え、本当か?よく生き残れたなぁ…すげぇ。
となりのひとは…だれっ?だれっ??
「2人とも息災だったか。隣の男は男しては軟弱者だが、いざとなったら頼りになる…そんな、私の夫だ。」
各エリアごとに、お互いが幸せを感じなければ…優勝出来ない。この雰囲気で優勝だなんて
トリック・オア・トリート♪♪
こらこら、ハロウィンはまだだぞ♪うりうり〜あ。こほんっ…白髪の人相手によく…ここまで
きゃわわ〜♪♪くすぐったーい。
「運が良かっただけだ。」
「……?」
さっきから、彼女は誰と話をしているんだ…?
僕ら…これから火葬場に行くんですが…一緒に行きます?白髪の人のこともありますし、急いだ方が…
きんぱつのおねーさんも…どう?
「いいな。ここは雰囲気も最悪だ…嫌な感じがする。」
「誰と話をしているんだ…?」
「銭湯の常連客様だ。この2人にサバゲーについての話を聞いた……新死には見えないのか?」
うんうんと頷くと、私の目を疑う様な目つきで睨まれた。
「まあ…いい。とにかく火葬場へ行こう。」
やったー♪♪
「え。いやでも…」
「……どうした?」
そうか。各エリアごとに、お互いが幸せを感じなければ…優勝出来ない事を彼女は知らない。
「…あのさ。」
偽りの言葉で、幸せを感じたように取り繕って欲しくない
偽りの愛を…囁いて欲しくない
演技ではなく、本当の気持ちを見せて欲しい
「………何でもない。行こうか。」
「……?よし、行こうか。」
最悪…また商店街に戻ればいいだけの話だ。今は少しでもアレとの距離を離した方がいいかもしれない
……
…
道中、彼女が誰かと話しているようで気がかりだったがアレが来る事もなく、到着した。
「私は夫と話をする……先に行って、責務を果たせ。」
火葬場はまだ誰も来ていなかったらしく、中は綺麗なままだった。
えー。もっと話したいよー。
……分かりました。奥で待機してるリリアさんの所に行きますね。
あー!!!まことお兄ちゃん、ずっるーい!!!まってよ〜〜〜〜!!!!!
厳粛な空気の中…歩き、ふと背中に硬い感触が当たったのを感じて、振り返ろうと…
「動くな。」
私は両手を上げる
「な、何の真似かな…冗談なら、今やっている暇は…いづっ!?」
腹部から銃弾が貫通し、出血する。
「冗談を1度でも言った事があるか?質問に答えろ。
「ひ、酷いな…なら、先に聞かせて欲し……づぁっ!?!?」
再度、腹部から銃弾が貫通し、2つの穴から、血がドバドバと吹き出した。
「泉様とやらから聞いた。この程度では…死なないのだろう?」
「あ、はは。」
『簒奪者』の入れ知恵か…なら
———さようなら。
全身に怖気が走り、咄嗟に私を狙って放たれたであろうサバイバルナイフを、間一髪で横に避けて駆け出す。
ドスッ…
追撃で放たれた、右太もも、左脇腹、右肩に被弾しつつ、逃げようと…
「鬱陶しい…邪魔ですね。」
「ぐ…かふっ。」
ドシャッ…という音で、振り返り……私は言葉を失った。
彼女が頸動脈から大量の血を流し、倒れている
……その瞬間やっと気づいた。
あれは、私を狙って撃ったのではなく……
私を…守るため……に?
「あ、あぁ…あアアッ!?!?」
「さような…」
2本のサバイバルナイフを持ったアレに、一瞬で距離を詰められ、諦めて目を閉じた。
…
……
………ん?
いつまでも何も起きない事に気づき、目を開けると、彼女どころか誰もいなくなっていて、1人の中年っぽい男がこちらに歩いて来る。
神職の服を纏い、胡散臭さと不吉さを隠そうとしないその雰囲気から…私は同じく【零落園】に所属している序列第9位
ひょんな事で若かりし頃の彼に、適当にネットで調べた詐欺のノウハウを画面越しから教え、今や私以上となった…天下無双の『詐欺師』
天涯孤独の身ではあるが、息子と呼べるべき存在…そんな彼が私の前に止まり、嬉しそうにニヤッと笑う。
「いい加減、頭のそれ外せよ(笑)」
「は…ああ!?!?!?」
気づけば…彼女と同じ寝室にいて、◾️の両手にはヘルメットの様な物があり…
「やっと起きたか…新死。」
その隣に、同じくヘルメットを持った彼女が寝ていて…全身に包帯が巻かれ、その痛みで今まで、忘れ去させられていた記憶が蘇り、◾️は苦笑いを浮かべた。
……
花は水を選ぶという。彼女がいた世界から盗み出し、◾️の
だが…元の世界に戻せば、安息の日々が終わり、彼女の世界はまた【白黒】に戻ってしまう
今まで放置し続けたのはひとえに、たとえ美しくなくても、名残惜しいというか…勿体無いというか……うん。憐憫に近い気持ちが勝ってしまっていたのだ
それでもと…花形 羅佳奈を『箱庭世界』に戻した後、決心した◾️は結婚記念日の当日。式を挙げた教会に彼女を呼び出して、『洗脳』を解き、元の世界へと戻そうとした。だが…
「失敗した…か。」
その後は何となくだが、このヘルメットの様な機械といい…彼が登場した時点で想像がつく
最初から…確か、VR空間(?)と呼ぶのだろうか。そんな場所に放り込まれ…サバゲーでは、彼女も含め、全員が共犯者だった…と
なら『洗脳』も効かない筈だ
でも理由が分からない。どうして彼女は、瀕死だった◾️を殺さなかったのだろう?
「…最初は殺そうとした。不思議な力で私を操り祖国から変な世界へと誘った相手だ。だが…試したくなった。」
「…!」
「新死がここから出て行く前の数日間…お前は別に私に何かをする事もなく、【白黒】じゃない色に溢れた世界を見せてくれた…だから。」
彼女は◾️の体に優しく抱きつき、僅かに頬を赤らめながら、至近距離で呟いた。
「改めて感謝する…一時でも私に色を取り戻してくれて。夫になってくれて…あ…ありが…あうっ!?」
彼女を抱き返し、◾️は微笑む。
「こちらこそ。少しの間、僕の
頭で理解しても…手放したくないものだな
………
……
…
『箱庭世界』某海域 水深759m
スーパーボッチ潜水艦『ノーチラス改二』書庫
◾️は彼女を元の世界に戻し、彼女は◾️の事を忘れ、元の世界へと帰った
銭湯は別の奴に任せた
もう関わる事はないだろう
「ふ。次こそは…完璧に盗むさ。」
しれっと持ち帰った家族アルバムを眺め、赤い薔薇と、2つの結婚指輪を挟み…本棚に戻す
了
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